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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
灯刀那岐編
25/150

第25話 つけられた傷跡

 世須賀市を歩き回っていた怪獣は突然消えた。街の人たちは、怪獣が爆発を起こしたと言う。


 しかし、爆発の跡はどこにもなかった。街の外から来た記者は集団で幻覚を見たのではないかと考察していた。



 安全が確認された四日後、市内のあちらこちらで復旧工事が始まった。



 アクトナイト記念公園にはアクトナイトの帰りを待つ少年たちの姿があった。


「啓太、今日も電話に出てくれなかった…」


 千夏は何度も啓太に電話をかけていたが、これまで一度も出ることはなかった。

 怪獣騒ぎの中で彼の身に何かあったのではないかと、不安で仕方なかった。


「きっと啓太は無事だよ。ただ今は連絡が取り合えないだけかもしれないし」

「だな。それにしても怪獣は一体どうなったんだろうな~」


 将矢と奏芽は空を見上げて宇宙船アクトーザーが帰って来るのを待っていた。

 奏芽ともう一人、ここにはいない那岐は先日の戦いで怪人から海洋生物の毒をもらった。だが信太郎がマテリアルの力で治療を行い、健康な状態になっていた。


 その信太郎は環境の変化に対応できておらず、体調を崩した状態で公園にいた。


(アニマテリアルたちに市内を捜索させても啓太は見つからなかった…啓太のやつ、本当に無事なのか?)




 しばらくすると雲の中からアクトーザーが姿を現した。


「ただいまみんな。宇宙嵐でかなり出発が遅れてしまった…おい!一体街で何があった!?」


 アクトーザーは公園の地面の下へ沈むように隠れていった。

 それからアクトナイトの銅像が動き、宇宙船への階段が現れた。


 将矢はアクトナイトがいない間に起こった出来事を全て伝えた。そこでシャオは、一人足りないことに気が付いた。


「啓太はどこだ?」

「それが…連絡取れないんです」



 シャオは宇宙船の瞑想室に移動した。普段はここから、アクトナイトとしてソードを通して少年たちに語りかけたりエナジーを送ったりしているのだ。


「しばらく待っていてくれ」


 四人を部屋の外で待たせると、シャオは部屋の中で仁王立ちをして瞳を閉じた。



(異常なエナジーは感知出来ないな。メルバド星人たちは息を潜めているということか…)


 市内全域に意識を向けて、啓太のアクトソードかジュピテルのエナジーを探した。


 しかし、感じられるのは通常通りの地球のエナジーだけだった。


(ジュピテルマテリアルのエナジーすら感じられない…まさか啓太は…)


