第149話 決戦!Sアクトナイトvs最終怪人メノル
大地の存在しない宇宙空間でSアクトナイトが走り出す。無重力になれていない信太郎は足から放出するエナジーを大地の代わりにして、それを蹴って走っているのだ。
「喰らえ!」
初手に振るった横薙ぎの刃はメノルの腕に止められた。怪人と化した彼の腕は禍々しく、闇を彷彿とさせる黒く刺々しい外見は間違いなく悪と呼べるものだった。
ボンッ!
攻撃を止められ、下がろうとしたSアクトナイト。だがメノルの胸から突然生えた第三の腕には反応できなかった。
ストレートを受けた身体は後方へ飛んで行く。すると、大地として利用していたエナジーを今度は背面から噴出してブレーキを掛けた。
放出したエナジーはキラキラと輝き、やがて消えていった。
Sアクトナイトは再び宇宙を全力疾走。メノルにまた横薙ぎを繰り出した。
「無駄だよ。スタンダードな力じゃ僕には」ゴギィ!!!
メノルがまた剣を止めようと構えた腕が砕けて折れた。
「これでもパワー不足って言えるか!」
ゴキィン!
さらに刃を打ち付けられ、腕はバラバラに砕けた。しかも今の一撃は、二度目の攻撃よりパワーが上昇している。
「なるほど…厄介な能力だ。けど壊せた腕はほら、元通りだ」
しかし破壊した腕は一瞬にして再生し、Sアクトナイトは顔面を殴られた。
「もう今の君に特異点の力は残っていない。その仮面を割れば僕の勝ちだ」
ヅヅギン!
殴られた頭でのヘッドバッドが炸裂。しかし狙いの仮面が目の前に迫っても、メノルは動じない。
「お望みの顔面だ!」
ヅン!ヅン!ヅン!ヅン!ヅン!
Sアクトナイトは何度もメノルの顔面に頭をぶつけた。まるで枯れ木に穴を開けようとするキツツキの様だ。
ヅン!ヅン!ヅン!ヅン!ヅン!
「…!?」
しかしSアクトナイトが穴を開けるのは枯れ木ではなくこの宇宙だ。
「三次元を割って別の空間に押し込むつもりだね」
バリンッ!ドワッ!
別空間への裂け目が発生した瞬間、Sアクトナイトが蹴りを放つ。メノルがその裂け目の中へ入った後、Sアクトソードの刃先を向けた。
「アクトビーム!」
ビイイイイイイイイイ!
剣から放たれた光線は別空間の中へ。その威力は凄まじく、メノルを蹴り入れた空間を崩壊させてしまった。
「アクトリペア!」
ビュン!
崩壊がこちらの空間へ伝播する前に裂け目を閉じようと能力を発動。その瞬間、メノルが飛び出した。
「それくらいの攻撃じゃ僕は死なない!」
空間を破壊するビームに耐えたメノルはそのまま、Sアクトナイトの頭部に膝蹴りを喰らわした。
ドォン!
しかし怯まずに反撃。力強く突き上げた拳で、メノルは頭上へと吹き飛んで行く。
メノルはすぐにブレーキを掛けず、背後から存在を感じていたある物体を掴んだ。
「なに!?」
ガシィッ!と掴んだのは偶然この付近を通り掛かっていた宇宙船だった。
「卑怯だぞ!」
「違う、人質なんかじゃない」
ゴッ、ゴッ、ドォォォン!
宇宙船の壁を蹴破って無数の怪人が飛び出てきた。さらにメノルは、乗組員のいなくなった宇宙船を投擲したのである。
「どれだけの人を巻き込めば気が済むんだ!」
先に飛んできた宇宙船は真っ二つに叩き割った。そしてSアクトナイトは怪人たちに迷うことなく攻撃した。
メノルが宇宙船の乗組員たちを改造して作った怪人たち。彼らは攻撃を喰らったが、ダメージを受けてはいなかった。
怪人たちは銀色の球体に包まれると、元に戻っていく。そして球体は地球へ向かって降りていった。
「なんだ、元に戻せるんじゃないか」
「けれど襲われたことは忘れない!お前はあの人たちの心を傷付けたんだ!」
「君も同じでしょ。闇に堕ちて思うがままに暴れた。そして恐怖を植え付けた。僕と同じじゃないかな」
「だからこそ俺は戦う!恐怖を克服した後、その人たちがこの世界で生きられるように!」
Sアクトナイトは敵を貫こうと一直線に突撃。それを真っ向から受けるつもりか、メノルはググッと右腕を後ろへ引いた。
ドオ"オ"オ"ン"!
聖剣と魔拳が衝突。次元が震え、二人は僅かに硬直した。
そして先に動いたのはSアクトナイトだ。刃からのビームで怪人を吹き飛ばし、それを追って剣を振り上げた。
ザァァン!
腹部から頭部にかけて、怪人メノルに大きな傷が付いた。傷口からは虹色の光を噴き出しているが、ダメージへのリアクションは見せなかった。
「それで終わり?」
「引っ掛かるかよ、そんな挑発。傷口から溢れるソレ、この鎧すら貫通する猛毒だろ」
ビュン!ビュン!ビュン!ブゥン!
