第15話 少女の実力
アクトナイト記念公園へと避難した信太郎たち。
普段は地中にいるはずの宇宙船アクトーザーが地上にいた。信太郎たちは初めてその船体を見た。
シャオは信太郎の傷を治しながら、これから母星へと送っていくベンと少し話をした。
「お前の息子…残念だったな」
「ダズル…どうして…」
奏芽たちは心配そうに信太郎が目覚めるのを待っていた。
「おそらくお前の息子さんはあの少女に殺された。あの口振りからすると宇宙の事情を知っている…法律を破ったから殺されちまったんだ」
「私は息子に別荘を与えてやっただけだ…お前こそどうなんだ!お前だってまだ惑星外交のないこの星で子どもたちを巻き込んで戦っているじゃないか!」
「…俺はアクトナイトの代わりだ。今この星はメルバド星人に狙われている。惑星外交のないこの星を誰かが守らないといけないが誰も守ろうとしない。百年前にこの星を守ったアクトナイトももういない。だから俺はこの星にいる。あの人がやれることを俺たちが責任を持ってやるためにこの星にいる」
信太郎の治療を終えると、シャオはダズルと向かい合った。
「ルール違反に変わりはないじゃないか!」
「ルールを破ってるのはメルバド星人も同じだ…なんて自分の事は棚に上げねえ。けど俺一人がルール破りの罪人になってこの星の人たちを守れるのなら安過ぎるだろ」
ベンは宇宙船へと移った。間もなく回復した信太郎は目を覚まして立ち上がった。
「というわけでしばらく留守にする!一応お前たち三人には一度だけ戦えるパワーを渡しておいた」
「急過ぎない!?それに俺たちだけって頑張っても三回しか戦えないじゃん!」
「そこは…上手くやるんだよ!アクトブレイドは将矢が持ってるからそれ使ってな」
するとシャオは突然三人の頭を撫でた。ベンと話していた時の暗い表情から一転、とても穏やかな笑顔を見せた。
「え…なんですか急に?」
「戦えない俺の代わりにいつもありがとうな。二人にもそう伝えてくれ」
「地球を守るために戦ってるので感謝されても…それよりも子ども扱いやめてください。アクトナイトさんっていくつなんですか?大して離れてないでしょ?」
「俺は…四捨五入して五千歳ぐらいだな」
三人は宇宙船を見送り、帰ることにした。
「いや…年寄り過ぎない?」
「シャオじいちゃん…」
(変身できるのは一度きり…)
アクトナイトが地球を出たせいかソードを持っていても身体能力は普段通りのままだった。
「あれ…えいっ!」
「痛っ!何すんだよ!」
千夏は信太郎の白髪を指で抜いた。信太郎は痛そうに抜かれた部位を撫でていた。
「見て見て、白髪だよ」
「だな…見れば分かるよ」
「月みたいに綺麗な曲線だよ…大月君だけに」
「え、俺今喧嘩売られてる?貴重な髪の毛返して欲しいんだけど」
「考えてたって仕方ないよ。アクトナイトさんが帰ってくるまで頑張ろう?」
「…そうだな」
それからくだらない話で盛り上がった。奏芽と別れ、千夏は体調を崩した啓太の見舞いに行った。
アクトナイトが地球にいない今、怪人は自分たちで見つけるしかない。
一戦交えた仮面の少女が戦ってくれると思いもしたが、身体を貸している時に感じたシャオの悲しい気持ちを思い出すと、彼女に任せてはおけないと思えた。
家に帰ると相変わらず父親が情けない姿を晒していた。
「…」
「ただいまとか言ったらどうなんだよ」
部屋に行こうとすると酒の入っていた缶を投げつけられた。もしも中身が入っていたら信太郎は遂に自分を抑えられなくなっていただろう。
部屋に戻り信太郎はトロワマテリアルをデバイスモードにして情報を収集を開始した。
それから三日間、信太郎たちが認知している限りでは何事も起こらなかった。
