第115話 三人一緒
「ウオオオオオオ!」
悪魔ウォーロックが雄叫びをあげて走り出した。近くにいた芽愛が狙われるが、一足先に動き出していた那岐が彼女を抱えてイーグルの翼で上空へ避難した。
「なんか強そうだよ…翼生えてるし」
ウォーロックは那岐たちを追って飛翔する。芽愛を抱えたままでは逃げてもすぐに追い付かれてしまうだろう。
だがさらにそれを追って出た昇士は、ウォーロックを踏みつけるように上空から襲った。
「無視してんじゃねえ!俺が相手だ!」
身体の巨大な悪魔は地面へと叩きつけられた。
「ったく…2人とも大丈夫!?いや、なんで陽川さんが!?どうなってるの!?」
「いや、説明するとややこしくなるけど…生き返ったんだよね」
「ウオオオオオオ!」
再びウォーロックが襲めて来た。今度は昇士を狙って飛んでくるが、2人を逃がすにはちょうど良かった。
昇士はエナジー弾を撒きながらひたすら後退し、那岐たちと離れる。だがウォーロックは機雷のようにフワフワと浮く弾に次々とぶつかって爆発しながら突進していた。
「お前っ痛覚ねえのかよ!?」
ウォーロックが昇士に追い付いた。振り上げた拳がまるでさっきの攻撃をやり返すように振り落とされ、昇士を地面へと墜落させた。
昇士は一度だけ地面でバウンドしたが、それでもすぐに、ロケットのように飛び上がっては悪魔に蹴りを入れた。
ボオオオオ!
怯むことなくウォーロック反撃がしようと、強靭な足を振り上げようとした時だった。どこから発射された炎がウォーロックを惑わせ、動きを止めた。
「アクトナイトに呼ばれて来たけど…クライマックスみたいだな!」
「戻って来たら円盤全部壊されてるし、最後以外僕たちいらなかったんじゃないの?」
さらに地面から伸びて来た大きな植物がウォーロックを捕らえ、そこに水、金属、砂の矢が射ち込まれた。
「早く倒そう!そんで帰って寝よう!」
「本当…マジで寝たい」
激しい攻撃に耐えたウォーロック。悪魔は植物の拘束を破ると、身体を広げて全方位に衝撃波を放った。
翼を持った那岐とジュピテルはそれに負けじと飛び上がり、2本の刃が悪魔に切り込んだ。
「けどっ!」
「傷が浅い!」
しかし大したダメージにはならなかった。もっと強い一撃でなければ、この悪魔は倒せない。
「こうなったら…千夏!ソウルデュオで行こう!」
地上へ降りようとするジュピテルの翼を、ウォーロックが掴んだ。ジュピテルは引き寄せられるついでに翼を千切られ、頭部に強烈なパンチを喰らった。
「啓太!」
地面に落ちた啓太の変身が解ける。次にウォーロックは、回復しようと彼の元に向かうシャオに狙いを定めた。
「ちょっ!俺かよ!」
シャオがやられたら誰も治せなくなる。他の戦士たちは盾になるように並ぶと、ウォーロックを迎え撃った。
「こうなったら…昇士!那岐!芽愛!お前たちでやれ!」
「は?どういうこと!?」
「お前たちが融合して!あいつを倒せ!ほらっ!」
これしか手段はないと、シャオは迷わずアクトソードと、そして光の力を持つソーンマテリアルを投げた。
アクトソードは昇士を拒絶するが、その意思を無視して強引に彼は剣を握った。
「融合って…あれか、信太郎を倒した時にやったやつ…」
「そんな簡単に出来るの…?」
昇士たちは不安になりながら芽愛のいる地上へ。
「よく分かんないけど、とりあえずやってみよう!」
そうして3人は刃を重ねた。光軍がアクトソードを傷付けるかと思ったがそんなことはなく、しっかり重なっていた。
「………合体!」
「ちょっと大きな声出さないでよ!集中してるんだから!」
「やっぱり無理だよね…私もいるんだし」
「早くしろおおお!」
フレイスの悲鳴が聞こえた。ウォーロックとやり合う彼の周りには、既に倒れたビヴィナス達の姿が。
3人は焦るが、それでも融合は起こらない。
「くっ…!融合なんて出来るのかよ!」
「2人なら上手く出来るんじゃないのかな…私、抜けるね」
その場から離れようとする芽愛の腕を、那岐が掴んで止めた。
「そんなことない!」
「でも私は…灯刀さんに酷いことをして、朝日君に嫌われて…ここにいていいはずがない!」
「…確かに陽川さんは酷いことをした。話を聞いた時は残念だったよ。けど那岐は許してるし、俺もちゃんと話をしたい…俺たちはここにいちゃいけないなんて思ってないよ」
昇士に優しく引き寄せられると、芽愛は逃げるのを諦め、再び剣を重ねた。
「君はアクトソードを握った。その勇気を認めた剣に選ばれ、そして戦うことを自ら決めた」
誰かの声が聞こえた。信太郎に似ている声だが…既に彼はいない。何より、喋り方が違っていた。
「翼を持った那岐は誰よりも戦った。昇士は君と那岐のために光となり、新たな道を示した。ならば芽愛、君はどうする?」
