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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
大月信太郎編
122/150

第122話 幽霊の出やすい夏に

 蝉が鳴いている。現太陽は頭上まで昇っていて、一日の中で最も暑い時間帯だ。


「宇宙人が増えたなぁ」


 世須賀は宇宙関係での政策が進み、宇宙人がいることが当たり前になった。

 前のように身勝手な宇宙人が暴れることはなく、今まで酷い仕打ちを受けてきた街の人間が差別することもない。


 絵に描いたような平和。これが信太郎の望んでいたことなんだと、シャオはそれを見て思っていた。



 信太郎がこうなるように仕組んでいたとして、現実で政策を進めたのはデスタームである。地球を売り物にしようとしていた彼がこの平和を望むようになったのだろうか。




「聞こえる?ねえ誰か?」


 シャオの頭に声が響く。誰かがアクトソードを握って喋っているみたいだ。


「奏芽か?どうした?」


 それが誰なのか。シャオには声の質ではなく繋がってきた心の形で理解出来た。


「シャオさん!千夏と連絡が取れなくなってて、そっちいませんか?」

「いや、今俺は1人だ」


 信太郎の身体にアクトナイト本人が宿ったことすら知らない奏芽が、シャオをちゃんと名前で呼ぶようになっていた。


「細けーところも修正されてるなぁ」

「え?何の話ですか?」

「何でもねえよ。こっちでも探してみる」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」


 奏芽の心を感じられなくなった。電話の受話器を戻したように、剣から手を離したのだろう。

 不可思議な現象が続いている状況で、仲間が行方知れずになるのは異常であると疑わざるを得ない。




「いないって…どこ行っちゃったんだろう」


 連絡を終えた奏芽。その場には彼女以外にも啓太と将矢がいた。特に世界の異変に気が付いている啓太も、隠しきれない不安が表情になって出ていた。


「大丈夫だって。きっと見つかるって…それに変身出来るんだしさ」

「どうしてそんな気楽にしてられるんだよ!信太郎が消えちゃったのに!これで千夏までもいなくなっちゃったら…」

「信太郎…?誰だそれ?」


 もう、信太郎という人物すら2人の中から消えていた。これとはまた別の原因で、千夏は消息を絶ったのだろう。


 奏芽は他の仲間たちにも連絡を入れて、千夏の捜索範囲を広げた。




「ダメだ…やっぱり繋がらない」


 そして行方不明になった千夏本人は、見知らぬ町でずっと彷徨っていた。

 ダブルデートの予定があった千夏は今朝、家を出た。そして集合場所である駅へ向かっている時にこの路地に辿り着いたのだ。

 スマホは圏外。そしてアクトソードで誰とも連絡が取れないのは、明らかにおかしい。そして3時間経つまで歩き続けて、彼女は誰とも会っていないのだ。


「どうしよう…はぁ、なんでこうなるかな…」


 右、左、右とどれだけ進んでも、自宅から近い場所の住所が書かれたプレートがどこかに存在している。それでも確かに、風景は変わって空も動いていた。


「啓太~…啓太ー!啓太ああああああああああああ!」




「…」

「うわぁ!?誰!」


 目線の先に啓太と近い身長の少年が立っていた。情けなく彼氏の名前を叫んでいたところを見られたと赤面するがやっと人間に会えた。恥ずかしがっている場合ではない。


「私、道に迷っちゃったんです!こっから近い駅まで案内してくれませんか!?」


 少年は黙って頷き、クルッと背中を向けて先頭を歩き出した。千夏は何かされたら嫌なので、腕が届かない距離から少年について行った。




「いや~、まさか地元で迷子になるなんて思わなくて~」

「…」

「それにしてもどこなんですかここ?ウチからそこまで離れてないと思うんですけど…」

「…」




(この人全然喋らないな…早く知ってる場所に着いて欲しい。そしたらとっとと別れちゃえるのに)




「次は迷わないように気を付けてね」

「アッ喋った…っ!?」


 あることに気付いた千夏。しかし悲鳴を抑え、そのまま脛辺りから下が存在しない少年を観察する。どうしてこんなことに気付かなかったのだろうか。


(足がない…オバケ!?)


 振り返れば色々おかしかった。変な路地から出られなくなってから、いきなりこの少年は現れた。


 戦うか…いや、そもそも剣で斬れるのかこの少年は。千夏は剣に手を伸ばし、万が一に備えた。


「そんな怖がらないでよ。ほら、そろそろ着くよ」


 あっという間に、千夏は見覚えのある場所に出た。だが少年の足がないのに変わりはない。


「あなたなんなの!?怪人?」

「俺は…見ての通り。死んだんだ」

「…死んだって、怪人に殺されたの?」

「間接的にそんな感じかな」


 会話をしていて、人柄がよく分からない少年だった。自分たちと同じ年齢のはずなのに、どこか悟ったような…


「君、私とどっかで会ったことある?」

「…じゃあね」


 今度は背中を見せることなく、スゥッ…と消えていった。やはり幽霊だったのだろうか。



 千夏は仲間たちに無事を伝えると、啓太たちと合流。何があったのかを説明したが、まともに扱ってくれたのは啓太だけで、奏芽たちは頭の心配をしてくれた。


「少年…信太郎なのか…」


 啓太が誰かの名前を出した。それがあの少年の名前なのだと、何となく理解出来た。


「啓太、知ってるの?あの幽霊のこと」

「幽霊?…あぁ、そういうことか。うん、僕はまだ忘れてないよ」


 オタクにありがちな意味深の喋り方。一緒にいる千夏は慣れていたはずだが、今日に限っては本当に、啓太は何か知っているんじゃないだろうかと疑った。




 後日、千夏は少年に会いに行こうとした。しかしどれだけ歩いても、自分が迷った路地に辿り着くことはなかった。

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