第144話 剣を交えて
メルバド星人の脅威は去った。
シャオは王子エルビスがアクトナイトによって討ち取られた公表し、戦士達には感謝状などが贈られることとなる。
しかし、彼らにとって重要なのは名声や謝礼などではない。メルバド星人のリーダーエルビスを討ち取った謎の少年、シンの事だった。
「シャオ!こいつ何なんだよ!なんでやっとこさ取り返した剣をこいつが持ってるんだ!」
「お、落ち着け将矢!これには深~い訳があってだな…う~どう説明すればいいか…」
世界が書き変わったと説明するのは中々難しい。シャオは少し頭を抱えてから…
「飯食いながら説明する!」
シャオは宇宙船アクトーザーから道具と食材を運び出して準備を始める。待機状態のアクトーザーが地上に姿を出しているのは珍しい光景だった。
「よ~しシャオ、手伝ってやる」
「ドラコ!お前は調理場に立つな!」
「んだよ昔に比べりゃ食える物作れるって!にしても良い食材揃えたな~」
「ほら、これでも食ってろ。好きだったろ?」
「あ~チョコレーオガエル…今はあんま…」
「んだよ!?せっかく買ってきてやったのに…」
宇宙人二人が盛り上がっているのを余所に、アクトナイトの少年たちはシンとルクの周りに集まった。
「あの、私達は味方ですからね。だから、そんな目をされるとちょっと傷付くって言うか…」
「…分からない。どうしてお前がその剣を背負っている」
剛が注目したのはシンの剣。オリジナルのアクトソードだ。
「メルバド星人から取り返したその剣。それをどうしてお前が背負ってるんだ?シャオのやつ、なに考えてんだ…?」
友好的な将矢もこればっかりは納得いってないらしく、隣の奏芽も警戒している。
シンは味方とは認識されているものの、仲間とは認められていないらしい。
誰も信太郎の事は覚えていない。それに書き変わる前の世界ではシンとは深い関わりすらなかった。
だから、シンはその時よりも彼らとの距離感を覚えていた。
「なに言っても聞き入れてくれないんだろうね…」
「あの…」
すると、警戒する将矢たちを見ていた少年が沈黙を破った。
「もし嫌じゃなかったら、試合しない?」
「啓太!?なに言ってんの!?」
彼が言う試合とはアクトソードを握っての模擬戦の事である。下手したら怪我をしてしまうし、何の意図があってこの発言をしたのか、仲間たちは理解していなかった。
「…いいよ、やろう」
「よしなよ啓太!こいつうっかり装って殺しに来るよ!?」
「僕はそんなことにしない。変身出来ずともアクトナイトのつもりだ」
千夏の言う通りに殺される危険がある。それでも啓太は、彼女たちを遠ざけてシンと向き合った。
両者、剣を構えた。開始の合図などはなく、お互いに動き出すのを待っている。
「…」
「…!」
ガギィン!
啓太が先手を打つ。急接近して剣を振り上げたが、シンはそれを受け止めた。一回り大きいオリジナルの剣には重量がある。油断しなければ、手から弾かれたりすることはない。
しかし攻撃は止まらない。啓太は何度も剣を振り下ろした。一見するとただ面を狙って我武者羅に叩きつけているようだが、これも剣術である。
防御しているだけでは勝つことは出来ない。いずれ崩されると感じたシンは、刃が上がった瞬間に突進した。
ドッ!
倒れそうになった啓太は剣を軸に回し蹴り。シンを蹴飛ばすついでに転倒を防ぐ。
「まだまだ!」
そのつもりだったが、シンは蹴りを腹に受けても怯まず、その邪魔な脚を掴んでその場で回り出した。
「ハンマー投げでもするつもりかよあいつ!」
クルクルクルクルクルッ!バッ!
シンは啓太を投げ飛ばすと、拾い上げたアクトソードを投擲する構えに入った。
「あいつ本当に殺す気だよ!」「止めるぞ!」
「待てよ!邪魔すんな!」
調理場から追い払われたドラコが観戦に来た。彼女は試合に割り込もうとした少年たちの前に大きな翼を降ろした。
「シン!お前は殺す気でやれ!啓太は!アクトベイトして良いぞ!」
「ちょっとドラコ!なに言ってるの!?」
シンは容赦なく剣を投げる。そして啓太は変身して白い翼で剣を防いだ。白の戦士、ウィングアクトナイトである。
「昔のアクトナイトにはない翼の姿…」
ゾォォォン!
ウィングが急降下を始める。シンが手を伸ばすと、だらしなく落下していたアクトソードは彼の手元に戻って来た。
「来い!」
ドゴン!
地面が割れる程の一撃を受け止める。シンは潰されるような感覚に襲われながら、ウィングの刃を弾いて追い払った。
脚が痺れるがまだまだ戦える。ウィングは空を旋回して、こちらがどう出るか見ていた。相手が空中を制している以上、こちらが不利だ。
シンはアクトソードの先端をウィングに向ける。左目を閉じて、鍔で狙いを定めた。
「まさか!?」
「喰らえ!」
ピチュン!
シンのエナジーが光弾となって剣から発射される。それを察したウィングはいち早く翼を畳むことで防御した。
そして翼を広げた時には、敵の姿がどこにもなかった。
「ッ!」
背後へ跳んでいたシンが剣を振る。背中を切り裂き、さらに踏みつけるように蹴りを入れてウィングを地面に墜落させた。
さらに、そこから胸を突き刺そうと剣を向けた瞬間だった。公園の端に生えている雑草が突然変異のような成長をして、シンを捕えたのである。
地上に倒れているウィングの鎧には緑色が現れており、剣が地面に深く突き刺さっていた。
「しまった…うぅ!」
雑草は捕えた彼を引き裂こうとしていた。
ググググッ…
「そこまで!回復させるのめんどくさいからそれ以上怪我させんな!」
シャオが声をあげると、植物はゆっくりとシンを降ろした。
「どうだ啓太。これで満足か?」
「最初に剣が衝突した瞬間、強い気持ちが伝わって来た。彼は信用に値する人間だよ……………それにしても、過去に似たような敵と戦ったことがあるような…ないような…」
アクトソードを握る者たちは心が繋がっている。しかしシンだけは例外で、それで何を考えているのか分からない彼に、少年たちは警戒していたのかもしれない。
「とりあえず席に着け。何がどうなってるのか、細かいところまできちんと答えてやるからな!」
少年たちは用意されたチェアに座った。
「ルク?どこか行くの?」
「私は他で食事を取ってきます…入れそうな輪ではなさそうなので」
その後、シャオの料理を食べながらこの世界で何が起きているのか、そして何をしなければならないのかを話し合った。
記憶にはない信太郎という少年、そして真の敵メノル。最後の戦いはここからである。