校外学習当日、一年生たちはツアーバスに乗って移動していた。
「………」
信太郎は最後列の席で窓の外を眺めながら、高校生の校外学習が自然とのふれあいはどうなのだろうかと考えていた。
「ねえみんな、チョコ食べる?」
隣に座っていた芽愛が最後列の班員にお菓子を配った。
「ありがとう」
礼を言うと真華は袋を口の中へ。しかし信太郎はすぐに食べようとはしなかった。
そして昇士と那岐も信太郎に注目したままで、チョコを手に持ったままだった。そして他には聞こえない程小さな声で話していた。
「灯刀さん…本当に信太郎が?」
「疑うことはないはずよ。あなたも彼が変身するところを目撃したでしょ」
那岐は信太郎と、バスのどこかに座っている奏芽と千夏がアクトナイトだと知っていた。昇士もそれは分かっていたが…
「戦うの?目的は一緒なのに」
「一緒じゃないわ。彼らは私の敵よ」
信太郎を睨みつけると、那岐は昇士のチョコを奪い合計2つのチョコを口に含んだ。
今回の校外学習は各クラスでハイキング、ラフティングを行い、そのあとに別の街を散策するというものだ。
「道に沿って進んでいけば必ず目的地に到着出来ます。くれぐれも遭難しないように」
担任から冗談交じりの説明を受けた生徒たちは次々と出発した。信太郎たちの班も準備が完了したので歩き出した。目的地は普通に歩いて大体2時間ほどの場所だ。
「何事もなく行けば昼頃には到着だね。私たちはこっちだよ」
班のリーダーである芽愛を先頭に5人は山を登った。
「ふぅ…ハイキングで登るんだよな。じゃあラフティングで下るのか?」
「さっき湖があったじゃん。バスで途中まで降りてから、川を下ってあそこあまで行くらしいぞ」
信太郎を見極めるつもりで会話した昇士は誰よりも前を歩く那岐に駆け寄った。
「全然息切らしてなかったよ…」
「お前がだらしないだけよ」
那岐は波絶の入ったカバンを持ちながらも普段通りに歩いていた。自分の運動不足を痛感していると、隣に芽愛がやって来た。彼女も疲れている様子だった。
「大丈夫朝日君?今日暑いから水分補給しっかりね。はい塩タブ。灯刀さんもどうぞ」
「ありがとう…やっぱり大変だよね。俺、山登りなんて初めてだし」
「私も。明日絶対筋肉痛だよ~」
「情けないわよ昇士。私の助手らしくもっと気張りなさい」
那岐の言葉を聞いた芽愛が首を傾げた。彼女は二人の秘密も信太郎の秘密も知りやしないのだ。
「助手?…なんの話?」
「なんでもないわ」
「なな、気にしなくていいよ!………無関係な人を巻き込もうとしないで!」
「お前もその動揺をなんとかしなさい。見抜かれるわよ」
怪人と戦っている信太郎と那岐、そして体力のある真華は息を切らさずに歩いていた。一方で一般人の昇士と芽愛は既に疲れて歩くペースが落ちていた。
「少し休憩しようよ。このままのペースで着いても早いと思うし」
真華は近くの石に腰を降ろしたが、足元に出来ている蟻の行列を見てとても嫌そうな顔をしていた。
(ハイキングは何事もなく終わりそうだな)
信太郎はお茶を飲んで一息ついた。今この場で戦えるのは自分しかいないと、怪人が現れないことを祈っていたがここまで何も問題はなかった。
「信太郎君、余裕だね。運動得意なの?」
「まぁボランティアみたいなー…やつかな?」
彼の身体がここまで強くなったのも、アクトナイトとして戦って成長したからだ。
本当のことは言えないので適当な嘘を真華に言った。
少し休んでから出発しようとした時だった。遠くないところで爆発のような大きな音がした。
そしてそれからすぐに、信太郎の元へアニマテリアルのワイルドボアが走って現れた。
(何かあったんだ!)
