第118話 アクトナイトになった芽愛
復旧を続ける日常の中で、久しぶりに怪人が出現した。まだ、メルバド星人の驚異は去っていなかったのだと気を引き締めると、芽愛は盾と剣を装備して玄関に向かった。
「パパ!ママ!行ってきます!」
「休日なのに大変ねぇ…」
「おう、頑張るんだぞ~」
芽愛の能天気な両親は、戦いに行く娘を応援して見送った。
今回の怪人は電撃を放つ能力を持っていた。
「アクトベイト!」
変身して怪人の前に現れた桃色のアクトナイト。初めて見る戦士に注目が向けられた。
「うぅっ撮られてる…恥ずかしいな」
ラヴは軽く手を振った。そして盾を前に構え、怪人の動きを待った。
このアクトシールドなら電撃を受け止められる。盾の使い方を芽愛は理解していた。
「ビリビリビリビリ!」
「きゃあ!」
怪人が電気を放出した。電気はシールドに吸い寄せられるような動きを見せ、全て盾に激突。ラヴには感電することなくピンピンとしていた。
「ビックリした…これなら大丈夫かも!」
盾で攻撃を受けながら、ラヴは少しずつ距離を詰めていく。攻撃が効いていないと気付いた怪人は、直ちに電気を止めて格闘戦に移った。
「えっ嘘でしょ!?」
剣での戦闘は初めてだった。怯みそうになったその時、どう動けば良いのかが瞬時に思い浮かんだ。
「被害を最小限に抑えろ!もうすぐ昇士が到着する!」
エナジーを送ってくるシャオの声が聞こえる。言われた通り、ラヴは攻撃を防御するだけで反撃はしなかった。
攻撃が来る度に足が後ろに下がっていく。やがて盾の戦士は、建物の壁にまで追い詰められた。
被害を最小限に抑える。街を守るのが自分の使命だ。そう言い聞かせると、ラヴは一転して反撃に出る。
「ヤアァァ!」
盾を前に出して突進し、そのままタックルする。突然のシールドバッシュに跳ね飛ばされた怪人は、地面に身体を打ち付けた。
「芽愛!」
そしてちょうど良いタイミングで昇士が駆け付けた。
「那岐、昨日帰ってから腹痛くて来れないって!」
「やっぱり!だから安い店の牡蠣は止めようって言ったじゃん!」
体調を崩している那岐は昇士に任せて、今日は療養中だ。
だが今はそんな病欠の報告よりも、怪人を倒すことが優先である。怯んでいる怪人を見た瞬間、昇士は刀のように腕を伸ばし、天に掲げた。
「ライジングスラッシュ!」
技を叫ぶと同時に腕を振り下ろされる。刃となった昇士のエナジーは怪人を飲み込み、跡形も残らない程に切り裂いた。
周囲から歓声が飛んでくる。昇士は慣れた様子で手を振りアピールした。アクトナイトラヴはその隣で、モジモジと恥ずかしがっていた。
「その新しいアクトナイト!名前なんて言うんですか~!」
質問が飛んでくると、昇士は固まった様子のラヴを見た。ジーッと見つめて、答えてあげてと訴える。
「ええっと…えええい!」
そして何を思ったのか、芽愛は変身を解いてマテリアルを掲げた。
「愛の力で戦うアクトナイトラヴ!陽川芽愛です!よろしくお願いします!」
顔出しに名前。ペガスターに乗っていた時はほとんど注目されることがなかったが、これで芽愛も仲間たちと同じように有名人になってしまった。
街を後にした2人は那岐の家に来た。
「お腹大丈夫か?早くアクトナイトに治してもらいに行こう」
赤いパジャマを着た那岐は苦しそうにお腹を押さえていた。
「あんたのせいだからね…!」
「ごめんて…次からは気を付けるから」
那岐が腹を壊した原因は昇士にある。
昨日、昇士はなんとなく海の幸が食べたくなったので2人を誘ってそういう物が食べられる場所へ行った。そこで安い店を選んだのが悪かった。那岐はその店の牡蠣を食べたことで昨晩、お腹を壊すハメになったというわけだ。
「あんまり評判の良い店じゃなかったし…昇士君が悪いね」
「本当に悪かったって…」
昇士は那岐をお姫様抱っこする。そしてペガスターに乗れば良いものを、背中に芽愛が飛び付いた。
「えぇ!?…落ちないでよ?」
