第146話 神に飽きられた世界
他がどうなのかは知らないけど、僕たちの世界は1冊のノートに書かれた物語から始まった。
ビックバン、類人猿からの進化よりも先に、大月信太郎がアクトナイトに変身したあの夜からこの宇宙は始まった。
100年前のアクトナイトやメノルと名前を与えられた僕は、その後に生まれた存在だったんだ。
「いい加減に…しろ!」
信太郎が守っているノートには持ち主がいた。僕はそれを神様と名付けた。様付けしてるけど、別に敬っていたりはしない。その方がしっくり来るというだけだ。
その神様はノートに物語を書いた。それによって別の宇宙が誕生していたことには気付いていなかったみたいだけど、とにかく物語を書いた。捻くれた主人公、大月信太郎が成長していくという物語だ。
しかし神様は気まぐれだ。物語を書くことに飽きてしまったらしい。ノートの物語は雑に締め括られており、それを綴っていた作者もいなくなってしまった。
僕はいつからかその事を知っていた。理由は分からないけど、僕は使命だと思っている。
ノートを手にして、願った世界を創れ…という。
「このノートは俺たちが触っていい物じゃねえんだよ!」
それを手にするためなら、どれだけ痛め付けられても変わらない。
世界を改変するそのノートがあれば…信太郎、君だって幸せになれるんだ。どうしてそれが分からないんだ。
「自分の幸せが何か分からないお前なんかに!俺を幸せに出来るわけがない!」
信太郎の拳が顔面にめり込む。ここで戦い続けて、いったい何Lの血を流したのだろう。
「それでも…それでも僕は諦めない!」
「余計なお世話なんだよおおおおおっ!?」
噴き出した大量の血が信太郎の目に飛び込んだ。視界を失った事に戸惑う隙に、信太郎を避けてノートに手を伸ばす。
これでようやく…
世界を好きなように出来るとしたら、人は何を望むだろう。
正義の為に法を作る?何も不足しない永久の法則?戦争を起こさない穏やかな心?
どうして難しく考えるのだろう。世界を好きなように出来る。なら、全ての人間が幸せになるようにすれば良い。
これはそれが出来る絶対の力なんだ。
ドガアアアアアアアアアアアアン!
手が届きそうだったノートが、突然現れた物体によって部屋の外へ吹き飛ばされた。
これは…宇宙船?
「メルバド星に着陸しようとしたら何かに突っ込んだぞ!どうなってやがる!」
「ここが特異点…?単なる子供部屋っぽいけど」
「誰かいる!どっちが信太郎でどっちがメノルだ!?」
「信太郎!」
オリジナルのアクトソードを背負った彼は…確か信太郎のイマジナリーフレンドのシン。空想の人間が一人の人間として活動しているのか…
「こいつが大月信太郎か…全然知らない顔だぞ」
「これが本当に私の義兄なんですか!?冴えてない!こんなお兄ちゃんいりません!先輩あげます!」
「あんまり強くなさそうだけど…」
「助太刀に来たのか賑やかしに来たのかどっちなんだよ…」
「すまん、ここに来るまでに説明したんだけど、啓太以外納得させられなくて…」
仲間が加勢に来る…想定内だ。これから始まるのは最終決戦。総戦力で立ちはだかるに決まってる。
それでも彼らに勝利した先に…人々の幸せがある。絶対に負けられないんだ。