第142話 侵略者たちの最終攻撃、開始
ルクと話をしてから数日。信太郎の事で悩むシンは、ひたすら剣を振って鍛練に励んでいた。
(確かに特異点で永久に戦いを続けるよりかは良いのかもしれないけど…だからってこの世界を去らないといけないのは可哀想だよ…)
シャオに相談しようかとも思った。しかし相談したところで、自分と同じように悩んでしまうだろう。
話を聞いたあの日から悩みに悩み続けて…
「…あれ?もう4日過ぎてない?オワロフに行ってから1週間は経ってるような…」
しかしシャオ達はまだ帰って来てない。アクトソードで連絡を取ろうとしたが、何の反応もなかった。
「今日は…○月の✕日!?ど、どうなってるんだ!?」
スマホの画面に表示された日付には、数字ではなく記号が記されている。今日は何度もスマホを開いたはずなのに、全く気が付かなかった。
「はぁ…はぁ…おはようございます」
息を切らしたルクが公園へやって来た。ここまで全力疾走してきたようだ。
「おはよう…ってルク!大変なんだ!スマホがバグってて…」
「バグが起きているのはスマホではなくこの世界です。私も今朝、ようやく違和感に気付けました」
「どういうこと!?」
「混沌が強まっているんです。こういう時は決まって良くないことが起こりますよ!」
改めて確認すると、シャオ達が地球を旅立ってから既に1週間どころか1ヶ月も経過していた。
「1ヶ月経ってるけど日付は変わらないままで…つまり、どういうこと…?」
「これが混沌です。気付かない内に常識が歪み、遂には宇宙の理に支障をきたす…」
そして最後に、宇宙は消滅する…
しばらくしてパトロールに出ていたドラコが空から戻って来た。
「街は平和でしたとさ~!さて、ログボ貰わないとなあ!?あたしのスマホバグってんだけど!」
「そのくだりもうやったから。それで、これからどうなるの?」
「分かりません。しかしこれまで回って来た世界では混沌が増大する度に最悪の事態になりました…けれど…」
「…けれど?」
「この世界に存在するアクトナイトのように、それぞれの世界にいる戦士たちは諦めずに立ち向かい事態を解決。それが混沌の排除にも繋がりました」
「…それじゃあやることはこれまでと一緒ってことか」
これから何かが起こる。それが何なのか、シンは分かった気がした。
「それじゃあゴチになりま~す!どれにしよっかな~」
「ルクも好きなの頼んで良いからね」
「え…あの…?」
それが分かった上で、彼はファミレスにやって来た。
「初めて会った時は凄い慌ててたのに…」
「考えてみれば宇宙人が攻めて来てる時点で既にカオスだし、慌てたって仕方ないんじゃないかなって。それに僕、元々は信太郎のイマジナリーフレンドだったし、それが独立して動いてる時点でねぇ…」
「イマジナリー…フレンド…えぇ!?それじゃあ君って空想の人物なの!?なのにどうして私たちと会話できてるの!?」
「それすらも混沌の一部なんじゃないかなって思ったんだ…さて、なに食べようかな~」
混沌は排除されるべき存在。自分もその一部だと考えた彼の心境は…
テーブルのほとんどがドラコの注文した料理で埋まった。ルクはイチゴパフェを食べていた。シンは幸せそうに食事をする2人をただ眺めていた。
(信太郎は特異点に行くと決意した時点で覚悟は出来ていた…だったら僕も、どうなっても構わないって気概で戦わないと…)
そしてその時は来た。食事を終えて建物を出た瞬間、空中にメルバド星人の空中戦艦が姿を露にした。
戦艦からは怪人らしき物体が次々と降下を始めていた。真下には街があり、暴れられたらどれだけの被害になるか想像もつかない。
当然、その光景を目撃したシン達は走り出した。
「うおおおお!?いきなりじゃねえか!どうするよシン!」
「決まってる!エルビスは僕が討つ!平和を守るアクトナイトだった信太郎の代わりとして!」
「では私たちは街の人たちを守りましょう!」
ルクは大きな丸ぶち眼鏡を掛けてから、両腕に火力特化型戦闘盾のダブルモードシールドを召喚した。
翼竜のドラコにルクが飛び乗る。そしてドラコは怪人の群れに突撃していった。
飛行能力のないシンはメルバド星人の船底に刃を向ける。そしてそこへ向かいたいと強く願った。
グググググ…
バビュン!
(か、肩が外れる!)
剣は少し力を溜めた後、力強く地上から飛び上がり宇宙戦艦に真っ直ぐ進んだ。
「キシャアアアアア!?」
空中から街を攻撃していた怪人たちが一斉にシンの方を向く。各々弓や銃を向けて迎撃しようとするが、剣は僅かな動きで射線を外れて回避した。
「ボバアアアアアアア!」
(知性のない改造人間ばっかりだ…)
メルバナイト達のように知性があれば避けられないような攻撃が来ていたかもしれない。しかし怪人たちのからの攻撃は容易く避けれてしまうのだ。
「くっ!」
シンは艦底を直前にして目を閉じた。
バリリィ!ドガアアアン!
