最終話
全ての始まりはいつもと変わらない夜だった。
友人達と訪れた公園でアクトナイトを偽っていたシャオと出会い、信太郎はアクトナイトとして地球を守るために戦うことになった。
それから色んな人間と出会い、恋をしては失恋して、誰かを見ては嫉妬に燃えた。
使命に急かされ友達を自らの手にかけ、それから自暴自棄になって破壊の限りを尽くそうとした結果、仲間を傷付けて大切な人も失った。そして腐っていた自分に手を差し伸べてくれた人も守る事が出来なかった。
アクトナイトはヒーローだ。だが誰から見ても、信太郎はそんなヒーローと呼べる人間ではないだろう。
そんな彼はある日死んだ。当時は死に場所を求めていたこともあったが、命を落とした者を自分の命と引き換えに蘇生した。
セルナの力を使い続けた彼は魂だけの存在となり、運命やこの世界の仕組みを知ってしまった。その後生き返りはしたものの、それも不本意だった。
しかし彼は、脅威から人々を守ろうとする仲間たちの姿を見た。魂だけだった時には彼らの日常を覗き見た。
自分がやって来たことが何かに繋がる事、そこから新しい何かが生まれることをそうして知った。
命を託した芽愛はアクトナイトになり戦った。少女の姿を与えたアクトウェポンは剛に気持ちを伝え、彼を新たな戦士アクトランサーWへと変身させた。
そして信太郎はメノルと共に特異点へ向かった。絶対的脅威となる彼がいなくなった世界に、仲間たちが平和をもたらす事を願って…
地球を侵略しようとしていたメルバド星人達は倒された。
特異点で永遠と戦いを繰り広げるつもりだったメノルも、自らの手で決着をつけたのである。
「…終わった…終わったんだな」
戦いが終われば、信太郎はこの世界から去らなければならない。メノルが消えた今、この宇宙に混沌を発生させるのは大月信太郎という存在だけだ。
存在が消えていないことになっている人間は、この宇宙にいてはならない。彼が去ることで、狂っていた事象は全て元通りとなる。
地球に怪人が現れることはもうない。
「僕は…」
「僕は終わらない!」
「メノル!?うわっ!」
しかし倒したはずのメノルが突如現れ、Sアクトナイトの頭を掴んだ!
ピキピキと音を立てた頭部にヒビが走る。この宇宙空間で割られた瞬間、信太郎の死は確定する。
「まだやる気か!」
「僕は死ぬまでやるつもりだ!」
腕を斬ろうと剣を振るが、刃は通用せず傷1つ付けられずに弾かれた。
「…!?」
「気付いた?」
そして信太郎はあることに気が付いた。それはメノルのエナジーについてである。
メルバドアルと戦った時、信太郎はメノルのエナジーは何かが原因で感じられないと思っていた。
しかしそれは違った。
彼が感じている物全てがメノルだった。力を与えてくれた月も、帰ろうとしていた地球も、この宇宙の全てからメノルのエナジーを放たれていた。
「ど、どうなってるんだ!?」
どんな力が働いているのか、信太郎の理解が追い付かない。何よりここまで繰り広げていた熾烈な戦い。今のメノルが本気なら、自分は実力を隠していた相手に全力で苦戦していたことになる。
勝てない。敗北という絶望が心を折った。
「そんな…」
「ここで終わりだよ。アクトナイトは怪人に敗北する。そういう運命だったんだ」
ピキピキピキピキ…
ヘルメットがもうすぐ割れる。横に目をやると守りきれなかった地球が見えた。
死んだ後、きっと信太郎はまた魂だけの存在になる。そして地球がメノルに破壊されるのを、ただ見ているしかないのだ。
「俺じゃあダメだった…ごめん…!」
そして遂に、Sアクトナイトの頭部が砕けて信太郎の頭が現れた。
最期は感じられる全てがスローだった。死ぬことへの恐怖はない。
しかし、どれだけ立ち上がって結局は負ける運命だった。それが悔しかった。
(ごめん…本当に…)
『大月信太郎おおおおおおおおおおおおおおおおお!』
ジャアアアアアン!
