第2話 三人の戦士
信太郎が怪人と戦った翌日の夕方、5人の少年達は再びアクトナイト記念公園へとやって来ていた。
「おぉ、みんな揃って来てくれて、ありがとうな。改めて自己紹介させてもらうぞ。俺は宇宙の平和を守る戦士アクトナイト。メルバド星人が地球侵略を企んでいたので数ヶ月前にこの星にやって来た」
信太郎達は銅像の前に座って退屈そうにアクトナイトの話を聞いていた。
「お前達…自分達の星のピンチなんだぜ?リアクション薄くない?」
「いやそう言われても…実感ないと言うか…ね?」
奏芽の言葉に信太郎以外の全員が頷いた。
「いや…俺昨日宇宙人と戦ったんだけど」
「そうだ。信太郎は昨日、アクトナイトに変身してメルバド星人と戦った。剣を触ったお前達にも伝わったはずだろ?」
昨日、信太郎が戦っている時に仲間達の声が届いた。その時は奏芽達4人もアクトソードを手にして心を繋いでいたのだ。
「僕達…じゃなくて良くないですか?地球最強の5人を集めるとか…もっとあるでしょ?」
「ただ強いだけの人間にはこのソードとマテリアルに触れることさえ出来ない。俺はこれを使える人間…お前達を待っていたんだ」
「つまり僕たちは…剣に選ばれし者ってやつ?」
銅像の前にはアクトソードとマテリアルがそれぞれ人数分用意されていた。
「とりあえずこれを持っておくんだ。もしもメルバド星人が現れたらそれで変身して戦うんだ」
「ちょっと待って、これ思った以上に大きんだけど…カバンに入らないし。てかこれ銃刀法とかなんとかに触れない?」
そう言いながらも奏芽はカバンになんとか入らないかとソードを押し込んで無理矢理詰め込んだ。
「すまない。各自なんとかしてくれ。入れ物はなるべく早くに用意しておく」
「あぁー教科書切れちまった!」
将矢達はグチグチ言いながらもなんとか剣を人に見られないようにした。
「ちょっと啓太、刃が貫通してんじゃん!ははは!」
「え?あああああ!僕のリュックに穴が!」
はしゃぐ彼らをベンチに座っている信太郎が眺めていた。
「信太郎…君は彼らと友達なのだよな?」
「え、うんまぁ…そうだと思うけど」
「出た!ドライ信太郎!そこはそうです!って言いなよ」
「機嫌悪いといつもこうだから…」
「………」
何が原因で気分を悪くしたのかは誰にも分からない。イライラしている信太郎はそのまま黙り込んだ。この状態を4人はドライ信太郎と名付けている。
イライラしている信太郎に追い討ちをかけるようにアクトナイトが頼み事をした。
「信太郎。君はバイトをしているんだったな。可能なら今のバイトを辞めてアクトナイトとして戦うことに力を注いで欲しい」
「え?無理。俺お小遣い貰えないから働かないと…」
そう話す信太郎は、リュックの中身がどうなろうと構わず無理矢理ソードを押し込んだ。
「頼む。地球の平和を守るためなんだ」
「はぁ?マジかよ…チッ」
「うお、久しぶりのガチ舌打ち」
信太郎は後日バイトを辞めることが決定し、今日はそこで解散となった。
数日後、学校では怪人と戦った戦士の話題で盛り上がっていた。
「知ってる?怪人が出たって話」
「塾帰りに生で見た!スマホで録画してあるんだ」
アクトナイトに言われたからでなく、面倒なことになるのを避けるためにも信太郎は先日の戦いについて誰にも話さなかった。
他の4人も簡単に口外して良いことではないと分かっており、それらの話題が振られると適当に相槌を打って頷いていた。
昼休み、信太郎は啓大と共にいつものように屋上で昼食を食べていた。
「あのさ信太郎。もらったやつどうしてる?」
「剣とマテリアルか?とりあえず今はロッカーに隠してあるけど」
信太郎は剣が入る程長く大きなバッグを買い、それでアクトナイトから与えられた物を持ち運びしていた。
「偉っ!家に置いてきたんだけど」
「いや持っとかないとマズいでしょ…怪人出てきたらどうするの」
今日もこれまで通りと変わらない学校生活を送り、誰もが怪人は現れないと思っていた。
