第132話 戦う理由
随分と遠くまで走って来た。久しぶりの運動に息を上げている剛と比べて、人間になったばかりのウェポンはまだまだ余裕という様子だった。
「ゼェ…お前ェ…目的は…ゼェ…なんだ…!」
「さぁ…なんでしょう?」
それが分かるほど剛は賢くない。戦いは出来ても美保以外の女は理解出来ないのが彼である。
「…お前には一緒に戦った恩がある。それでも俺は美保を裏切る事は出来ない」
「…違うよ」
「違わない。この解答を曲げる事はない」
「はぁ~」
ウェポンは溜め息を吐いて近くの芝生に座った。
「…見渡してごらんよ」
ここは遊具が一つも無い自然公園だ。それでもピクニックなどに来ている人がいた。
「少し離れた場所で怪人が現れたのにここは平穏のまま。それは私たちが戦って被害を抑えられたからだよね」
「いや、普通に場所が離れているからだと思うが」
「これまでもそうだった。平穏を守る為に私たちは戦って来た。勝っても負けても守れるならそれで良かったんだ」
「だが最後の戦いでお前を壊し、俺は途中退場…大した戦果も挙げられずにな」
「まあ…仕方なかったよ。ガタが来てたし、あのスペックじゃ今の戦いについていくのは難しかった」
「…そうだな。俺はアクトナイトじゃないんだ。こういう結果になるのは当然か…」
「ちがーう!」
ウェポンが叫んだ。驚いた剛は少し跳ねたが、それでも平静を気取っていた。少し注目を集めたのは恥ずかしかった。
「街を守れたらそれで良かったんだよ。負けたって良かった。でも今の剛は違う。負けたらそれで終わりって超ネガッてる!」
「俺たちの戦いは命懸けだ。負けたら全てが終わる」
「…そうだったかな?剛だけじゃなくてアクトナイト達だって、何回も負けたはずだよ」
ウェポンの言う通りだ。彼らは何度も負けていた。それでも守り抜いた平穏は、目の前に広がっている。
「街を守るためには負けたっていい。街の盾として攻撃を受けて負ける事なら本望…前の君はそんな風だったよ」
「それは………あまりにも醜い、自己犠牲の精神というやつだな」
「それで良いんだよ。君はアクトナイトじゃない。そういう、今までみたいな泥臭い感じが似合ってる……お願い剛、また戦ってよ。街を守ってよ」
「頼まなくても彼は戦いに戻る。安心しなよ」
神出鬼没のメノルが二人の前に現れた。動揺する剛の前に立ち、ウェポンは武器である両手を構えていた。
「君が誰だか知らないけど、彼は戦いに戻るよ。犠牲になる大勢の人を見て、やっと立ち上がるんだ」
「剛はそんなのんびりした人じゃない。君が言うようにはならないよ」
「信じてるんだね、彼のこと」
「まあ、戦友だから?」
メノルは怪人を1体召喚し、その場から消えた。
人々の方に向かおうとする怪人に、ウェポンは渾身の飛び蹴りを喰らわせた。そして怪人との戦いは人がいない森林の中へと移ってから始まるのであった。
「また今回も質素な怪人だな」
怪人は能力を持たなければ喋りもしない。力任せに暴れては木を倒していった。
「木が可哀想でしょっ!」
倒れた幹の上を跳ねていき、あっという間に怪人の目の前に立つウェポン。そして左の手刀で素早く連撃を放った。
怪人に深傷を負わせたウェポンは、そのまま両手を組んで正面に構えた。何かを発射する構えだと言わずとも、剛には伝わっていた。
「発射!」
木が揺れる程の衝撃と共に巨大な光弾を発射した。
怪人に命中した弾はそのまま上昇していき、空高くで花火のように大爆発を起こした。
「倒せた!」
アクトウェポンは人の姿を持ち、とうとう一人で戦えるようになってしまった。
その戦いを見ていた剛は心の中で、自分の必要性を疑っているのだった。