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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
灯刀那岐編
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第28話 対決、怪人バッド

 ある日、アクトナイトが邪悪なエナジーを感知した。それは怪人ではなく、メルバド星の王子メノル直属の三銃士バッドのエナジーだった。


 信太郎はエアボードに乗って、バッドのいる場所に飛んでいた。


「まるで俺たちに気付いて欲しいかのように、分かりやすくエナジーを発生させている…信太郎、これは罠かもしれない」


「将矢と奏芽はまた繋がらないし千夏はボードモードが壊れててすぐには到着しそうにない…チッ」

「トロワマテリアルの故障に関しては俺に非がある。千夏を責めないでくれ」


「アクトブレイドだって将矢が持ってるのに…絶対勝てないぞこれ」


 勝算はない。絶対に痛い目を見て負ける。しかしやるしかないのだと自分に言い聞かせる。

 信太郎の意思で動くエアボードは止まることなく、バッドを目指して空を走った。




 足元が不自由な海沿いの岩場で、バッドはエナジーを放出していた。


 遠くの空に信太郎を見つけると、ニヤリと笑って手を振った。



「あれ?お前だけなのか?」

「他は遅れてくる」


 信太郎が変身しようとソードとマテリアルを構えると、バッドは手の平を突き出して待ったをかけた。


「ストーップ!…どうせ今やったって俺が勝つのに違いはねぇ。戦うのは仲間が来てからだ。それから来るまで暇になるだろうから、少し話さねえか?」


 仲間が来るまで待ってから、コンビネーション攻撃で倒せると考えた信太郎は、バッドと話すことを選んだ。



「ついでに何か情報を聞き出せるかも。話してみるよ」

「話術による精神攻撃に気をつけるんだ」



 信太郎はアクトナイトの助言を忘れないようにして、一度武器を持つ手を降ろした。


「いいよ、話そう。どうして地球に攻めて来るの?」


「おぉ、いきなり質問かよ。まあどうしてって言われてもなぁ…アクトナイトが死んだから今度こそこの星を侵略するって意気込んでたけど」

「侵略するって…悪いことだろそれ!」

「悪いこと…だよなぁ。実際、メルバド星人のやつら侵略(それ)のために生きてるような生命体だし。そこんとこ擁護出来ねえな…宇宙にいちゃいけない悪だ、あいつらは」


 バッドは座りやすい岩に腰を降ろして、呆れた風に話していた。


「まあ許してやってくれよ。それがメルバド星人なんだ」

「なに他人事みたいに…あんた達のせいで街は滅茶苦茶になったんだぞ!」

「街の一つぐらい良いじゃねえかケチくせえ。それじゃあこっちから質問だ。お前、俺の仲間にならねえか?」


「アクトナイトどうしよう!?こいつと話してるとすげえイライラする!」

「落ち着け信太郎!相手のペースに乗せられるな!」


 信太郎は一度深呼吸をして冷静になると、バッドの誘いをキッパリと断った。


「誰がお前たちの仲間になるか!」

「そうか…残念だ。同類だと思ったんだけどなぁ」



 波が岩肌を打つ音が聞こえて来る。例えアクトベイトをしていても、自然の脅威である海に飲み込まれたら一溜りもないだろう。



「信太郎、危険を感じたら撤退するんだぞ」

「今にも逃げ出したいよ全く…くそ!アクトベイト!」

「おいまだ誰も来てねえぞ…まあいいか」


 信太郎が変身しようとすると、バッドもメルバソードとカイジンマテリアルを持って同じように準備した。


「理を超える神秘の力!アクトナイトセルナ!」


「残虐の限りを尽くす怪人の力!メルバナイトカイジン!」



 変身が完了したと同時に、セルナとカイジンはバッタのように岩から岩へと跳び移った。

 セルナはカイジンの近くまで接近すると、小細工なしの直線的な攻撃を仕掛けた。


「はぁっ!」


 ガギィン!という音を響かせ、両者の刃が衝突する。カイジンは攻撃を防ぎ、痺れる手を見つめた。


「前よりは強くなってるみたいだな」


 間髪入れず、セルナは敵の腹部に目掛けて蹴りを入れた。


 しかし変身して強くなっていても所詮は蹴りだ。剣で戦う戦士アクトナイトセルナの足はカイジンの横っ腹に命中していたが、大したことはなかった。



 カイジンはジャンプして跳び上がる。そして高速の縦回転で勢いの付いたキックを繰り出した。

 セルナは防御しようと身構えるが、強烈な一撃は防御を突き破って地面に叩き伏せられた。


「必殺のスクリューキックだ!こんなのも耐えらんねえのかよ」


「油断しただけだ!」


 セルナは威勢よく立ち上がり剣を振る。


 それを合図に、救援に駆けつけたアニマテリアルたちがカイジンに奇襲を仕掛けた。


「なんだこのちび動物は!」


