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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
灯刀那岐編
21/150

第21話 美保の思うアクトナイト

「よう信太郎。こっちはまだ宇宙嵐の真っ最中で出発準備すら出来てない。そっちは大丈夫か?」




 地球外の技術を使って、睡眠中の信太郎の心にシャオが話しかけてきた。



「俺と千夏が変身して、あと一回奏芽が戦える。それと怪人が強くなってる…っていうのが個人的な感想」

「かなり逼迫してるな。嵐が止んだら大急ぎで地球に戻るからよ。それとお前はどうなんだ?」

「俺?…父さんと母さんが離婚して、今は元担任の家に住まわせてもらってる。あと起きたら夏休みスタート」


「大変だな…何か相談したいことはないか?俺で良ければ話し相手になるぞ」

「寝かせて…いや寝てるのか。だってここ夢の中だもんな…はぁ、家族サービスの最中に電話しないでくれない?」


 信太郎には電話ボックスの中で受話器を持った宇宙人が見えていた。

 以前は分からなかったが、信太郎自身も電話ボックスで受話器を握っていた。


 ボックスの外には信太郎の知り合いが待っていた。男女の大人でとても優しそうだった。


「俺に相談できなくても、啓太たちやその担任の人に相談するんだ。分かったか?」

「大丈夫だよ。それじゃあね」


 そして受話器を置いた途端に目が覚めた。


「いや寝かせてくれよ…」

「やっと起きた!」


 理恵子の娘、美保が枕元に立っていた。痛い目を見る前に信太郎は起き上がり布団を畳んだ。


「ねえ夏休みの課題やらないの?」

「あのね…俺は今日からスタートなの。初日くらいのんびりしたっていいでしょ…」

「そう言って後回しにするんでしょ?よく失敗する人のパターンだよね」


 美保は信太郎への当たりが強く、彼は彼女のことを苦手としていた。少し急ぎ目に出掛ける用意をして、信太郎はアパートを出た。



「どうしてついて来るんだよ」

「だって暇なんだもん」

「こんなことしてる暇あるなら君こそ宿題やれよな」

「もう終わらせました~」


 美保は信太郎の隣から離れなかった。突然出来た兄に興味津々の美保は、彼が何をするのか気になっていた。


「ねえどうしてウチに来たの?やっぱりお母さんが美人だから?」

「そんなんじゃない。事情があるんだ」


 行く宛もなく歩いた信太郎は無意識の内にアクトナイト記念公園へ足を踏み入れていた。


「あの銅像って百年前のアクトナイトじゃん。小学校の頃に習ったよ…こんな公園あったなんて習ったような習わなかったような…にしても汚い公園!」


(しまった…誰もいないよな。何を期待してんだろう俺)


「もしかして信太郎が今のアクトナイトだったりするわけ?」

「まさか…そんなわけないじゃん」

「だよね。あんたみたいなのがヒーローだったら街もおしまいよね」


 ドキッとしたが動揺を見せず否定した。それで一つ気になったことがあり、美保に質問した。


「アクトナイトのことどう思う?」

「変な質問…そっちが教えてくれたらいいよ?」


(難しい女だな…)

「うーん…街を守るために戦ってるヒーローかな」

「………私はあいつが嫌い。お父さんを守ってくれなかったアクトナイトをヒーローなんて言いたくない」


 信太郎は胸を締め付けられるようだった。こう言われるのは分かっていた。気安く尋ねることではなかったと反省した。


「だよね…もうちょっと頑張ってくれたらいいのに。五人もいるんだからさ」


 まるで信太郎は自分に言い聞かせているようだった。



「あれ、信太郎?」


 しばらくして啓太が公園に現れた。


「信太郎って一人っ子だったよね。妹いたの?」

「いや知り合いの娘」

「信太郎がいつもお世話になってます!彼女の美保です!」


 それを聞くと驚いた顔をして、信太郎と美保の顔を交互に見つめた。


「いや真に受けるなって!啓太をからかうなよ!今金石とピリピリしてるんだからさ」

「…それより信太郎。僕と一緒に灯刀さんのところまで来てくれない?」



 啓太は自分たちに限界が来ていることを分かっていた。いや、信太郎も、他の仲間たちも自分たちだけでは戦えないことを心の中で認めていた。


 今、メルバド星人と戦えるのは那岐しかいない。啓太は彼女と仲間になれるように話をしに行こうと提案したのだ。


「美保はあっち行ってて」


 無関係の美保を追い払うと信太郎は不快そうな顔で断った。


「啓太、ごめんだけど俺はあいつ嫌いだから行かない」

「嫌いとかわがまま言ってる場合じゃないんだよ!僕たちで力を合わせないと!」

「力を合わせなくてもあいつが全部倒してくれるだろ。だったらもうそれでいいじゃん」

「いつか絶対に彼女一人で倒せない敵が現れる!でも僕たちが力を合わせればそんなやつにも勝てるんだよ!」


 それから少しの間、二人は話し合った。だが啓太の説得を受けても信太郎の気持ちが変わることはなく、信太郎は公園に残り彼を見送った。


「誰だったのさっきの人。凄い真剣そうに話してたけど」

「高校の友だちだよ」


 信太郎は美保と共に公園を出て、炎天下を再び歩き始めた。




 信太郎を連れて来れなかった啓太は、一人で那岐の住んでいるアパートにやって来た。


(ボロいアパートだな…独り暮らしなのか?)


