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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
灯刀那岐編
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第19話 逃亡的な家出

「混乱は大きくなっていル。百年前の戦いが再び始まろうとしているんだネ」



 普段は姿を消しているメルバド星人の宇宙船。そこにいるメルバド星人の王子、メノル・シルブブブゼラは三銃士の一人バッドと共に地上を見下ろしていた。


「百年前…いやそれ以上になるだろうよ。何せ今は5人いるんだからな。あと2人…どんなやつがなるんだろうな」

「8つの姿に変身するアクトナイト。彼は元々一つの姿しか持っていなかったが、仲間と共に戦い力を手にしたそうだヨ」


 メノルは1本の剣を持っていた。それはアクトソードとよく似ており、メルバソードの元となった代物だ。


「それはオリジナル…俺が殺したアクトナイトが使ってた剣か」

「うン。今の彼らはアクトナイトが造った模造品。それでも強力なのに変わりはないけド」

「それより王子、一ついいか?俺はあれだ。怪人…怪獣…まあそれらの類いだ。だからそのー…メルバソードを使って変身するのはダークヒーローと言えど少し抵抗があるというか~俺の流儀に反してるんだよ。もう使わなくていい?」


「う~ン。ダメ」


 メノルはメルバソードをバッドから押し付けられたが、受け取ることはなかった。


「せっかくのマテリアルも上手く使って欲しいナ。まあアクトナイトが生み出した物と違ってズルして造った物だから気を付けないと簡単に壊れちゃうけド」

「へいへい…」


 バッドの姿が黒く変わっていく。頭部にはドリルのようなものが現れ、左手は大きく鋭くなった。そして右の前腕は刃となっていた。

 メルバソードを使わない、バッド本来の怪人の姿だった。


「…多分もう遠くない戦いで俺は倒される。そしたらお別れだ。色んな惑星の侵略ってのは楽しかったぜ。ありがとうな」

「僕も君に助けられタ。僕という存在が何をするべきなのカ。ありがとウ」


 バッドは人の姿に戻ると宇宙船の自室に戻った。メノルは街を眺め続けていた。


「…オリジナルの剣はここにあル。オリジナルのマテリアルは…きっともう存在しないんだろうネ」




 メノルは怪人を街へと送り込んだ。メルバド星で造られた怪人が宇宙船までワープして来るのにはそれなりに時間とエネルギーを消費するので、一気に攻めるのが出来ないのが難点だった。


 しかし、それ以前にメノルが本気で地球を侵略する気がないというのが、これまでの敗北の原因だった。




「メノル様!怪人が刀の少女に撃破されましタ!」

「報告ありがとウ。まあそうなるよナ」


 いつかは忘れたが送り出した怪人は倒されてしまった。怪人も元はメルバド星人だが、倒されたところで同情はしないのがメノルだ。


「なんというカ…ドラマティックじゃないんだよネ」



 メノルは宇宙船のラボに剣を戻した。そこで三銃士の一人、シーノと出会った。


「久しぶりだネ。地上は楽しイ?」

「うん、楽しいよ。学校で色んなことを学べるし、この前はお祭りに行ったんだ。今度は海に行く約束をしたよ」

「海…いいネ」


「あのさ…もうこんなことやめない?私とエルビスとメノルで力を合わせれば今の政権だって打倒出来るよ。王子も好きでこんなことやってるんじゃないんでしょ?」


「………僕は好きでメノルとして産まれた訳じゃなイ。好きで惑星侵略を行ってるんじゃなイ。でも僕はメノルとして生きなきゃいけないんダ。メルバド星人の王子としてこの星を侵略することが僕のやるべきことなんダ」

「言ってることがよく分かんないよ…」


「君も自分がシーノか愛澤真華なのか、ハッキリさせた方が気が楽だヨ」

「…メノル、変わっちゃったね」


 シーノは泣きながらラボを出ていった。それに見向きもせず、メノルは剣に手を向けた。次の瞬間、その手には一つのマテリアルが握られていた。


「君にもエルビスにも、そして僕にも運命が役目があル。僕の結末は変わらないけど、君のはそうじゃないといいネ」



 メノルの独り言は病気のようなものだ。彼はマテリアルをポケットに入れてラボから出ていった。







 信太郎の家では彼の両親が言い争いをしていた。


「私のお気に入りの皿だったのよ!?どうしてくれるのよ!」

「もうこの家は俺の物だ!どうしようが俺の勝手だ!」


 信太郎は何も言わず、廊下からリビングでの口喧嘩を見ていた。これも今日で最後だと清々していた。


「そんな自分勝手なところが嫌になったのよ!分からない!?」

「元はと言えばお前があの男と子ども作ったからだろうが!」


 暴力的な父親が攻撃の動作に入る。戦いで敵を常に見ていた信太郎は、父親が母親に蹴りを入れようとしているとすぐに分かった。

 信太郎は迷わず飛び出して両親の間に割り込んだ。父親が母親の腹にめがけた蹴りは、信太郎の顔面に食い込んだ。


「待てよ父さん!流石にヤバイって!殺すつもりかよ!?」

「入ってくるなこの親不孝者が!お前が優秀だからと二人目の子どもを作らなかったがそれが失敗だった!この女は知らん男との間に子どもを作り、お前は堕落して金を稼ぐことしかしなくなった!」

「あなたがそこまで追い込んだんでしょ!」


 母親は荷物の入ったキャリーケースを引いて玄関に向かった。


「まだ話は終わってないぞ!」

「もう話すことはないわ!…ねえ信太郎、本当に一緒に来ないの?良介さん、本当にいい人よ?」


「違う父親の血が流れてる兄なんていたらその子が可哀想だよ」


 信太郎は母親のお腹を優しく撫でた。


「元気に育てよ…俺みたいになるなよ」

「そう…分かったわ。それじゃあさようなら」

「うん。お幸せに」


 信太郎は母親を見送った直後に父親に一発もらってから、自室に戻った。



「意外と泣けるもんだな」


 布団で横になり信太郎は泣いていた。もう自分に母親はいないと、受け入れるのには時間がかかりそうだった。


「アクトナイト、早く帰って来ないかな」


 家には父親と二人きりだ。こんないつ殴られるか分からない場所よりも、宇宙船の方が彼は安心できた。



 そして深夜、何も考えずに信太郎は家を飛び出していた。


(やっぱり俺も母さんと一緒に行こう!良介さんっていうのに挨拶をしよう!)


 母親のいる病院も、その良介という男の家も信太郎は知るわけがない。


 暗闇を駆ける信太郎は現実を受け入れるとやがて減速していき、無心になって立ち止まった。


(将矢か啓太の家に泊めてもら…いっけね、スマホ無いんだった)


 手元にあるのは通信機能が使えないトロワマテリアルだけだった。


 帰り道は分かるが、信太郎は家に向かって歩きたくなかった。その場で立ち止まるか、家から離れることが今の信太郎に出来ることだった。



「君、大丈夫?」


 立ち止まっていた信太郎に声をかけた人間がいた。ビニール袋を手に持った大人の女性だ。


「どうしてこんな時間に出歩いてるの?」

「……先生」


 信太郎はその女性を知っていた。その人は小学生の頃、信太郎が世話になった女性の教員だった。


「君…もしかして信太郎君?」

「お久しぶりです」



 先生と呼ばれた女性は、信太郎から家に帰りたくないという言葉とこれまでの事情を聴いた。すると、今晩は自分の家に来るようにと信太郎を連れて帰った。

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