 セルナに注目していたカイジンに対して、アニマテリアルの奇襲は成功した。

 そして小さな戦士に気を取られているカイジンに、セルナは再び剣を振った。


「くらえ!」

「ぐぅ!こんなやつらがいたとはな…!」



 カイジンの攻撃を予知したアニマテリアルたちは一斉に逃げ出していく。


 次の瞬間、カイジンは全方位に向かって身体から鋭いニードルを伸ばした。


「ハリネズミかよこいつ!」


 セルナは後方へとステップして間一髪でニードルを回避する。

 そんな彼の肩に、アニマテリアルのファルコンが力添えをしようと降りてきた。


「信太郎、ファルコンの力を使え!」

「ああ!…俺一人でも何とかしてみせる!」


 セルナはアクトソードに変形したファルコンをセットした。

 するとセルナの背中から光の粒子で構成された翼が現れた。


 イーグルの力で空を飛んでいた那岐のように、セルナもファルコンの力で空中戦が可能となったのだ。


「おもしれえ…だったらこっちも!」


 それを見たカイジンも、禍々しい形をした翼を背中から生やして空へと上がった。


「あいつも飛べるのか…」

「だけどあいつはただの翼!こっちはファルコンの力だ!」


 セルナも空を掴んで空へと舞い上がる。そしてカイジンの真下から剣を立てて急接近した。


「あぶねえ!」


 セルナの攻撃は避けられ、そのまま空へ上がって行くかと思えた。

 だがファルコンの力は翼だけではない。セルナにはファルコンと同じように鋭い爪を持った足が形成されていた。


 その鋭い爪で、セルナはカイジンを捕らえる。そして頭部めがけて剣を勢いよく突き降ろした。


「もらった!」

「やられるかよ!」


 突然、カイジンの頭から角のような物が現れる。それは迫る刃を弾き、セルナの左肩を目掛けて更に伸びた。


「肩がっ!」

「このまま肩を破いてやるよ!」


 突き刺さった角は、そのままドリルの様に高速回転を始めた。


「ペインカット!」


 肩はアクトナイトに治してもらえばいい。

 信太郎は覚悟を決めて、セルナの力で左半身の痛覚を遮断した。


 そして右手で持った剣で、カイジンを何度も殴った。


 殴られ続けたカイジンの方は痛みに耐えられず角を抜くと、セルナから離れていった。


「往生際が悪ぃな!」

「ワッパーサークル!」


 セルナは剣を掲げて、頭上に何度も円を描いた。そこから発射された円、ワッパーサークルはカイジンを捕らえてその場に固定した。


「そこで大人しくしてろ!」

「な、離せ!」


 カイジンを完全に固定したセルナは、物凄い速さで上昇していった。



「この一撃で決めるしかない!」


 雲に触れるギリギリのところで滞空したセルナは、ファルコンのアニマテリアルを膝で叩く。

 そして小さく見えるカイジンに剣先を向けた。


「ラピットリーに狩るぜファルコン!セルナ!ファルコンスラッシュ!」

「いい口上だ!やれ、信太郎!」



 セルナはそのままカイジンの元へと急降下していく。その時速は100、200とどんどん上昇していき、カイジンを間近にした時には400kmにまで到達していた。


「…!」


 これまで体感したことのない速度の中で、信太郎は敵を狙うのに精一杯だった。



 セルナの刃はカイジンに突き刺さると、そのまま荒れた海に向かって進み続けた。


「ぐあああ!」

「…!」


 ドボン!という音を立てて海中へと移って間もなく、二人は海底に到達した。



「やったか…」


 叩きつけられた海の底でカイジンはピクリとも動かなくなった。


「信太郎、ゆっくりと浮上するんだ」

「分かってる。水圧で危ないんでしょ、科学で習ってるよ…ゆっくり…ゆっくり…」


 セルナはバリアに身を包んで、身体に負担が掛からないように注意しながら海面に浮上した。



 海上では赤い翼を広げた一人の少女が待っていた。


「…遅かったじゃん。俺一人で倒しちゃったよ」

「ふん…」



 那岐に引き上げられ、信太郎は先程の岩場まで戻って来た。

 そこではスポーツドリンクやタオルを用意した昇士が待っていた。


「あれ?もう終わったの?…って信太郎!お前腕どうしたんだよ!もげてんじゃん!」

「あれ?いつの間に…」

「こいつ一人でも倒せたのなら大した敵じゃなかったみたいね」


 相変わらず言葉に刺がある那岐。しかし先程海から引き上げてくれた時、信太郎は彼女の変化を感じていた。


「あぁ~海水飲んじゃった。ぺっ」

「信太郎、これ飲んで」


 昇士からペットボトルを受け取ると、信太郎はゴクゴクと喉を鳴らして水分補給をした。




 こうして三銃士の一人、バッドは信太郎の手によって見事に倒されたのだった。




「んなわけあるかよ…」


「お前!生きてたのか!?」


 倒したはずのバッドが崖を登って再び姿を現した。胸には大きな穴が開いていて、地球人なら間違いなく死んでいるような傷だった。