 シャオは啓太の捜索を頑張った。しかし、一時間かけても探し当てられなかったシャオは、信太郎と将矢の二人を瞑想室に入れた。


「あの、私たちは?」

「すまない、男同士で語り合いたいことなんだ」


 女子たちを誤魔化して扉を閉めたシャオは、すぐに話すことは出来なかった。



「啓太は見つかったのか?どこにいるんだ?」


「……………………すまない将矢。どう頑張っても啓太は見つけられなかった。彼のことを感じることが出来なかったんだ」


「世須賀の外に避難してるのかな」

「あぁ確かあいつ、親戚の家が横浜にあるって言ってた。そこにいるのかも」


「いや、捜索範囲を県外、日本国内までくまなく探したが…見つからなかった」


 そしてシャオは、はっきりと一つの結論を告げた。



「啓太は…もういない」


「ちょ、ちょっと待ってよアクトナイト。啓太はもういない?どういうこと?」


「鈴木啓太はこの世にいない…言いにくいが…」

「啓太が死んだって言うのか!?…あんたが見つけられないのを笑えない冗談で誤魔化してんじゃねえよ…」


 怒鳴るつもりで口を開いた将矢の声は震えていた。


 二人が自分の意見を受け入れてくれないだろうというのは、シャオも予想出来ていた。だからと言ってかける言葉があるのかと言ったらない。

 どうしようもない。啓太は死んでしまったのだ。


「…怪獣は突然大爆発を起こして消えたらしいな」

「もしかして…啓太が倒したのか?」


「自分の命と引き換えに?…ふざけんなよ…死んででも街を守れなんて誰が頼んだ!公園に来いって言っただろうが!」


 将矢はアニマテリアルのモンキーに頼んで、啓太に公園に来るように伝えるつもりだった。しかしモンキーは紙を持ったまま彼の元に戻ってきた。

 その時点で、将矢は一抹の不安を抱いていた。


「…アクトナイト、もう一度啓太を」

「もう何度も探した!けどどこにもいねえんだ!啓太の心を感じられないんだ!あいつは命と引き換えに怪獣を倒した!死んじまったんだ!」



 将矢は部屋から走って出て行った。信太郎は黙って涙を拭っていた。


「…信太郎、つらいだろうが頼みがある」

「分かってる…金石には俺から伝えるから…」


 シャオは女子二人、特に啓太とは仲睦まじい千夏にこのことを伝える勇気はなかった。


「ごめんな…俺が早く帰って来れたら…」

「アクトナイトは悪くない………友だちが死ぬなんて………」




 信太郎は部屋を出た。通路には千夏が一人、なんとも言えない表情で立っていた。


「将矢が啓太を探しに行ったけど…何があったの?」



「……………」


 言えるわけがない。信太郎から見ても啓太と千夏の関係は友達を越えようとしていた。それが突然、啓太が死んだと伝えられるわけがなかった。


「いや…アクトナイトでも見つけられなくてさ。い、一緒に捜しに行こう?」



 様子のおかしい信太郎を見た千夏は、ポケットからトロワマテリアルを取り出していた。


「ねえアクトナイトさん…嘘だよね……啓太が死んだって」


 信太郎と違いアクトナイトは嘘を言えず、啓太は死んだということを伝えてしまった。



 まず千夏が取った行動は、誤魔化そうとした信太郎への本気のパンチだった。


「ごめん…殴らずにいられなかった。でも最初から本当のことを話して欲しかった!いないって分かってるのにいるなんて希望持たされても、それって全然優しさじゃない!……違う…こんなこと言いたかったんじゃ…」


 千夏は自分の言動に戸惑いながら宇宙船から出て行った。


「…俺の馬鹿野郎…!」


 自分がどれだけ愚かなことをしたのか、自分で非を認めるのに時間はかからなかった。


 しかし、言う側もつらいのだと分かって欲しかった。




 怪獣の被害を受けた地区には立ち入り禁止を表すフェンスが立てられていた。


 千夏はそれを軽く飛び越えて怪獣が消えた地点にやって来た。そこは何もかもが破壊されてしまっている更地だった。


「啓太!ねえ啓太!どこにいるの!?いるなら返事してよ!」


 どれだけ呼んでも啓太の返事はなかった。ここにはいない啓太にも、瓦礫に埋もれた人々にも千夏の声が届くことはないのだ。



 啓太の家や市内の避難所を回って来た将矢と奏芽も遅れてやって来た。


「どこだよ…どこにいるんだよあいつ!」

「将矢…もう啓太は…いないんでしよ…いないんだよ!」


 それでも将矢は啓太がいなくなったことが認められなかった。

 自分の親友で、それも同じアクトナイトの彼がこんな急にいなくなるなんて考えられなかった。



 啓太を捜して走る悲しげな将矢を追っている内に、奏芽はどういう状況なのか嫌でも察してしまい、そして泣いていた。




 怪獣騒ぎで死傷者、行方不明共に多数だ。人知れず怪獣を倒して命を散らした啓太はヒーローとして称えられることもなく、世須賀市の行方不明者としてカウントされるだろう。




 信太郎は家に帰り、理恵子から自室として与えられた和室に入った。心に余裕が出来て、やっと啓太のことを考え始めた。


(………本当にもういないのか?)


 天井に剣を向け、信太郎は啓太の声が聞こえてくるのではないかと期待していた。


「なあ…返事してくれないか。また一緒に弁当食べようぜって…思ったけど最近は金石と二人で食べてたな。お前って俺と似た感じのやつだって思ってたけど違ってた。命懸けで街を守る勇気があったんだな」




「私は啓太に生きて欲しかった。街の人たちには悪いけど、もう少し我慢して欲しかった…」


 千夏の声が聞こえてきた。伝わってくる感情は憎しみや悲しみが混ざり合ったものだった。


「灯刀さんたちと一緒にお好み焼き作った時のこと覚えてる?」


 それを聞いた信太郎は、千夏が昇士と一緒にお好み焼きを作っているの見て嫉妬していた啓太を思い出した。

 ソードを持っているので、信太郎が思っていたことは千夏にも伝わった。


「…私もだよ。私も啓太が灯刀さんと一緒に作ってて、なんかモヤっとした。だからかな、最後にムカついてキレちゃって…」

「金石ってば凄い怒ってたよね。めっっちゃ怖かった」


 話し合いの場を作り厚意を見せていた啓太を、那岐は拒否し続けた。それを見ていた千夏が怒ったのは、那岐の啓太に対する態度だけでなくかの彼女の嫉妬があったからなのかもしれない。


「それで気付いたんだ。私、啓太のことが好きなんだって」


 千夏は啓太との日々を振り返る。漫画を借り貸ししたことや一緒にアニメを観たこと。それら関連のイベントにも出向いたこと。


 高校生になってから短い間に沢山の思い出が出来上がっていた。


「今まで啓太が誘ってくれてさ…啓太は私のこと」




(その啓太はもう…しまった!)



 千夏の回想が終わった。信太郎は四人の中で誰よりも早く啓太の死を受け入れる準備が出来ていた。


「………そう…だよね…啓太…もういないんじゃん」

「どこかの避難所にいる可能性だってある!だから…」


 慰めようとするが心の中では啓太のことは諦めていた。信太郎の慰めが上辺だけだと千夏は分かってしまった。


「………ねえ、啓太のこと好きだった?」



 質問される瞬間、信太郎は剣を手放した。気付けば額は汗で湿っていた。


(風呂…入るか)



 信太郎はシャワーを浴びながら考えた。啓太という一人の友人がいなくなったことを。


 クラスで目立たない人間ということに共通性を見いだしていた信太郎。

 しかし啓太は千夏と距離を詰めていた。


(将矢と清水…啓太と金石…)



 信太郎はまた孤独を感じた。そして先程無視した千夏の質問には、「どっちだろう」とまだ答えが出そうにはなかった。

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