翼竜のドラコは勝利を信じている。そして光速、神速を超えて信速へと到達し、信太郎の元に到着。ついでに頭突きでメノルを地球へ叩き付けた。
ガシッ
身体が死にそうだった信太郎の腕を男が掴む。宇宙空間で死にそうだった彼は、シャオの治癒能力によって何とか一命を取り留めた。
「信太郎、大丈夫か?」
「シャオ…みんな…」
「信太郎、最後くらい皆で戦おうよ」
シャオはともかく、自分を覚えていない啓太からも優しさを感じた。
「しっかし遅れてたらヤバかったな。生身だぞ生身」
「シャオさんもドラコさんも生身なのに平気なんですね」
「それよりさっきの怪人、あいつが本当に本当のラスボスなんだよね?」
誰も信太郎への警戒をしていない。それどころか、いるのは当然のような振る舞いだ。
「みんな思い出したんだ。遠く離れていても伝わってくる、お前の強い思いを心で受け取ったから」
「早く乗りなさいよ。出発できないじゃない」
「行こうよ、信太郎君!」
信太郎は一度シャオの腕を振り払った。そして今度こそ、お互いの拳を力強く握ってドラコの背中へ移った。
感じるのはメノルのエナジーではなく絆の力。彼らは正真正銘の仲間である。
根拠は信太郎がそう信じられるからだ!
「全てが決まる最後の戦いだ。負けは許されないぞ」
「こんだけ仲間がいれば勝てますよ!」
今ここに、真の決戦を前に、遂に戦士たちが揃った!
「まだ戦えるよな、信太郎!」
「あぁ…アクトベイト!」
「いたた…」
最終怪人メノルは世須賀市の市街地に大きなクレーターを作って倒れていた。幸いにも怪我人などは出なかったが、クレーターからはメルバドアル達が登って来ていた。
「怪人だ!みんな逃げろ!」
「うわああああああああああ!」
「見物なんかしてる場合か!」
街中はパニックなる…と思われていた。
「こっちへ!焦らないで!」
「乗り物から降りて避難をしてください!」
「なるべく遠くへ!怪人から離れろ!」
宇宙での戦いで、信太郎に助けられた者たちが避難誘導を開始していた。しかも、メノルが襲来する可能性は事前に伝えられ、少し前から避難する住人の姿もあったのだ。
「おい!空を見ろ!」
「来た!俺達も避難するぞ!」
「今回も頼んだぞ…アクトナイト!」
ゴゴゴゴゴ!
巨大な影が空から近付いて来た。そしてそれを迎え討つために、怪人はゆっくりと立ち上がった。
「熱い魂を持つ男!アクトナイトフレイス!火野将矢!」
「上善水の如し!アクトナイトアーキュリー!清水奏芽!」
「生命の緑と願いが集った翼の白!ウィングアクトナイトジュピテル!鈴木啓太!」
「どんな悪だろうと打ち砕く!アクトナイトビヴィナス!金石千夏!」
「照らす光!」「戦う正義!」「守る愛!」
「三つの心が生み出す奇跡!」
「三つの刃を重ねて一体!」
「三つの魂合わせた戦士!」
『アクトナイトソウルトリオ!』
「朝日昇士!」
「灯刀那岐!」
「陽川芽愛!」
「アクトランサーウェポン!二地剛!そしてウェポン!」
「アクトナイトサートゥーン!佐土原美保!勝つぞおおお!」
「スーパーヒーラーシャオ!癒すぜ!」
「スーパーアーマードラコ!合体だ!」
「メアリスのルク!一緒に戦わせてもらって光栄です!」
「もう言葉はいらねえ!ただ信じている!それが俺、Sアクトナイト!大月信太郎!」
『アクトナイツ!行くぞおおおおおおおおおおおおお!』
ドオオオオオオン!