信太郎以外の四人は同じグループだ。互いに何かあったらアニマテリアルで連絡を取ろうと決めていた。
「俺、様子見てくる!みんなはここで待ってて!」
「あ!大月君!」
ワイルドボアに案内された先は切り株だらけの場所だった。
四人は無事で奏芽と千夏はまだ変身していなかった。彼らの他にも蜘蛛のような怪人とメルバナイトシャインがいた。
「揃ったナ!ここでお前らをみな殺しにしてやるゼ!」
「蜘蛛怪人の能力はまんま蜘蛛だ!信太郎!俺のマテリアルを使え!」
信太郎が来るまでに敵の分析は完了していた。将矢からフレイスマテリアルとアクトブレイドを受け取った信太郎はすぐさま変身。
アクトナイトフレイスバスターとなり怪人の元に走り出した。
「させねえヨ!」
「邪魔だ!」
怪人を守ろうとするシャインが進路に割り込む。フレイスはバスターを振り回して威嚇した。
(変身できる時間は長くない…)
フレイスは何度も突きを繰り出して強引に攻撃した。メルバソードを弾くとアクトブレイドのトリガーを引いて能力を発動させた。
「いいぞ信太郎!」
「そのままやっちゃえ!」
集中している信太郎に声援は聞こえていなかった。フレイスは二つの炎の刃でシャインを追い払うと、今度こそ怪人を狙った。
「ハァッ!」
雄叫びと共に重たい刃を怪人に喰らわせる。怪人の能力によって辺りにはトイレットペーパーの芯ほどの糸が張り巡らされていた。
しかしここは開けた場所だ。糸を張れず能力を発揮できないここではフレイスの方が有利だった。
フレイスはマテリアルを叩き、強力な一撃を怪人へと入れ込んだ。
「どうだ!」
必殺技を受けた怪人はそれでも立っていた。フレイスはまだ足りないかとバスターを振り上げた瞬間、突然変身が解除された。
ソードに宿っていたアクトナイトのパワーが切れたのだ。
「そんな!もう!?」
フレイスバスターとなったことで消耗が激しく、信太郎が想定していたよりも早くパワー切れを起こしたのだ。
怪人は糸を吐き出して信太郎を締め付けて身動きを封じた。
「しまった!」
「大月君!」
「こうなったら私たちでやるしかないよ!」
「怪人すら倒せないとはアクトナイトも大したことないナ!」
救援しようと二人がマテリアルをセットしようとした時だった。
先日の仮面を付けた少女が刀を持って天から舞い降りるように現れた。
「なんだお前エ!?」
少女はまわりの五人に見せつけるようにシャインを圧倒してみせた。
「所詮光じゃこの程度カ…」
「あなたを殺すわ」
首に狙いをつけて刀を構えたが、蜘蛛の怪人はシャインを守ろうと少女に突進して弾き飛ばした。
「もう!うっざいな!」
怪人が時間を稼いでいる間にシャインが撤退した。
苛立つ少女は刀を握り直して、怪人を睨み付ける。
足元に落ちていたフレイスマテリアルを拾い上げると、刀の鍔に付いていたイーグルと交換してセットした。
「俺のマテリアル!」
「炎之型!壱之段!ファイアブースト!」
少女の刀が燃え上がる。怪人は糸を伸ばして逃げようとしたが、熱によって糸は簡単に溶かされた。
そして少女は怪人に接近し、縦と横に剣を振り怪人を四等分に切り分け、最後に刀の炎で焼却した。
少女は刀を鞘に収めた。そしてフレイスマテリアルを眺めていた。
「返せ!俺のマテリアルだぞ!」
「これには強力な炎の力が宿っていたわ。相性が有利なのに負けるなんて情けないわね。これは有効に使わせてもらうわ」
将矢が掴みかかろうとすると少女は腕を掴んで彼を地面へ叩きつけた。
「熱いのは炎だけで充分よ。頭を冷やして考えなさい。どうして勝てなかったのか、これからどうすればいいのか」
少女は言いたいことを言うと、背中の翼を広げてその場から飛び去っていった。
「ごめん将矢、奪われた」
「気にすんな…絶対に取り返してやる」
少し離れた場所。仮面を外した那岐が昇士から水筒とタオルを受け取っていた。
「見たでしょ。私なら一人でやれるのよ!」
那岐は手に持っていたマテリアルを自慢するように昇士の顔面に押し当てた。
「お、お疲れさま…」
那岐は波絶をカバンに入れると、それを昇士に突き出した。
「なに?」
「に、も、つ、も、ち!私の助手でしょ!」
本当に助手として見られていたのかと昇士は驚きながらカバンを受け取った。中には刀が入っているので当然重かった。
「ふぬぬ!…こ、こんなの持ってずっと歩いてたの?」
「そうよ。それよりも私の正体がバレないようにくれぐれも気をつけなさい」
「これからどうするの?」
「私の正義であいつらの正義を否定する。束になっても優しくなっても私には敵わないって証明するの。私が街を守る。あいつらはいらないの」
二人は芽愛たちのいる場所に戻ってきた。そこには疲れた様子の信太郎もいた。
「あ、戻ってきた!もうダメだよ!遭難したらどうするの!?」
「ごめん…」
「………」
「ごめんなさい…灯刀さんもほら」
「悪かったわね」
それから五人は目的地を目指して再び歩き出した。
信太郎はあの仮面の少女から、どうやってフレイスマテリアルを取り戻そうかとずっと考えていた。