第117話 記念公園でのひととき
「ったく…色々届いたな」
アクトナイト記念公園は中身の入った黒いケースで溢れていた。これらは全て、ビレッツを壊滅させたアクトナイト達のリーダーであるシャオ宛に贈られてきた物だ。
「ロベン星の野菜って…あそこの星の農作物、全部アルコール度数が高くて食べる酒なんて言われてなかったっけ…酒くさ!」
シャオはケースを開いては、役に立ちそうな物から宇宙船の超保存力四次元物置へと投げ入れていった。
「こいつは…アマノガワサーモン!天ノ川の魚自体結構高いのに、こんな物貰っていいのかよ!?」
サーモンを冷凍ボックスに戻して物置へ。この中で保管しておけば、生物でも100年近くは大丈夫だ。
「機械類も色々あるなぁ。これならアクトーザーの修理に使えそうだってこれ、マジックタービンじゃねえか!あぁ~魔法使えねえから宝の持ち腐れだな。どっかで売るか!」
「お~いアクトナイト。何やってんだ~?」
学校が終わった帰りに、制服姿の将矢と奏芽がやって来た。
「色々届いたから整理してるんだよ。欲しい物があったら持ってけ」
「ふーん…おっなんだこれ、宇宙服か?」
「すごーい。着てみてよ」
それからしばらくすると、今度は美保がやって来た。
「あの、すいません。先輩来てませんか?」
「いや、今日はまだ剛と会ってねえけど…どうかしたのか?」
「…先輩、武器が壊れちゃってから元気ないみたいで…」
剛の装備一式は、修理のためにシャオが預かっている。だが誰が見ても分かるぐらい、アクトウェポンはボロボロなのだ。
もう戦えないという無力感に、剛は1人で悩んでいた。
「あの…直るんですよね?」
「あ、あぁ。こうして使えそうな物も届いたんだ!やってやるよ!」
しかしその中でただ1人、美保だけは先輩が再び戦えるようになると信じていた。
「そうだ、好き物持ってけよ。そこら辺のジュースとか持ってて、励ましてやれ」
「…ありがとうございます!」
リュックの中に菓子が次々と入れられていく。美保は器用にも、地球の物だけを手に取っていた。
「あとこのジュースも2本もらっていきますね!それじゃあさよなら!」
「おぉ~…ん?ジュースなんてあったか?」
シャオは美保が持っていったというジュースのラベルを確認した。変わった形の容器なので嫌な予感がしたが…
「やっべ!それジュースじゃなくて媚薬だこれ!おいお前ら!追って取り上げて来い!」
「え、媚薬なんかあるんですか?へへっ面白そう」
「あれは地球人には効果が強すぎるんだ!早く取りに行け!」
シャオは2人を走らせた後で、まあ例え回収できずとも剛なら気付くだろうと思い安心すると作業を再開した。
今度は啓太と千夏が、面白い物があると奏芽から聞いて遊びに来た。
「なんだお前ら?暇なのか?」
「まあ放課後なんで暇ですね」
「ねえこれ見てよ。僕たちと同じくらいのロボットだよ」
啓太が引っ張り出して来たのは警備などで使われる人型のロボットだった。
「おー最新式のやつか。せっかくだ。立ち上げてここの留守番でもやらせてみるか」
ロボットは起動すると目を光らせてお辞儀をした。
「…喋らないの?」
「まあ警備用だしな。何かあったらこの小型デバイスに通知が来るんだ」
それからロボットは、公園の外周を歩き始めた。警備をしている姿はあまりにも地味で、すぐに飽きられていた。
「これなに?」
「プラネタリウムだな。別の星での夜空を参考に作られてるはずだから、楽しめるんじゃねえの?」
「じゃあこれ貰っちゃいますね。ねえ啓太、今日親いないしこれ見ながら…ね?」
千夏は啓太と腕を組んで、楽しそうに公園から出ていった。
「やっぱあいつ…性格変わったよな。明るくなった」
そしてやはりと言うべきか、今日最後にはあの3人がやって来た。
「なんか散らかってる~」
本格的に付き合い始めた昇士、那岐、芽愛。手首にはそれぞれのイメージカラーを使ったミサンガが結ばれていた。
「んだよまたカップルかよ。デートすんならもっとちゃんとした場所行けっての」
「夏休み入ったら色々行く予定だし…それより、信太郎は見つかったの?」
那岐に尋ねられ、シャオは首を横に振った。暇な時には世須賀市内に彼のエナジーがないかチェックしているが、相変わらず見つかっていない。
「そっか…」
「んな暗い顔すんな!いなくなったってことはあれだ!生きてるってことなんだから!」
「芽愛、大丈夫だよ。いつか再会出来るだろうし、その時に礼を言おう」
昇士はトントンと背中を叩いて励ました。
芽愛は信太郎から貰った命という返せない恩で生きている。もしも信太郎に礼をする機会があるのなら、なんとしても会いたかった。
「まあ何かあった連絡してやるから。ほら、今日はもう帰りな」
適当な菓子を詰めた袋を渡して、なんとか3人を追い払う。
信太郎が生きている。シャオはその可能性を信じられない。
(そんな都合の良いことは…ありえない)
現に彼が死ぬ瞬間を目の当たりにしている。それに、セルナの力で命の譲渡を行ったのだ。信太郎が生きてるとは思えなかった。
信太郎だけではない。彼の持っていたセルナも一緒になくなってしまった。アクトナイトの力目当ての何者かが、遺体ごと持っていってしまったのだろうか。
「…アクトナイト、こういう時は冷静になって、それから…どうすりゃいいんだ?」
信太郎は死んだと言って諦めさせるべきだろうか。そう悩むと、悲しむ少年たちの顔が目に浮かんで、心が痛んだ。