口上を延べ終えた瞬間、ドラコがメノルと衝突した。
「私は街の人たちを狙うメルバドアルを倒します!皆さんはメノルに集中してください!」
「任せたぞ!あたし達はこいつらに勝つ!」
『応!』
ルクは飛び降りると、両腕の盾から発生する光の刃で無限に現れるアル達を相手にした。
「ウオオオオオオ!」
ドラコは叫ぶ。右腕に翼竜の頭部を残して人の姿に変わり、渾身の熱球を放った。
「君なんか僕の」ザザザ!
死角からアクトナイト達が攻撃を放つ。だが、戦士達の能力を合わせてぶつけた攻撃はメノルには効いていない。
「僕の攻撃で植物が発生しない!こいつは生物じゃないのか!?」
「でも、私の攻撃でも消滅しないよ!」
「とにかく攻撃しろ!…やっぱ散開!」
ドラコが離れ、巨大化したアクトランサーWの隕石のような拳がメノルへ落とされた。攻撃は指1本で受け止められてしまうが、そちらに気を取られている隙にサートゥーンが斬り抜けた。
怪人の周囲には砂粒が残り、体内へと入り込んだ。するとメノルの身体がガクンと揺れて、膝を曲げた。
「よし!」
「鬱陶しい…!」
シュウウウウ…ガン!
メノルの身体から槍が放たれる。攻撃が成功したと油断していたサートゥーンは反応に遅れたが、Sアクトナイトが彼女を守った。
「…おおおおお!?ありがとー!」
「油断するな!」
砕けた槍からは猛毒の光が溢れ出す。それをフレイスが焼いて処理した。
「だったら…パワーアップだ!」
フレイスがアクトブレイドを手に持つ。それにSアクトナイトが光を与えた。光を受けたブレイドは複数に増えて、アーキュリー、ビヴィナス、サートゥーンへ渡った。
ホープフレイス、リンクアーキュリー、プロミスビヴィナス、サートゥーンバスターが揃い踏み、一斉にメノルへ仕掛けた。
仲間という希望、深まる心の繋がり、勝利の約束がアクトナイト全員の出力を高める。
『ぶった切る!』
4人の攻撃が干渉することなく怪人を突く。だがメノルは攻撃のエネルギーを吸収、倍増して口から吐き出した。
『うわああああああああ!?』「まだあああ!」
攻撃を受けてもその場に立ち続けたサートゥーンが急加速で突撃する。現状で最もスペックの低いはずのサートゥーンは、メノルの迎撃すら回避。高速回転させたアクトバスターで敵を連続で斬り付けた。
「くっ!手応えねえ!」
「諦めるな!」
ランサーは押し続けていた拳を引き、今度は巨大な槍を頭上から突き下ろした。
『ダアアアアア!』
ザン!
サートゥーンは回転力を乗せた一撃で怪人の身体を胴から断絶した!
ドォォォン!
そして崩れた身体を、ランサーの巨大な槍が押し潰した!
ググググ!
さらに捻り潰そうと槍を捻る。しかしアクトランスウェポンは持ち上がり、下から潰したはずの怪人が現れた。
「重いよ」
「なにっ!?」
あり得ない程の怪力で、ランサーの巨体が投げ飛ばされる。ランサーは瞬時に身体を元の大きさへ戻し、向かった先にいるサートゥーンと衝突した。
「あれで倒せないのか!」
「先輩、大丈夫ですか!?」
『俺たちが相手だ!』
今度はSアクトナイトとソウルトリオが前後から挟み撃ちをしようとしていた。
怪人は腕を増やすと、2人の戦士による連続攻撃を全て防御し、さらに反撃まで行った。
「…」
「口数が減ったな!喋る余裕がないのか!」
「僕の中には特異点の力が残っている。いや、もうなくなっているはずなのにゼロにならないんだ」
「何を…?」
「分からないのか?僕は新たな創造主になったんだ!特異点はもう必要ない!」
その話が本当なら、自分たちは絶対に勝てない相手と
戦っていることになる。弱気になったSアクトナイトの剣が鈍り、心臓の位置に直撃を受けた。
「ウッ!?」
そして背後でも、背鰭のように現れた巨大な刃がソウルトリオを襲った。
ザォン!
