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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
大月信太郎編
141/150

第141話 もう一人の戦士

 シャオが少年達を連れて宇宙ステーションオワロフへ行って数日経過した。




「今頃み~んなバカンスか~」


 一人地球を任されたドラコは、今日もアクトナイトの銅像が立つ記念公園で空を眺めていた。



「ドラコも行けば良かったのに」

「あたし、オワロフで面倒事起こして出禁喰らってるから。近付いたらカラーボールで即ゲーミングボディよ」

「あぁ、そうなの…」



 そこには彼女だけでなくシンの姿もあった。常にアクトソードを背負っており、彼はいつでも戦えるように準備している。


「…しかしどこからどう見ても普通の地球人だよな」

「そりゃあ産みの親が地球人だし」



 シンは人間ではない。かつてこの世界に存在した少年、大月信太郎が孤独感から産み出した存在。イマジナリーフレンドという物である。セルナマテリアルの神秘の力を受け続けた彼は、信太郎の精神の自立と同時に1つの存在として確立することが出来てしまったのだ。



「ふーん…シン、出動するぞ」

「うん。俺も感じた」


 怪人の出現に気付くとドラコは高く跳んだ。そして本来の姿である翼竜に変身すると、シンを背中に乗せて怪人の元へと飛んでいった。




 コンテナが並ぶ埠頭では、逃げ惑う人々の背後で長い鼻の怪人が暴れていた。


「頭でかッ!象みたいだな」


 ドラコが感想を述べていると、シンは助走を付けて飛び降りた。

 高さおよそ100メートル。普通の人間なら地面に身体を叩き付けて即死だ。


 シュタッ…


 それをシンは、静かに着地してみせた。怪人は剣を持った彼に強く警戒し、埠頭で働いていた人々を襲うのをやめた。


「パオオオオオン!」

「鳴き声まで象なんだ」


 これが自然発生した怪人か、それともメルバド星人の送り込んできたものなのかは分からない。どちらにせよ倒すことに変わりはないが。


「…フンッ!」


 シンは接近して剣を振った。怪人は斬られそうになった鼻を引っ込めた瞬間、強烈な蹴りを受けてヨロヨロとよろめく。そうして怯んだところに、シンは再び刃を振るった。


 ザンッ!


 彼の刃は胴体に深く潜り込んで傷を負わせた。


「スゥゥゥゥ…」


 風の音がした。怪人は鼻を持ち上げて、空気を吸い込んでいた。


(何かヤバそうだ…)


 大技を予感したシンは武器を引っ込めて後ろへ下がる。


 ピンッ!


 地面と並行に伸びた鼻はシンの方を向いている。


 ドゴンッ!


 そして怪人は鼻どころか身体よりも大きなコンテナを発射した。


「それは無理ッ!?」


 怯んだシンの前に翼竜が降り立つ。そして頑丈な頭でコンテナに頭突きを繰り出し、彼を守った。


「いってえ~…」


 ドゴンッ!ドゴンッ!ドゴンッ!


 さらに吐き出されるコンテナから、ドラコはその大きな身体で仲間を庇った。


「残り何発だ…ぐっ!コンテナが尽きるのを待て!」

「そしたらドラコがボロボロになるだろ!今シャオいないんだぞ!」


 唯一の回復手段を持つシャオはオワロフにいる。出来れば、深傷を負って戦闘不能にはなりたくなかった。


「シン、耳塞げ!」

「塞いだよ!」


「ピャオオオオオ!」


 両手で耳を塞いでも、ドラコの声はとてもうるさく聴こえた。

 大声に怯んで攻撃が止まると、シンを咥えて怪人へ向かって投げ飛ばした。


「切り裂くッ!」


 ズバシャ!


 怪人の懐に潜り込んだシン。そのままアクトソードを振り上げ、厄介な鼻を根本から切断し、そこからさらに振り下ろした。二度目の致命傷を負った怪人はバタンと倒れ、遂に動かなくなった。



