第119話 日常
怪獣の被害を受けた地域は宇宙人の協力もあって、想定していたよりも早いペースで復興が進んでいた。
その景色を一望できる高台の公園。そこで啓太は作業を見守っていた。
怪獣との一戦は、彼にとって最も印象に残った戦いだ。なぜなら、その戦いで彼は命を落としたからだ。
一度死んで生き返った。そう見ると彼はこの世界の常識を破った異分子だ。だからなのか、現在の状況に違和感を持っていた。
突如良くなった地球人と宇宙人の関係性。街の人たちからアクトナイト達に対する印象も良くなった。つい先日も、昇士たちが学校の先生から街を守ったことで褒められていた。
「信太郎の仕業なの…?」
啓太は生き返った時に得た新たな力、アクトウイングを抱えていた。信太郎はきっと近い内に、自分と同じように生き返る気がしていた。
そして彼はまた、苦しい日常を送る気がして…
「セルナの力なんでしょ!急に街が良くなり始めたのは!君は一体今、どんな気持ちでこんなことをしているんだ!戦いたくなくて死にたくて、その命を芽愛に与えたんじゃないのか!」
啓太も僅かに街の異変に飲み込まれていた。芽愛と大した面識もない彼は、彼女のことを下の名前で叫んだことに気が付いていなかった。
「…なんでそう中途半端なんだ!自分で戦うことを選んだのに逃げ出して、死にたくて死んだのに未練タラタラでこうやって街をおかしくして!君は一体何がしたいんだ!」
叫んでも返事は来ない。信太郎は今、どこにもいない。予想通りに生き返った時、この想いをぶつけることは出来るだろうか。
啓太が死んだ後、色々なことが起きた。メノルに仕える三銃士のバッドを千夏たちが倒した。芽愛が怪人になって那岐を襲い、最後にはこの街全てを闇で飲み込もうとした。出会ったばかりの剛や美保と敵対していたら、気付いた時には宇宙人が地球にやって来て好き勝手始めていた。
忙しなく変化していった日常の中で精神を磨り減らしてた信太郎は悪に染まっていった。
大切な人を2人も殺した。罪を償って生きていこうとしたが、自己嫌悪に陥って結局は芽愛に命を譲渡した。
「あれから僕たちにほとんど愚痴を溢さなかったよね…そんなに信頼出来なかった?僕たちのこと…友達だって思ってたの僕だけだったのかな…」
「あ~啓太、やっぱりここにいた」
千夏がやって来た。その口振りから、彼がここにいると検討は付いてたらしい。
「電話出てよー」
「ごめん。電源切ってた」
「…良かったよね。あそこ、ちゃんと復興始まって」
喜ばしいことのはず。それなのに啓太は、上手く気持ちを言葉に表せなかった。
「そうだね」
「そうそう、皆で海に今度遊びに行こうって話になったんだけど…」
その言葉を聞いて嫌な胸騒ぎがした。
怪獣のことを思い出すこの場所だから、海という単語に過剰に反応してしまったのだろうか。
また誰かが死ぬかもしれない…
(いや違う…)
「それでねー…ちょっと啓太、話聞いてる?」
「ねえ千夏…信太郎のことなんだけどさ…」
街の復興に流され、気持ちがあまりにも日常に戻り過ぎていた。
仲間の1人が死んだかもしれないのに、あまりにも平然としている千夏はとても異常で、不気味に見えた。
「…大月君のこと?」
「うん…どんな感じかなって。どう思う?」
「う~ん…あんまり話さないからなぁ」
「!…じゃあ同級生としてじゃなくてアクトナイトとして!アクトナイトセルナに変身していつも頑張ってる彼をどう思う?」
「なに変なこと言ってるの啓太?大月君はアクトナイトじゃないよ」
衝撃の発言に耳を疑った。そして啓太は確信した。
(世界がおかしくなってる…信太郎が消え始めてる!)
シャオは信太郎が僅かながら生きてる可能性を示唆した。だとしても平然と日常を過ごせるのはおかしい。命を譲渡した以上、死んでいる可能性の方が高いのだ。
それなのにまるで皆、この先の不幸を知らないように平然と過ごしていた。
そして目の前の少女は、信太郎がアクトナイトではないと言った。
「信太郎…君は何をするつもりだ!」
啓太は街中を走って、どこかにいるはずの信太郎を探した。
以前、芽愛が信太郎を見たという歩道橋。そこには信太郎ではなく彼女本人が立っていた。
「あっ…啓太君!」
「芽愛!君は大丈夫なの!?信太郎のこと、覚えてるよね!」
「うん…2人とも最近浮かれ過ぎてて、大月君のことを聞いてみたら…一緒に戦った記憶がないって」
「情けねえ!」
「アクトナイト!」
今度はシャオがやって来た。彼もどうやら、街の異変に気が付いたようだ。
「信太郎のことを忘れそうになっちまった。あいつはアクトナイトじゃなかったって…でもあいつは一番最初に戦ったんだ!あいつのおかげで街が守られて、今の長い戦いが始まったんだ」
「でも一体どうして…もしかして怪人の仕業!?」
何も分からなかった。そして考えさせる時間も与えないように、近くで爆発が起こった。
「邪悪なエナジーを感じる!この異変の元凶か!?」
怪人を倒せばきっとどうにかなる。いつも通りに物事が解決することを祈り、爆発の起きた方向へ走っていった。