刃が迫る。だが変身を解除することで攻撃を回避した三人は生身で攻撃を仕掛ける。
ザクッ!ザクッ!ガァン!
昇士と那岐が切り裂かれたが、芽愛はアクトシールドで攻撃を防御。彼女の刃がメノルに触れた。
しかしダメージにはならない。芽愛も深い傷を追って、昇士たちの元へ跳ねられた。
「僕には勝てないよ。アクトナイト達は僕に負ける。そういう風に決まって、その流れが出来ているんだ。ここから逆転勝利なんてことはない」
「そんな…そんなはずは…!」
変身の解けた信太郎は立ち上がるが、メノルの言葉に戦意が失われつつあった。
「ア…アクト…」「くどい」
ギュウウウウン!
突然、謎の力に身体が引っ張られる。他の少年たちも同じように身体が浮き上がり、1ヶ所へ集められた。
「痛い!剣当たってる!」
「なんだこれぇ!?」
「光が吸い込まれてる…まさか、ブラックホール!?」
「ブラックホールなんて物理的な攻撃じゃない。ここに入れば全てが消える。肉体と魂だけじゃない。存在や過去の全てがこの世界から失われる。君たちを削除するんだ」
信太郎が世界を改変した時とは違う。本来あるべき存在が、この宇宙からなくなってしまう。
もしも彼らが削除されたのなら、記憶や行動など、過去が積み重なって出来た今の世界は崩壊を起こし、滅茶苦茶になる!
「ここまでなのか…」
削除の力場に最も近い信太郎の身体が崩壊を始める。皮膚が崩れ、血が溢れ出た。
「せっかく皆が一緒なのに…それでも俺は負けるのかよ…!」
「心の力までも吸い込まれている…変身が維持できない!」
「感覚がないから気付かなかったけど…もう足がない!」
最期には何も残らない。彼らはここで削除される。長かった戦いに終止符を打つのはメノルだった。
「諦めんなよ…皆!」
しかし、削除されていた身体の一部が再生を始めた。ここまで追い込まれてもシャオはまだ諦めることなく、自分のやるべきことに全力を尽くしていた。
「刃はまだ折れてねえ!戦えるだろ!」
「そうだ…まだ戦える…俺たちは勝つんだ!」
そしてゼロになっていた心の力が沸き上がる。
勝つ!勝てる!勝たないといけないんだ!戦っているのは自分だけじゃない!一緒にいてくれる仲間がいる!
「信じる…俺の力も皆の力も!だから…」
『勝つんだああああああああああああ!』
カツン…
諦めない。そして勝利を信じる戦士たちの刃、そして心が重なったその時、奇跡が起こった。
「なに…!?」
信じられない奇跡にメノルは目を疑おうとした。しかしその光景はあまりにも強く輝き、視線を逸らさずにはいられなかった。
「「「「「信じる力が心を繋ぐ!」」」」」
「「「繋がる心で刃を振るう!」」」
「「振るった刃に一つの思い!」」
「「一つの思いは勝利する体を成す!」」
『心と刃を一つにしたこの体!心刃一体!信アクトナイト!』
ソウルデュオ、ソウルトリオを超えた融合形態。
その名は信アクトナイト。少年少女だけでなく、シャオとドラコも合わさった最強の姿だ。
「まだやる気かい…絶対勝てないのに」
「当たり前だ!勝つまで何度でもやってやる!」
「何度でもって…次があると思ってるの?」
メノルは苛立っている。アクトナイトがここまでしつこいとは思っていなかったようだ。
「そうだな…今度こそ終わらせる!勝つぞ!」
『応!』
「この剣は皆の心だ!勝利を信じる俺たちの一撃!これでお前を倒す!」
信アクトソードに融合者たちの心の力が集まる。刃は主であるアクトナイトの何倍も巨大化し、やがて宇宙にまで到達した。
『心刃一体!シン!アクトナイト!スラッシュウウウウウウウウウウウウ!』
ズウウウウウン!