「ほらほら!レッツゴー!」
それからアクトナイト記念公園へ到着した。瞑想室に込もっていたシャオは用件を聞くと、すぐに那岐の身体を癒した。
「ほらよ。おっそうだ芽愛、今日の戦いよく頑張ったな」
「えへへ、ありがとうございます!まあ倒したのは昇士君だけど…」
「芽愛が疲れさせてくれたから俺の攻撃を当てられたんだ。次も頑張ろう」
褒めてもらえない。自己承認欲求というわけではないが、那岐は少しだけ悔しかった。
「これから頼むぞー!」
那岐の腹を治したシャオは船内へ戻っていく。きっと、今も信太郎の捜索を行っているのだろう。
用を終えた3人はそのまま帰宅…になるかと思っていた。
それから間もなく、本日2体目の怪人が出現した。すぐに現場に向かった3人は戦闘に突入した。
「私が盾になる!」
アクトナイトラヴは変身していない2人の前に立ち、飛んでくる火球をシールドで受け止めた。
「火の球を吐いてくる…シンプルな怪人だな」
ラヴの背後から凄い勢いでジャンプしてみせた昇士。空中に火球の発射口が向けられる前に、蹴りの姿勢になって急加速を掛けた。
「喰らえ!」
だが昇士が近付いて来ると、怪人は発射口から風を発射。敵を追い払った。
恐ろしい威力の風は、昇士を飛ばしただけでなく全身に無数の切り傷を付けていった。
「いってえええ!」
慌てて昇士はラヴの背後へ。今度は今朝の怪人と同じように電気を発射した。
「色んな攻撃を撃ってくるぞ!」
怪人は3種類の攻撃方法を持っている。いや、これ以上あったとしても、出される前にゴリ押しで決着を付けたい。
昇士は砲丸投げのように次々とエナジー弾を撃つが、スピードが乗らずどれも撃ち落とされてしまう。
ラヴの背後から出て豪速球を投げようとすると、すぐさま電気攻撃を命中させられた。
「いでででで!…なんつー反応速度してんだよ!」
誰かが来るまで待って、多勢で討ち取るべきか。防戦するべきかと盾を見た那岐は、ラヴのシールドに異変が生じていることに気が付いた。
「その盾を、光ってるわ…」
シールドが自ら輝きを放っていた。初めて芽愛が変身した時に付いてきたおまけの盾には、まだ隠された機能があった。
「本当だ…だったら!」
ラヴは盾の鞘に剣を収納という形で合体。強化形態のアクトナイトラヴシールダーになった。
腕に装備していたシールドを構えるように持った時、グリップに銃のようなトリガーが付いていることに気が付いた。
「いっけえええ!」
これだと思ったラヴは迷わず指に力を込めた。そして盾は強く光ると、今まで受けた攻撃を全て、怪人目掛けて放出した。
「うぅ!」
倒れそうになるラヴを昇士たちが支えた。それほどの威力を返された怪人は、跡形も残らず消し飛んでいた。
「勝った…やったよ!私、怪人倒せた!」
「やったけど…凄い威力だったな。今の技」
昇士の言う通り、今の攻撃で道路が削れていた。近くにいた人たちは幸い巻き込まれることはなかったが、次からは場所を選ぶ必要がありそうだ。
「私じゃなく私たちでしょ」
戦闘を終えた3人は、早速道路の修理に来た業者や警察たちに事情を話して、その場から離れた。後の面倒なことは、シャオが片付けることになる。
帰り道、2人と別れた後でも機嫌のいい芽愛は鼻唄を歌いながら歩いていた。
「ふんふんふ~ん」
芽愛はこのまま真っ直ぐ家に帰るつもりだった。そんな彼女がふと、歩道橋の方を見ると…
「え…大月君?」
姿を消した信太郎が、往来する車を眺めていた。
「大月君!」
芽愛が叫んで歩道橋を駆け上がった時には、もう信太郎の姿はなかった。幻覚にしては、あまりにもハッキリとこの目で捉えていた。
これまでと違う雰囲気を漂わせた、何か違う信太郎を。
シャオにそのことを話したが、彼は信太郎のエナジーを感知していないと言う。
やはり幻覚だったのか?いや、きっとあれは大月信太郎だ。芽愛はそうであると信じて、再び姿を見せることを願うと、家に向かって歩き始めた。