「うわっ、切り落とした鼻がミミズみたいにのたうち回ってるぞ」

「言わないでよ!あえて見ないようにしてたんだから」


 ビタビタビタと音を立てていた鼻も、やがて静止。そして怪人の身体は光になるように消えていった。


「…帰ろうか」


 背中にシンが乗ったのを確認してから、ドラコは空へと舞い上がって行く。被害はそれなりで、埠頭での仕事はしばらくストップすることになるだろう。




 世須賀はいつもと変わらないように見えた。怪人が出現しても、それが隣町ならいつも通りの生活が送られる。

 自分のところで何も起こらなければ、それは他人事となる。それが怪人の扱いだ。


「どこか寄ってく?」

「いいや。次に備えてエナジーを溜めておかないと」

「真面目だねぇ」



 シンはアクトナイトに変身しない。それでも、この地球を守るために存在する戦士である。



「たっだいま~!さー昼寝昼寝!」


 ドラコはベンチに寝っ転がる。シンはアクトソードをゆっくり地面へ置いて、その目の前に姿勢よく正座をした。

 こうすることで彼はエナジーを効率よく回復して、次の戦いも万全の状態で臨めるのである。






「あの、すみません」


 ガタン!


 公園の出入口から声が聴こえた途端、2人は立ち上がって戦闘する姿勢を取った。


「なんだお前!どっから入って来た!」

「いや!待って!私、敵じゃないですから…」

「信じられるか!ここには仲間以外入れないようになってるんだぞ!」

「だったら私も仲間ってことにしてくれませんか…?」


 公園に入ってきたのはちょうど成人しているぐらいの外観をした女だった。怪人ではなさそうだが、結界によって仲間以外入れないようになっているこの公園に来た時点で普通ではない。


 人の姿になったばかりだったが、ドラコは再び翼竜に変身して女に攻撃を仕掛けた。


「ガウッ!」

「敵じゃないって言ってるでしょ!」


 バキィン!


 恐ろしい音のするドラコの牙をジャンプで避ける。防御が難しくなった所へ、シンは剣を構えて飛び上がった。


「アクトナイトの大月信太郎!その人に用があって来たんです!」

「信太郎の事を知ってるのか!?君は一体何者なんだ!」


 そうして質問しつつも、容赦なく一撃を狙った。


 ガキィン!


 しかし攻撃は防がれた。荷物1つ持っていなかった女の両腕に、突然盾が出現したのだ。しかも何か仕掛けがあるのか、刃を弾いた直後に女は両拳をシンへ向けた。


「銃口がある!?」

「敵じゃないって言ってるでしょ!?」


 バギヴヴヴン!


 盾の内側に備え付けられていた兵器から、眩しいビームが発射された。




「た、助かった!今日は守られてばっかだよ!」

「おいお前、敵じゃないってんなら射つなよ!」


 シンはビームに焼き消されたかと思いきや、ドラコに救われていた。シンはドラコの足から背中へと登って深呼吸した。


「そっちこそ!敵意剥き出しで睨まないでください!」


「どうするドラコ?」

「…」


 するとドラコはだんだんと速度を落としていき、ゆっくりと地上へ近付いた。すると相手の装備していた盾が消えて、再び無防備になった。


「お前のその髪型…」


 ドラコは女の前髪に注目した。ボブヘアでさらさらとした髪だが、右目の上だけがギザギザしている。まるで獣の牙のようにだ。


「アクトナイトから聞いたことがある。色んな時空を渡って悪と戦い続けてる戦士たちがいるって。そいつら全員、前髪の右っ側がギザギザの牙髪(きばがみ)になってるらしいんだ」

「この人、ギザギザしてるよ」


「私はルク。あなたが思っている通り、私は時空を渡り歩く戦士メアリスの一員です。今回はアクトナイト、大月信太郎君に用があってこの世界に来ました」


 信太郎に用があるというルク。


 しかし今、この世界に大月信太郎という少年はいない。元から存在すらしていないことになっているのだ。


 だが彼女は存在していない人間のことを知っていた。


「残念だけど信太郎はもういないよ」

「え…あの、詳しく聞かせてもらえませんか?」



 シンは何がどうなっているのかを全て話した。


 話を聞いたルクは頷きながら、ポケットから手帳を出して何かを書き始めた。


「二人の人間の神格化…残る敵幹部は一人…発生源不明の怪人…」

「あの…何やってるの?」


「考察です。メノルという人物を封印するしかなかったとはいえ、二人も特異点と呼べる場所へ行ってしまうなんて…これを見てください」


 メモ帳をポケットへ戻すと今度はスマホを取り出した。画面には心電図のような物が表示されている。画面の中で延び続ける線はとても荒ぶっていた。


「なにこれ?」

「これはこの世界の混沌(カオス)を図にした物です。線が荒ぶっているほど、世界が狂っているということになります。私たちメアリスは人助けの他に、混沌を取り除く事を目的に色んな世界を渡り歩いているんです」