 ヒビの入った窓から那岐がこちらを覗いていた。啓太は笑顔を作って手を振ると、階段を登り扉の前に立った。


 そしてチャイムを押す前に、ガチャリと扉が開いた。


「何の用?どうしてここが分かったの?」

「君のイーグルを僕たちのアニマテリアルに追跡させたんだ」

「人捜しにそこまでする普通?それで何の用?」


 那岐を見つめて数秒、それから啓太は深く頭を下げて頼んだ。


「みんなと一緒に協力して戦って欲しい。この先、僕たちだけでも灯刀さんだけでも勝てない怪人が出てくる」

「…嫌よ。足手まといのせいで負けたくないし。それに勝てない怪人って言うけど、そんなのに会ったことあるの?」

「いや…でも怪人は日に日に強くなってる!きっと力を合わせないと時が来るんだ!」


「あんた達なんかいなくても勝てるから。大体、仲良くなりたいって考えてるのあんただけじゃないの?」

「それは…」


 バタンっと勢いよく扉が閉められた。それからすぐ、刀を持った那岐が飛び出した。


「な、どうしたの!?」

「街で宇宙人が暴れてるの」


 那岐は仮面を付けてイーグルの力で翼を広げて宇宙人の元へ飛んでいった。


「僕が一人で焦ってるだけなのかな…」


 やることのなくなった啓太は帰ることにした。彼は自分の考えていたことは間違っていたのかと疑い始めるようになった。




 そしてその啓太を遠くから見ている者がいた。


「どうして…啓太があいつと?」


 千夏は彼がどこかへ向かう姿を見つけて、声をかけようにも気まずく追跡をしていた。

 そして啓太と那岐が二人きりで話しているのを目撃していた。


(なんでそんなに肩入れするの?)



 気を落としている啓太は怪人の元へ向かうことが出来ず、嫉妬でまともじゃなくなっている千夏は、怪人の出現を知らせようとする信太郎からのメッセージに気が付いていなかった




「グオオオ!」


 街で怪人が暴れていた。偶然鉢合わせた信太郎は美保を庇いながら、怪人を人のいない場所へ誘導していた。


「こっちで大丈夫なの!?」

「あぁ、大丈夫だから!」


 美保を守らなくてはいけないが、街になるべく被害が出ないようにしなければならず、どう逃げようかと信太郎は考えながら走っていた。

 既に彼の背中には飛んできた瓦礫で浅く傷が出来ている。アクトナイトも現在地球にはいないので、病院で治療してもらうしかなかった。



 しばらくすると仮面の少女が刀を携えて現れた。


「信太郎!仮面の侍だ!」


 スマホのカメラを向けようとした美保を引っ張り、二人は建物の陰に隠れた。


 辺りを見渡すと昇士がペットボトルとタオルを持って待機しているのが見えた。


(ここは任せるしかないな…)


 信太郎のポケットにはトロワマテリアルが入っているが中身は使い物にならない。早くアクトナイトに帰って来て欲しかった。




「はぁぁ!」


 仮面の少女は怪人を撃破すると昇士に刀を持たせて、タオルとボトルを受け取った。


「…出てきなさいよ」

「どうも…助かったよ」


 見ていることしか出来ず不満だが信太郎は頭を下げて礼を言った。


「信太郎…この人たちと知り合いなの?」

「え!?…あ~そのー」

「俺たち、彼女の助手やってるんだ!」

「うんうんうん!そうそうそう!」


 昇士が雑なフォローを入れると、信太郎は勢いよく何度も頷いた。


「は?ちょっと昇士あんたねぇ」

「いや~姉さんはやっぱり強い!頼りになるなぁ!」

「助かったぜ!ありがとうなぁ!」


「大丈夫?怪我してない?」


 那岐は美保に近寄って心配した。予想外の行動に昇士はフリーズしていた。


(この人…気遣いの出来る人だったんだ)


「大丈夫…あんたもアクトナイトなの?見たことないけど」


 美保は仮面を付けた那岐をアクトナイトと誤解していた。


「私は…」

「そうそう彼女はアクトナイトじゃないんだけど彼らと友だちなんだ!うん!」

「昇士…あとで覚えときなさいよ」


「助けてくれてありがとう」


 美保からその言葉を聞いた那岐の表情は仮面に隠れて誰にも分からない。那岐は手を振ると昇士を引っ張って、街の奥へと去って行った。



「信太郎助手なの?行かなくて良かったの?」

「あぁ俺は嫌われてるから」


 信太郎は初めて、戦いの直後の街をちゃんと見ていた。街の住民が戦いの痕跡を不安そうに眺めている。それをテレビ局のカメラが撮影していた。

 駆けつけた警察が事情聴取を行っていた。


「また例の女の子だよ。もうアクトナイトは何やってるんだろうね全く」

「お巡りさん彼女を銃刀法違反なんて言って捕まえないでくれよ?頼りになるのは彼女だけなんだからさ」


(好き勝手言うなぁ…クソ…)


 信太郎は下唇を噛みしめ悔しそうに人々の話しに耳を傾けていた。



「誰が守ったと思ってるんだろうね」


 美保は足元の空き缶を蹴り上げて街の人の脳天に命中させると、隠れる様に道を曲がった。


「私はアクトナイトが嫌い。だけど戦えるのはさっきの女の人と彼らしかいない。だから戦って欲しい」


 信太郎は自分がアクトナイトの一人だと見破られたのかとドキドキしていた。それぐらい、美保の言葉には想いが込められていたからだ。



「…俺病院行ってくるわ。背中痛すぎて死にそう」

「あのさ、私お腹空いたんだけど。お財布持ってきてないからお小遣いちょうだいよ」


 信太郎はやれやれと千円札を三枚渡して、被害に遭った人の集まっている近くの病院へと向かった。

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