アクトナイトが剣を振り下ろした!そしてその場から1歩も動かないメノルへ直撃した!
バキィン!
だが巨大な刃はメノルに触れた瞬間、音を立てて折れてしまった。
「フン…心、折れちゃったね」
『もう一度行くぞおおおおおおおおおおおお!』
二度目のシンアクトナイトスラッシュを振り上げる。しかしこれも、メノルに傷1つ付けられずに折れてしまった。
「しつこいな…」
『まだだぁ!』
三度目、それから四度目。アクトナイトの必殺技は何度ぶつけてもメノルに効かなかった。
ダダダダダダダダダダダダ!
攻撃のペースが加速して、10000回目の攻撃を入れた時、変化は現れた。
ダァン!
「!?」
刃に亀裂が走るが、ギリギリのところで耐えたのである!
ダァン!バキィン!
再びぶつけると今度こそ折れてしまったが、それでも攻撃は続いた。
「まだ続けるつもりかって思っただろ!」
「!」
「俺たちは勝つまで続けてやる!言ったはずだ!この剣は皆の心だ!心が折れても皆いるから立ち上がれる!この剣も皆の力があるから振れるんだ!この一撃が効かなくても、次で倒すと俺たちは俺たちの力を信じている!」
「何がそこまで君を強くした…大月信太郎!」
「思い出だ!心に刻まれた記憶だ!」
「思い出…?君が…?忘れたい事ばかりの人生を送って来た君にいくつ思い出がある?大した思い出でもないだろうに」
「数え切れない程にある!忘れたい記憶も俺を強くしてくれた大切な思い出!忘れたくない記憶もある!欠けたらいけない思い出がある!今この瞬間!皆と戦えていることだって!俺は心に刻んでいる!それが全部合わさったのが俺!今この瞬間の大月信太郎なんだ!」
刃は折れる度に強くなる!それは苦難に何度も心を折られて、それでも戦い続けた戦士たちのように!
そして無数の折れた刃は1つに合わさり、この宇宙よりも大きくなって剣と合体した。
「信じるんだ!俺たちの勝利を!」
『シン!アクトナイト!スラッシュウウウウウウウウウ!』
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
巨大な刃が創造主となったメノルと激突した。何度折れても諦めなかったその剣は、今度こそ折れなかった。
「ウオオオオオオオオオオオオ!」
「僕が…消える…!?」
怪人は刃を受けて、遂に何も遺すことなく消滅させられた。
アクトナイトの一撃は最終怪人メノルのみならず、宇宙を支配していたその力を断った。アクトナイトは運命を切り開き、この宇宙を守ったのだった。
初めて戦った時と似ているようで違う夜。長い戦いは本当に終わった。
次の日、信太郎はルクと共にこの世界から旅立つ事になった。
「そんな急いで行かなくても…」
「この宇宙で混沌を発生させる存在は俺だけなんだ。また怪人が出てきて、街に迷惑が掛かけたくないしな」
「寂しいよ…せっかく思い出せたのに」
「俺のこと、もう忘れるなよ」
前髪の右側が、ルクと同じようにギザギザの牙髪へと整えられていた。
「信太郎君が立派なメアリスになって混沌を発生させないようになれば、また会えますよ」
「…みたいだし、また会おうな。みんな」
ルクが次元を渡る準備を始める。信太郎は仲間たちに背中を向けた。
「…まだゲートが開くまで少し時間が掛かります。話をしていても良いんですよ」
「いや…こういう時こそ言葉は少なく、清々しい挨拶で充分なんだ」
ポツ…ポツ…ザアアアアアア…
清々しいとは呼べないような天気になった。信太郎の頬には雨粒と、別れを惜しんで溢れる涙が流れていた。
「また会う時まで元気でな!…最後の戦いの時、凄くカッコ良かったぞ」