「へぇ~………おい待てよ!つまりこの世界が滅茶苦茶狂ってるってことじゃん!どういうことだよ!」


 この世界は混沌で溢れている。画面を見て分かる事がそれだ。しかしドラコ達にそんな実感はなかった。


「メルバド星人のリーダーを倒すことでようやく1つの戦いが終わります」

「メノルの存在がなくなった今、メルバド星人のリーダーはエルビスだ。そいつを倒せば混沌が収まるってことだな?」


 そう、信太郎は一人ではなく、メノルを連れて特異点へと向かった。信太郎と同じように、メノルの存在も消えているのだ。


「いいえ」

「ちげーのかよ!?大体、混沌って何だよ!急に現れたと思ったら早口で説明しやがって!」

「うっ…すいません」

「まあまあドラコ…」

「この宇宙でアレルギー反応が起こっていると考えてください。世界の秩序に干渉しようとしたメルバド星人メノルがウィルスで、それでメノルから世界を守るために戦うアクトナイトが免疫と」



 生物の身体には免疫が備わっている。身体にウィルスが侵入すると、免疫はそれを排除しようと働くのだ。

 アレルギー反応とは、その免疫が過剰に働いてしまうことで身体に害を及ばしてしまうことである。


「おいおい待てよ!それじゃあまるで、アクトナイトのせいでその混沌とやらが起こってるみたいじゃねえか!」

「説明を最後まで聞いてください。混沌とは本来的起こるはずのない事象を引き起こしてしまうのです。現に二人の人間が神となり、特異点で戦いを続けていますよね。他に例を挙げるなら…完全な平和を手にした世界で前触れもなく戦争が勃発したり、死者を蘇生するシステムがない世界で人があっさり蘇ったり、価値観が滅茶苦茶になったり…混沌を取り除くことが間に合わなかった場合、その世界は砕け散るように消滅。さらには近隣する世界に混沌を伝染させてしまうのです」



「スケールデカすぎて…ゾッとした」

「それって大変なことじゃないか!どうすればこの世界の混沌を取り除くことが出来るの?」


 身震いするドラコを放置して、シンはルクの肩を揺する。世界を守る使命がある彼らにとって、その混沌は放ってはおけない存在だった。


「勿論です。そのために私はこの世界に来たんですから!」

「なんだよお前敵じゃなかったのかよ~!だったら最初っからそう言えよな~」

「うん、言ってたよ。ドラコちょっと黙ってて。真面目な話してるから」




 ドラコを遠くへ追い払い、二人は話を続ける。ルクはスマホに図や文字を書きながら丁寧に説明を始めた。


「アクトナイトとメルバド星人の戦いを終わらせることです。まずは信太郎君の戻ってくる地球を守らないといけませんから。リーダーであるエルビスを倒す。もしくは和平交渉…出来る相手ではないでしょうね、話からするに」

「前は勝てなかったけど、今の皆なら絶対に勝てる…それで次は?」


「混沌を除去するためにメノルを倒します。秩序に干渉出来る力を得てしまった彼はもう倒すしかありません…おそらく、最後にして最大の戦いになることでしょう。下手をすれば命を失う…それだけは覚悟しておいてください」

「覚悟はしないよ。みんな強いから…誰一人欠けることなく勝ってみせる。それに、信太郎もいるんでしょ?」

「はい!そこで信太郎君には、メノルを特異点から引きずり出す…あっ」

「どうしたの?」

「連絡手段って…ありますか?」


 特異点。そこがどんな場所かは想像付かないが、地球の外である時点で電話など繋がらない。


「………ではそれからの話をしましょう。アクトナイト達が力を合わせてメノルを撃破!そうしたら、大月信太郎君には私と一緒にこの世界から旅立ってもらいます」

「旅立つって…」


「私と同じメアリスになってもらいます」

「それって結局、この世界からいなくなるってことじゃん!僕は嫌だよ!」

「お気持ちは分かります」

「他に方法はないの!?」

「ありません」




 当然現れた少女は味方か。それともありがた迷惑な来訪者か。


 避けられぬ戦いには覚悟を決めたシンではあったが、信太郎に待つ運命には納得することが出来なかった。

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