第133話 怪獣の尻尾
世須賀市の大きな道路。そこの地中から巨大な突起物の様な何かが出現した。
念のために付近の住人は避難させられた。そして暇していた少年たちを集めたシャオがやって来た。
「遂に片鱗を見せたな…」
シャオはその突起物について何か知っている様子で、軽く叩いたりしていた。
「シャオさん…これって?」
「滅茶苦茶強い怪獣の尻尾だ」
あまりにもサラッと答えるので、尋ねた千夏もどうリアクションすればいいのか困っていた。
「惑星寄生怪獣メングラン。幼い頃には惑星の地底で栄養を吸いながら成長していき、大きくなったら地上にある物全てを喰らい尽くす。そして別の惑星へ行ってマイクロサイズの卵を出産してその命を終える」
「と、とりあえず倒しましょうよ!」
「無理だ…卵から孵った時点で恐ろしい防御力を有している。このバカ硬い皮膚に刃なんて通らねえよ」
「そんな…どうすれば…」
「どうにかなる…そうなんだろ、信太郎」
遅れて来た信太郎は怪獣の尻尾に触れていた。
「あぁ…大勢の人が死んだ後に、やっと弱点を暴いて倒すことになる」
また多くの犠牲者が出る。それでは以前と何も変わらない。
その結果を誰より拒んだのは、もちろん啓太だ。
「でも…だからって何もしないわけにはいかないよ!」
ジュピテルに変身。そしてマテリアルを叩き、必殺技を放った。
尻尾には傷一つ付かず、攻撃が成功した際に発生する芽も姿を見せなかった。
「無駄だ。俺たちに出来るのは少しでも多くの人をこの尾から遠ざける事だ」
「…信太郎は、なんでそんな冷静なんだよ」
「決まってる事だからな。俺でもどうすることも出来ない」
「だからって何もしないのかよ!取り戻したアクトナイトの剣だってそうだ!変身出来ないってもう諦めてる!どうしてそんなすぐに諦められるんだよ!」
「…俺はお前たちと違って才能のない人間だ。事態を解決するための奇跡を起こすのはお前たちに任せる」
「努力しろよ!」
「俺なりに頑張ってる…今までだってそうだ。ただそれが報われなかっただけだ」
言い訳ばかりの信太郎の顔面に、ジュピテル渾身の右ストレートが直撃した。
「うっ…!」
「無責任だ!全部知ったからって悟ったつもりになって、やるべきことを放棄してる!」
「俺に残された使命はメノルをこの世界から追放することだ。それさえ出来れば…どうなってもいい」
「やめろやめろ!」
どんどん雰囲気が悪くなっていく二人の間にシャオが入った。
「啓太、グチグチ言ってる暇があるならひたすら尻尾を叩け。信太郎、雰囲気悪くしに来たんだったらとっとと帰れ」
「いや、俺はただ結果を伝えたかっただけで…」
「黙って尻尾だけ見てろ。啓太たちに口出しするな」
諦めない姿勢を見せた啓太に習って、他の少年たちも次々に変身。そして各々力を振り絞り、最大火力の攻撃を放った。
しかし、尻尾には傷一つ付くことなく時間だけが過ぎていった。
日が暮れた後も少年たちは諦めることなく、攻撃を続けていた。しかし疲労しているのは明らかで、倒れる度にシャオが回復していた。
「この状態のメングランに何をやっても効果はないって、お前が一番分かってるはずだろ」
回復させた奏芽を送り出したシャオに、まだ残っていた信太郎が尋ねた。
「俺やお前が諦めろって言ってもやめないだろうからな~こいつら。だったら、全力で付き合ってやるのが仲間ってやつだろ」
「仲間…」
信太郎は他のよりも大きな、オリジナルのアクトソードを召喚した。そして能力が使えないにも関わらず、尻尾まで近付いて殴る様に剣を振った。
「おいおい…そんな乱暴に扱ったら折れちまうぞ」
「アクトソードはマテリアルと同じ心の力を使う剣だ。俺の心が折れなければ、こいつも折れることはない」
刃が尻尾に弾かれたら、信太郎は再び剣を構えて振り下ろした。
発掘作業をしている様な後ろ姿はどこかおかしかったが、それよりも仲間を思って動き出した事にシャオは感動していた。
シャオはマスコミなどに尻尾の正体を伝えに一旦その場を離れた。
「うあ~!休憩しようぜ!」
回復役のシャオがいなくなり、疲労していった少年たちは次々とその場に座り込んだ。
努力の成果が出ていないのは、無傷の尻尾を見れば明らかだった。
残酷な程に硬く、攻撃を通さない尻尾。それを生やす怪獣が動き出したとして…それは止められるのだろうか。
「………美保はいないな」
信太郎は周りを見渡し、改めてこの場にいるメンバーを確認した。美保と、力を持たない剛がこの場所にいない。
「どうしたの?」
「今話してもその時まで隠しても、結果は変わらないから今伝えておく。今回の戦いで…剛が戦死する」
それは運命を知った信太郎が秘めていた、あまりにも酷な戦いの結末だった。