しかし放課後、隣街の方でメルバド星人のエナジーを感じるとアクトナイトから剣を通して連絡があった。
「金石が体調不良で早退!?啓太も武器家に置いてきたから2人も欠けてるじゃん!」
隣街へ向かっていたのは信太郎、将矢、奏芽の3人だけだった。
「まあお前一度戦ってるし何とかしてくれ」
「よろしく先輩」
アクトソードによって移動速度が車以上に速くなっていた彼らは、走って5分で隣街に着くことが出来た。
なんとそこには、街を破壊している怪人が2体もいた。肉盾怪人ベグモはその丈夫な身体でタックルを繰り出し建物を破壊した。
そしてもう1体の銃撃怪人ゲネルはその両腕を切り落として装備した高威力銃を乱射していた。
「今日は二人もいるのか!」
「とにかくやろう!マテリアルを剣にセットして!それから叫んで叩く」
「「「アクトベイト!」」」
3人はアクトナイトへと変身した。昨日の時と同じくアクトナイトが大声で叫んだ。
「理を超える神秘の力!アクトナイトセルナ!」
「悪を焼き尽くす火炎の力!アクトナイトフレイス!」
「正義を貫く水流の力!アクトナイトアーキュリー!」
「あの…口上長くないですか?」
アーキュリーに変身する奏芽がツッコミを入れた。信太郎と将矢も口には出さなかったが同じことを思っていた。
「大丈夫だ。他から見れば変身は一瞬だから。それに長くなんかない」
街に突如3人の剣を持った戦士達が現れた。逃げていた人々は逃げる足を止めて、もしかしたら彼らが怪人を倒してくれるのではないかと期待して見届けることにした。
「どうしよう!?」
「街を守るんだ!まずは鉄砲野郎を止めるぞ!」
将矢は怯えることなくゲネルに向かった。ゲネルは赤色の戦士フレイスが接近しても気にせずに街の破壊を続けた。
だがゲネルへと向かうフレイスの前にはベグモが立ちはだかった。これを突破しない限りゲネルを阻止することはできない。
「動きは鈍いけどあれに殴られたら一溜りもないな」
「将矢。君のフレイスマテリアルの力を使うんだ。ソードのグリップの底を叩いてみてくれ」
アクトナイトの言う通りにするとソードの刃に火が点いた。
「おぉすげえ!これならあいつを倒せるかも!」
それを見ていたセルナと、青色の戦士アーキュリーも同じように底を叩いた。
アーキュリーの刃は液化し鞭のように振り回せるようになった。
一方で、セルナには何も起こらなかった。
「俺がこいつを何とかする!二人は向こうのを頼む!」
フレイスがベグモに斬りかかり、セルナ達はゲネルを倒すことにした。
「大月君。あの銃を破壊した方がいい気がする!」
「同感!いこう!」
アーキュリーは射程距離にゲネルを入れると力強くソードを振って刃を伸ばした。
鞭のようにしなかやかに延びる水の刃。だがその勢いは物凄く、左の高威力銃をスッパリと切断してみせた。
「うわ!びっくりした!てかここに来るまでに凄い…やっちゃった」
アーキュリーの通った後に細く深い溝が出来上がっていた。ウォータージェット以上の威力を持つ刃が暴れ回って地面を傷付けていたのだ。
セルナはゲネルの右側に回り込んで銃の破壊を試みた。しかし片方が破壊されたことで身を守ることを優先したゲネルは破壊を中断した。
「まずい!」
ゲネルの高威力銃の口がセルナに向けられた。そして発射された弾はセルナの胸に命中し、すぐ後ろの街灯が折れる程の勢いで吹っ飛んだ。
「将矢!奏芽!信太郎が気を失ってしまった!すぐに助けるんだ!」
「えええ!?分かりました!」
変身の解けた信太郎はぐったりと地面に寝転んだ。彼に近いアーキュリーが助けに行こうとすると、今度はゲネルが邪魔をした。
アーキュリーの振り回す水の鞭を二度と喰らわないと、ゲネルは攻撃の届かない場所から信太郎に近付かせないように銃を撃ち続けた。
「届かない…将矢!」
「分かった!」
ソードを通して奏芽から救難信号を受け取った将矢。邪魔なベグモを踏み台に、更に剣から吹き出る炎を推進力にしてゲネルに高速接近した。
