第131話 悪女
記念公園を離れて街を歩いていた剛は街の人々を襲っている怪人たちを目撃した。
「一応連絡を…スマホを忘れたか」
連絡を入れなくても怪人を探知したシャオが仲間たちに知らせるだろう。助力せずとも解決する事態を前に、非力を感じずにはいられなかった。
「本当に無力だな」
怪人の悪行を前にして何もやらない。以前までは考えられない事だった。
「助けてー!」
「うわあああ!」
悲鳴は聞こえてる。だが身体は動かなかった。変身出来なくても街を守って来た人間ならば、ここで動けないはずがなかった。
「戦えないから何もしないの?」
何もせずただ見ている剛の横を、一人の少女が通り過ぎた。面識はないはずなのに、初めて会った気がしなかった。
「そんなわけ…あるか!」
少女の煽りに乗って剛は走り出した。目指すは人々を襲うメルバドアル達だ。
少女は指先をアル達に向けて、そこから光弾を発射した。障害が散ったところで、剛は逃げ遅れた人々を立ち上がらせて避難誘導を行った。
(今の弾…アクトウェポンの物と同じ)
さらに左腕は刀の如く、少女に襲い来るアルを一撃で切り伏せていった。身軽に動くその姿は、まるで那岐の様だった。
その戦い方がどことなく自分と似ていることに気が付いた。
(まさか…いやしかし、そんなことがあり得るのか…)
アクトナイト達の姿が見えたと同時に、少女は残っていた怪人にトドメを刺した。
「片付いた…ふぅ」
「お前は…アクトウェポンなのか?」
「私はウェポン。アクトウェポンなんて知らないな~」
「どうして人の姿をしている。いや、そもそも心を持ってなぜ俺たちに接触した」
少女ウェポンは剛を中心にグルグルと歩くだけで質問に答えなかった。
「先輩…誰、その女…」
アクトナイトの変身を解いたばかりの美保は、虚ろな目でこちらを見ていた。
「私は気持ちを切り替えて、今日から戦いに復帰しようとしたのに…変な女とデート?どういう神経してるの?」
「違う美保。こいつはアクトウェポンだ。俺の武器は人間になったんだ」
「はじめまして。ウェポンだよ」
先ほどの何倍もの緊張感が漂っている。恐らくシャオが心を通して事情を説明しているだろうが、剛には説明の言葉が思い付かなかった。
「武器が心を持った?信太郎が美少女にした?…意味分かんないんだけど」
「俺の心は揺らいでいない。美保の事だけを想って…」
「チュッ」
どういう神経をしているのだろうか…
必死に説得しようとしていた剛の頬に、ウェポンはキスをした。それもセクシーなリップ音が美保に聴こえるようにである。
「殺してやる!」
「ちょっと美保ちゃん落ち着いて!」
千夏たちが取り押さえていなければ、無力な剛は殺されていただろう。
火に油を注ぐつもりか、ウェポンは彼の腕に抱き付いた。
「何のつもりだ…」
「せっかく話せるんだから、想いをぶつけておこうかなって」
「ちょっと剛!その子連れどっか逃げて!美保ちゃん押さえてられないから!」
「こっち来いよブス!二度と誘惑出来ねえようにそのきたねえ顔と体を整形してやる!」
「口悪っ!?早くどっか行って!僕たちで何とかやってみるから!」
「こわーい…」
「こうなったのも貴様が原因だろうが…行くぞ」
生身であの怒りを受け止められる気にはならなかった。
剛はウェポンの手を引いてその場から走り出した。初めて繋ぐ手だった。武器だった頃には何度も触れていたはずなのに、全く違う温かい感触をしていた。
「ふふふ…」
何が面白いのかウェポンは微笑んでいる。美保に怯えて苛つく余裕もない剛は、とにかく走って美保から離れるのだった。