Sアクトナイトは再びビームでメノルを遠くへ飛ばし、猛毒の光を振り払った。
離れた場所にいるメノルの身体に傷はなかった。猛毒を持ちながら驚異的な再生能力もあるようだ。
「…雑兵も出てきたな」
いつの間にかメルバドアルに包囲されていた。恐ろしいのはそれらから感じる強力なエナジーだ。メノルのエナジーはもはや感じられないが、アル達が放出するのはこれまでの敵とは比べ物にならない程のエナジーだった。
「彼らは没だよ。アクトナイト達と戦う機会を失った哀れなやつらだ」
「俺で良ければ相手になってやるよ!」
………
宇宙の流れ、つまり時間が停止した。その中を自由に動けるのはメノルと、時間を止めたアルだけだ。
当然Sアクトナイトは動けない。アルは止めを刺そうと標的へ接近した。
スッ…
時間が動き出した時、やられていたのはアルの方だった。
「能力無効化…つまんないね」
「違う!アクトマテリアルは行動の力!動く意思があれば動ける!それが例え止まった時間の中だろうとな!」
そう、Sアクトナイトも止まった時間の中を動けるのである。敵は動けないと油断して近付いたアルは、居合い切りを喰らい撃破された。
厄介な能力の存在を知った途端、アル達が一斉に襲い掛かった。
「邪魔だあああああ!」
しかし、今のSアクトナイトを止めることは出来ない!メルバドアルは全て、一瞬の内に片付けられた!
「所詮は没か…」
「斬る!」
ザアアアアン!ドオオオォォォオオオド!
剣を振り降ろした。そしてメノルと。その背後の岩石が真っ二つになった。しかしそれでもメノルは元に戻ってしまい、反撃の蹴りを受けた。
「力任せじゃ僕は倒せないよ」
「自分が有利って分かってから随分余裕が出て来たな!」
メノルの中で焦りや憤りの感情が収まっていた。特異点の力は僅かに残っている。目の前の厄介な戦士さえ倒せれば、地球壊滅は容易なことだ。
「俺も本気で行く!」
ゴッヅ!
蹴られたから蹴り返す。そうしてメノルを引き離したSアクトナイトの背後には大きな月が存在していた。
「暗黒の夜に輝く神秘の星よ!俺にその力を貸せ!」
そう叫んで掲げた手にはセルナマテリアルが。衛星であるはずの月は突如輝き始め、放たれた光は手元のマテリアルへと集まっていく。
「神秘か…今思えばなんて曖昧な力なんだ」
「神様目指してたやつがそんなこと言うのか!まあいい!月の力を受けたセルナの力!見せてやる!アクトベイト!」
Sアクトソードにはまだ窪みがある。Sアクトナイトは月の力を得たセルナマテリアルをそこに押し込んだ。
銀色から白銀へ。月から特大の神秘の力を得た今、Sアクトナイトセルナへと変身した。
「けれどその力でも僕には敵わない。君のは人間が思い描いた神、僕のはこの宇宙を創った創造主。力は僕の方が上だ!」
「関係ねえよそんなの!とにかくお前を倒さないといけないからなあ!」
ドドドドドド!
2つの力が衝突する。お互いの攻撃がぶつかり合う中、メノルは身体の一部から剣を生み出した。
背中に発生した腕が剣を握り、まるで蠍のように突きを繰り出す。Sアクトナイトは剣を避けて、敵を薙ぎ払った。
「ウラアアアアアッ!」
世界を守るために行動う戦士に猛毒は効かない。Sアクトナイトは光を突き抜けて、さらに攻撃を加えた。
「急にパワー負けし始めた…だったら」「ダアアアアア!」
光を超えた神速の剣さばきにより、メノルの身体は粉々になった。
「これで終わりじゃないんだろ!?アクトグラビティ!」
粉々になったメノルが1ヶ所へ集められる。Sアクトナイトは剣を構えて、恐ろしい威力のビームを照射。
これまで戦ってきた怪人なら、粉々にされた時点で死んでいる。
「まだだ…」
「口もねえのに喋るな!」
声が聴こえて、ビームの威力を上げた。生命力なんて生物的なものではない。今のメノルは強い気持ちだけで生き続けていた。
これはもはや生命体とは呼ばない。存在はしているがただの物。生命体に似ていて心を持った怪人と呼ぶべきだ。
ヌグッ!
次元すら破壊する熱戦から腕が現われた。それから肩、頭と来て、バラバラだったメノルは元の状態で熱戦の上に直立した。
「こいつを倒すには…」
「見せてよ。君の全力」
ビーム攻撃を中止し、Sアクトナイトは月へと着陸。真上にいるメノルに見下ろされる位置から剣を構えた。
「かつての、いやそれ以上の!俺のセルナスラッシュを見せてやる!」
「僕はその全力を打ち破る。そして、運命を変える」
「セルナ!Sアクトスラアアアアアアッッッッシュ!」
「メルバドスラッシュ」
我アアアアアアアアアアアアアアアア!
Sアクトナイトセルナのセルナアクトスラッシュ!最終怪人メノルのメルバドスラッシュ!
2人の強力な一撃が月面でぶつかる!
その時、宇宙の混沌が加速した。遠くに見える星々はチカチカと点滅を起こし、惑星や衛星の自転が速まった。
「感覚が鈍る…!俺は生きてるのか?そもそも存在すらしてるかも分からなく…」
「君のパワーを利用させてもらう。そうしてこの世界を」「書き換えさせるかよ!」
バァギイイイン!
パワーを10000000から0より下のマイナスへ。メノルへの力の供給を絶ちつつ、奪った力だけで戦っていた彼の剣を弾き上げた。
「そんなに自分の世界が創りたいか!だったら地獄の底で創作でもしてやがれ!」
「…」
「この世界は生きる人間みんなの世界だああああああああああああああ!」
月面から飛び立ったSアクトナイトはメノルの繰り出す数々の迎撃技を潜り抜ける。
そして引っ張るように握っていた剣を振り上げて、最終怪人に引導を渡した。
地球では、月の近くで太陽よりも眩しい輝きが観測されたのだった。