「はあああ!」
ゲネルがアーキュリーの方向に向かうように剣で斬った。怪人を挟んだ二人はこれからの行動を既に決定していた。
フレイスとアーキュリーがマテリアル叩いた。そして信号を受けたアクトナイトは彼らにパワーを送った。
「加速していく紅蓮の連撃!フレイススラッシュ!…ふぅ…龍の如く貫きの一閃!アーキュリースラッシュ!」
「おらぁあああ!」
「はーっ!」
銃を切断した水の鞭がゲネルの身体に巻き付いて動きを封じた。そこへ駆けつけたフレイスが目にも止まらぬ速さで炎の攻撃を繰り出した。恐ろしいのは、何度も剣を振るその動きが加速していくことだった。
最後にフレイスが力強い一撃と共に切り抜けると、火だるまになっていたゲネルの身体は爆発を起こして散っていった。
「…もう一人の怪人は逃げたか…信太郎!」
ギャラリーのカメラやスマートフォンが信太郎に向けられていた。戦いが終わったフレイス達よりも戦士の正体の方が写す価値が彼らにはあった。
「おいやめろ!撮るんじゃねえ!」
「そんなことより大月君を!」
一般市民に剣を振ろうとしたフレイスをアーキュリーは静止した。するとアクトナイトの声が聞こえて来た。
「俺の力で治す。公園まで来るんだ」
信太郎を背負ったフレイスは病院ではなくアクトナイト公園を目指した。
「………そんな………」
一足遅く啓太が現場に駆け付けた。見世物が終わり街の人々は散っており、警察が現場調査に来ていた。
三人は記念公園へ。アクトナイトの銅像前のベンチで信太郎は寝かされていた。
「な、治るのか?」
「セルナマテリアルの神秘の力がバリアを生成していたんだ。おかげで傷が浅い」
信太郎のセルナマテリアルの力はちゃんと発動していた。もしも発動していなかったら、もっと酷い怪我だっただろう。
ここにいる誰もが知ることはないが、実はセルナの力によって信太郎の顔はギャラリーたちに覚えられることなく、写真や映像で記録された信太郎の身体も加工されたように消えているのだ。
将矢は目の前で何が起こっているのかよく分からないが、アクトナイトの力によって信太郎の傷は見る見るうちに癒えていった。
いなくなったもう一体の怪人については何の情報もない。アクトナイトはエナジーが感じられないことから、今はどこかに身を潜めて体力を回復させていると推測した。
「信太郎は俺に任せてくれ。二人は帰ってゆっくりと休むんだ」
「分かった…任せる」
「よろしくお願いします…」
それから信太郎が目を覚ましたのは暗くなった頃だった。
「起きたか信太郎。お前は気絶していたんだ」
「そうなの…怪人は!?」
「一体は撃破したがもう一体には逃げられてしまった」
信太郎はベンチから降りて身体を軽く動かした。アクトナイトの治療は完璧で痛みすら残っていなかった。
「あぁ~…足引っ張ったのか俺」
「そんなことはない。相手が悪かっただけだ」
そんな励ましも信太郎には皮肉にしか聞こえなかった。
スマホを開くとSNSアプリから物凄い量の通知が来ていた。
「え………」
「どうした」
「将矢と啓太が喧嘩してる」
今日の怪人との戦いで、啓太がいたら信太郎は大怪我せずに怪人も逃がさなかったと将矢が長文を送っていた。
それに対して啓太は「しかたないじゃん」の一言でそこから喧嘩が始まったようだ。
怪我をしたのは「自業自得だ」と一言だけ伝えると、信太郎はそれ以上何も言わなかった。
「これでよしっと!じゃあ俺帰るわ!」
「そうか。何かあったらソードで連絡する」
信太郎は公園を出た。
そして数歩進んだところでよく分からないが何故か涙を流し始めていた。
「はぁ…なんなんだよ…俺ってば全然役に立ってないじゃん」
今日の戦いで呆気なくやられたことが心に堪えていた。別にアクトナイトとして戦うことに誇りや責任感があるわけではない。
将矢と奏芽が怪人を撃破した。しかし自分には何も出来なかったと唇を噛み締めていた。