アクトソードは張られていたことにも気付かなかった強力なバリアを破り、シンを戦艦へ突入させた。
壁に深く突き刺さった剣を抜き、シンは通路を走り出す。エルビスを目指そうとする彼の前には怪人たちが立ちはだかった。
「ヴォエエエエエ!」
「バアアアアアア!」
「艦内にも改造された怪人が!」
敵の戦力を見誤ったシン。てっきり艦内にはパワーのないメルバド星人の兵士たちだけかと思っていたが、この通り怪人たちで溢れている。
しかし変身は出来ずとも剣がある。襲い来る敵を次々と切り捨てて、エルビスのエナジーへ近付くように走り続けた。
「邪魔だ!どけ!」
「ビャボオオオオ!」
走っていく先の壁が回転していき、チューブが繋がれた怪人が現れる。怪人たちは動き出すと、チューブを引きちぎりシンに襲い掛かった。
「どーなってる!なんで怪人ばっかり!メルバド星人は乗ってないのか!」
複数の怪人が同時に襲い掛かって来た。シンは一度足を止めて、すぐ手前にいた1体を貫き、それを盾にして突進した。
「スラアァァァァァッッッ!」
シュバアアアアアアン!
横への力強い一振り。並んでいた怪人たちの上半身がドタドタと床へ落ちていった。
「はぁ…はぁ…叫ぶようなキャラじゃないだろ僕は…」
戦艦へ飛んだ時点でエナジーを消耗。さらに通路での連戦で既に疲れきっているシン。これでは戦えないと、近くの扉を開けて部屋の中に隠れて座り込んだ。
少し気が昂り過ぎていたと反省する。体力が戻ったら、今度は最小限の動きでエルビスを見つけ出すと作戦を立てた。
「それにしても…なんだこの部屋は…」
真っ暗で何も見えない。壁を支えに立ち上がろうとすると、偶然ボタンを押して灯りが点いた。
「まぶしっ!」
部屋の中は至ってシンプル。いや、ここが戦艦の内部だと考えると不自然だった。
おそらく誰かの個室ではあるのだろう。しかし片隅には敷き布団が畳んであり、勉強机と椅子がポツンとあるだけ。ありがちな子供部屋のようだった。
「これは…ノート?」
シンは机に置いてあったノートに目を付けた。
表紙には太ペンで運命その1と、タイトルらしき文字が書かれていた。
パサッ
シンはノートを開いた。そこには小説が綴られていた。
「これは…」
ペラペラと読み進んでいく。この小説の第1話。それはアクトナイトと偽っていた頃のシャオと信太郎たちの出会いだった。
シンはざっくりと小説を読み進めて、この運命という物語が信太郎たちが体験してきた物だと知った。
「このノートはやけに古い。文字も掠れているし、最近書かれた物なんかじゃない…信太郎とシャオが出会う前…それよりもさらに以前に書かれている小説だ………!?」
そして今、信太郎のイマジナリーフレンドであるシンという少年が、メルバド星人の王子エルビスを倒すために宇宙戦艦にいることも書かれていた。ちょうどそこでページが終わっている。
うっすらと、次のページにも文字が書かれているのが分かる。この先に書かれているのは、おそらくこれから起こることだ。
(…読むべきか?)
先のことが分かれば有利に立ち回れる。しかし自分がこれから得ようとしているのは推測した物などとは全く違って正確過ぎる情報、運命なのかもしれない。もしもそこに、自分たちの敗北が綴られていたとしたら…
(僕はきっと戦えなくなる)
回復したわけではないが、この部屋に長居したくなかったシンは、エルビスを探しに通路へと出た。
「燃え尽きろおおおおおお!」
「シューティングモード!フルバースト!」
地上の怪人たちが1体の翼竜と1人の少女によって焼き払われる。それでも数は多く、次々と彼女たちに襲い掛かった。
「エナジーが切れた…!しばらくは炎出せねえ!」
「スラシングモード!…省エネマジックブレード!」
ドラコはその巨体で怪人を踏み潰し、尻尾で叩き飛ばした
ルクの盾は手の前に怪人が来る時だけ、光の刃を発生させて身体を焼いた。
「もう限界だろ!多分逃げ遅れたやつはいないだろうし、ここから離れるぞ!」
「ダメです!街を守らないと…!」
「死ぬ気かよ!」
「街は生きる人が暮らす場所なんです…被害は最小限に抑えないと…それも私の使命ですから!」
「そうかい!」
バキン!
ドラコは身体を分離させて、ルクの全身にくっ付け鎧の代わりになった。残るエナジーは少なく能力の発動は難しいが、防御くらいはする。そのつもりだ。
「かたじけないです!」
「気合い入れていくぞ!」
地上の戦いは続く。おそらく、エルビスを倒さなければ怪人は無限に降りてくる。
「お前が…エルビスなのか?」
「AIイラストレーター、首都直下地震、おちんぽ騎士団、キスのやり方、世須賀記念、新作、批評家…」
「今日の料理はこちら。サーモンとキノコのホイル焼き…」
「もしもしこちらおばあちゃん。警察はいらっしゃいますか?えぇ、宇宙人が家に入り込んで来たんですけど…」
「オラヨー、グロカルト、ごえくん通信、ベクシンスキーの絵、NNN臨時放送、323232 0101022、リコの絵…」
ここは戦艦の…どこだ?表現の出来ないような場所だ。そもそも三次元ではないんじゃないか?
「や、ヤバい…」
シンは感じていた。正面に立つ人間とは呼べないエルビスから、突き刺すような狂気を。
「こいつは…ヤバいぞ!」
しかしここへ辿り着いた道も分からず、どうすれば逃げられるのか。いや、逃げることは出来ない。立ち向かわなければならないのである!
「…やるさ!あぁやってやるよ!僕は信太郎の、アクトナイトの代わりにお前を倒しにここへ来た!」
シンは恐怖を振り払い、重く感じるアクトソードを構えた。