「やっぱり宇宙人だからこれぐらいじゃ…アクトナイト!もう一度だ!エナジーを!」

「駄目だ信太郎、クールタイムを挟まないアクトベイトは危険だ。それに今は痛覚を遮断することを優先するべきだ!」


 最後の攻撃で信太郎は左腕を失っている。痛覚が戻ればショックで倒れてしまうだろうし、ここで変身して戦っても足手まといにしかならないだろう。


 ここは那岐に任せろと、昇士は信太郎を連れて岩陰に避難した。




「手負いだからって容赦しない。確実に殺すわ」

「やれるもんならやってみろ」


 メルバソードは刃の根元から折れていた。マテリアルはセットされているが、もう変身することは出来ないと、生身のバッドが教えていた。


 これ以上の手は打たせない。那岐は地面を蹴って高速で滑空し、バッドに刀を振りに行く。


 だがバッドは両腕を胸の前で交差させると、雄叫びをあげた。

 そして彼を中心に強い風が発生し、翼を広げていた那岐は風に吹かれて後退した。


「うおあああああ!」

「何…!?」


 バッドの身体が変化していき、先程とは全く違う姿の怪人へと変化した。


「これが俺の怪人態だ。カッコいいだろ」


 怪人となったバッド。頭部にはドリル。右腕には刃が形成され、左手は大きく不気味に変化していた。



 那岐は空中で姿勢を取り戻し、再度攻撃を仕掛けた。


「姿が変わったからなんだって言うのよ」


 バッドが突き出した右腕を弾き、那岐は刀を振り下ろす。

 しかしバッドは大きな左手で刀を受け止めた。頭部のドリルをギュイィィンと音を立てて回転させ、ゆっくりと那岐に近付けた。


「こいつ!」


 刀を手放した那岐は地面に足が付く前に、何回も蹴りを繰り返した。


 そして怯んだバッドから刀を取り戻しすと、高い位置に飛び上がった。


「生身のくせにやるじゃねえか…」

「ダディとマミィから教わった宇宙警察流拳法よ」



 那岐は威嚇するつもりでその場で正拳突きをしてみせたが、岩陰の昇士には可愛く見えていた。



 バッドのドリルが花のつぼみのように展開する。その中から現れたのは筒状の器官だった。


「あれは…まさか!」


 攻撃を予感した那岐は翼をはためかせてバッドから離れた。


 バッドが露にした射出器官は速やかにエナジーの充填を完了し、那岐に狙いを定めて細い光線を発射した。

 それを見た那岐は回避しようと空を飛び回るが、光線は那岐を確実に仕留めると言わんばかりに追跡した。


「鷲之型!肆之段!レッドデコイ!」


 那岐の赤い羽根がパラパラと抜け落ちていく。それらは一ヶ所にまとまっていきやがて人の形になった。


 那岐の代わりであるデコイ人形は空を蹴って光線の前に移動すると、両手でそれを受け止めた。



 羽根が抜けてこれ以上飛んでいられない那岐だが、もう飛ぶ必要はない。


 バッドは地上で光線を出し続けているが、その間に一度も動いていない。

 この攻撃の最中には本体が無防備だと分析した那岐は翼を畳んで降下した。


 光線に耐えられなかったデコイ人形は頭上で大爆発を起こした。しかし光線は止まらず、爆炎を突き抜けると本体を目指す那岐への攻撃を再開したが、那岐の方が早い。


「もう遅いわよ!」


 イーグルが那岐の刀から離れて光線に体当たりを仕掛けた。その身は地面に弾かれたが、おかげで光線は軌道を逸らして那岐から離れていった。


 那岐は縦一文字に刀を振り下ろし、バッドの身体を一刀両断してみせた。



「ふんっ…!」


 着地時には足がビリビリと痺れる感覚がしたが、それだけで大きな怪我はない。建物の3階ほどの高さからの落下ではあったが、宇宙警察の両親に鍛えられた那岐の脚は見事に耐えていた。



「凄いよ灯刀さん!」

「ちょっと昇士、手が重いんだけど」


 余裕そうに立っていた那岐がわざとらしく怠そうにした。

 それを見て昇士は、刀の鞘を抱えて彼女に駆け寄った。


「喉渇いた、あと汗かいたからタオル。あと下風に立たないで」

「はいはい…それにしても凄いよ灯刀さん!あんな強そうなの倒しちゃうなんて!」

「当然でしょ。勝たなきゃこの星守れないし」


 勝てたのは信太郎が敵を消耗させていたから。それが分からないほど灯刀は未熟な戦士ではない。

 だが昇士の前ではカッコ良くありたかったので、それは黙っておいた。




「お前なんかに殺されるかよ!」


 真っ二つに斬られたはずのバッドがいつの間にか再生して、鋭い左手を構えていた。


「そんな!なんで生きてるの!?」

「灯刀!」


 バッドの振るった左手は、那岐を庇おうとした昇士の背中を切り裂いた。




「どうなってんだよ…」


 怪人の出現を知った将矢と奏芽が駆けつけたのはその直後だった。昇士は血を噴き出し倒れ、目の前の光景に衝撃を受けて動けなかった那岐がいた。

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