「私たちの結婚式にはちゃんと来てよね!」
「今日までの全部、絶対に忘れないから!」
「ひねくれ者に戻るなよ~!」
「もしも何かあったら助けに行くから呼んでくれよな!」
「他所の世界の住人に迷惑かけないでよね!」
「きっと今の信太郎君なら何があっても大丈夫!頑張ってね!」
「他の宇宙にも地球のような場所があって、それを脅かす驚異があるのなら、お前が守れよ」
「お兄ちゃ~ん!お父さんとお母さんは私たちに任せてくださ~い!」
「将矢!お前には敵わねえよ!元気でな!奏芽!頼んでくれるならスピーチしてやるよ!啓太!もう死ぬんじゃねえぞ!せっかく生き返ったんだから楽しんで生きろよ!千夏!お前こそ俺みたいになるなよ!スゥゥゥ…昇士!お前の助けなんかいるか!芽愛を泣かすなよ!那岐!そのトゲ付いたような性格直せ!芽愛!昇士が嫌になったらいつでも俺のところに来ていいからな!剛!約束する!だからこの星はお前に任せたぞ!美保!気色悪いからその呼び方やめろ!」
戦いの後、アクトソードはSアクトソードと融合した。マテリアルも全て信太郎に渡された。
変身できなくなった少年たちだが、この先なにがあってもきっと大丈夫だろう。もう戦うことはない。もし戦うことになったとしても、今の彼らは負けはしない。
「シャオ!ドラコ!昔のアクトナイト、俺たちが守ったこの宇宙を任せたぞ!」
「…Sアクトナイト!頑張れよ!」
「あたし達のこと忘れんじゃねえぞ~!」
今まで黙っていた二人も涙を流して言葉を送った。
そして別の世界へ渡るためのゲートが現れた。
「短い間でしたがお世話になりました。皆様と戦えた事、誇りに思います!」
「じゃあな、俺の大好きな皆!また会おうぜ!」
ルクは一礼をした。そして信太郎は振り向かずに前へ進んだ。
二人が通ると、ゲートは消滅。雨は振り続けていたが太陽の光が差し込む天気雨だった。
「ハンカチ…なんて必要なさそうですね」
信太郎は一度涙を拭うと、涙を堪えて真っ直ぐ進んだ。
彼らが歩くのは宇宙の外。何も存在しない空間である。ルクは別の宇宙からここを通って、信太郎のいた世界へやって来たのだ。
「あぁ。それより俺はこれからどうなるんだ?」
「色んな世界で人を助けたり悪と戦ったりします。そして今回と同じように、その世界を狂わせる混沌を処理するのが第一目標です」
信太郎は知っている。それらがどれだけ大変な事なのかを。
「不安ですか?」
「まさか。俺には皆との思い出があるから大丈夫だ…でも、少しワクワクしてるかな。別の宇宙…どんなことが待ってるのかって」
「ふふふ、私も初めてメアリスになった時、同じ気持ちだったと思います」
少し歩くと、先に光が見えてきた。どうやら、もう別の宇宙に辿り着くみたいだ。
「そうだ!今後メアリスとして活動していく上での名前を決めないと…」
「大月信太郎じゃダメなのか?」
「一応、メアリスという存在に変わるわけなので、名前は変えてもらえると…いえ!嫌ならそのままでも良いんですけど…」
少し考えたが…これしかないと信太郎は名乗った。
「そうか…なら俺は、これからもアクトナイトだ!」
最終話 心を信じる力
最終話はこれにておしまい。
そして心刃一体アクトナイト、これにて完結。
されど少年たちの人生は続いていく。旅立った友とまた会う日を待ち望みながら。
そして信太郎はアクトナイトとして前へ進む。
この先にもきっとつらいことが待っているだろう。心が折れることがあるだろう。
しかし彼は立ち上がる!信じる全てが力をくれると知っているから!
信じて進め!大月信太郎!正義の戦士アクトナイト!