「君はどうしたい?」
「私は…」
芽愛のポケットから何かが浮き上がり、光を放った。
「あれは…!」
かつて彼女に闇の力を与え、怪人へと変身させたダークネスマテリアル。既にソーンの力で闇を照らされ、何の力もない空っぽのマテリアルである。
それが今、宙に浮いて光っていた。
「私は愛したい!灯刀さんと朝日君を!2人が愛する全てを守れるくらい、強くなりたい!」
掲げた手が桃色のマテリアルを掴み取った。それだけでなく、彼女の左腕にどこからともなく現れた盾が装着された。
「えっなにこの盾」
「その強い愛の力で愛のために戦うんだ。陽川芽愛。アクトナイトラヴシールダーとして!」
かつては人を傷付けた芽愛の愛。それが人を守るために新たな力となった瞬間である。
「陽川さん!アクトベイトだ!」
「芽愛!一緒に戦おう!」
「うん!アクトベイト!」
ラヴマテリアルが剣にセットされた。それを離れた場所で見ていたシャオは、エナジーと共に言葉を送った。
「愛する全てを守る力!アクトナイトラヴ!お前ら!任せたぞ!」
芽愛が桃色の鎧を身に纏い、新たな戦士がここに誕生た。
「ウオオオオオオ!」
フレイスを倒したウォーロックがシャオの元へ走る。やるしかないのかとファイティングポーズを取ったその時、アクトナイトラヴが前に立った。
「やらせないよ!」
ラヴは左腕の盾、アクトシールドの鞘に剣を収める。そして装甲が一段と増して、アクトナイトラヴシールダーとなった。
盾から発生したオーラがウォーロックのパンチを受け止めると、その巨体が正面へと弾き返された。
「なんて防御力だ…」
「今がチャンスだよ!」
3人はその場に集まり、再び剣を重ねた。
そして、かつてのジュピテル、ビヴィナスのように、その身体は光となって1つに合わさった。
「2人が合体してソウルデュオなら…」
「3人のこれはソウルトリオ…」
「三位一体の力なら、絶対に勝てる!」
3人が融合して誕生したアクトナイトソウルトリオ。2本のアクトソードと光軍、アクトシールドも合わさって、大剣アクトブラスターへと強化されている。
「さあ、行こう!」
ソウルトリオは一瞬にして、ウォーロックの正面へ。抱えるようにして持つブラスターを力任せに振り回して、悪魔に連続の攻撃を繰り出した。
「ウオオオオオオ」「オオオじゃねえ!」
悪魔の反撃を避けて、次には背中が見えない程の回し蹴り。ウォーロックを空中へ打ち上げると、ソウルトリオも大翼を広げて追撃に向かった。
「ターゲットロック!照射!」
アクトブラスターからエナジーが放たれる。光に飲み込まれたウォーロックは身体を硬化させ、動きを鈍くする代わりに防御力を高めた。
「まだまだ!」
アクトブラスターを空中に固定し、照射されるエナジーの中を通ってやって来たソウルトリオは、素手での攻撃でウォーロックに挑んだ。
防御力が上がっても無敵ではない。反撃がなくなった今がチャンスだと、ソウルトリオはひたすらウォーロックを殴り続けた。
「来い!」
アクトブラスターが持ち主の元へ飛んで来た。ソウルトリオはなるべく平らな背中に砲口を突き付けると、最大出力のエナジー弾を放つのだった。
「ウオオッオオッ」
ノイズが混じったような声をあげながら、ウォーロックは地上に向かって落ちていった。
すぐさま、ソウルトリオはアクトブラスターを天に向けて、巨大な刃を形成。大翼が鍔のようで、まるで戦士自身が巨大な剣になったようだった。
「「「フルパワーブラスター…スラァァァァッシュ!」」」
最大出力の刃が振り下ろされる。勢いよく動く刃は、地上にまだ到達していないウォーロックに追い付いた。
「「「とどめだあああああ!」」」
悪魔は光の刃に飲み込まれる。その身体は一瞬で破壊されていき、悲鳴もあげることなく消滅するのだった。
戦闘後、シャオが倒れた仲間たちを治療していた。
3人は少し離れた場所で背中合わせになって座り込んでいた。
「…」
会話はない。疲れているというのもあるが、融合して心が1つになった時、会話もなしにそれぞれの気持ちを理解してしまったのが原因だった。
「…けほっけほ」
芽愛が咳き込んだ。すると2人が心配に顔を近付けた。
「大丈夫か?復活したばっかで無理したから、どこか悪いんじゃ…」
「どこか悪いなら治してもらわないと…」
「ああいや…ちょっとむせただけ」
やっと目を合わせたかと思うと、すぐに黙り込んでしまう。顔を赤くして、何を喋ればいいのか言葉に迷っていた。
「あの…」
それから最初に声を発したのは芽愛だった。
「灯刀さん、朝日君。ごめんなさい。2人の関係を知ってたのに、灯刀さんには酷いことをして朝日君にも嫌な思いをさせて…私は2人の関係を壊すような最低な行いをしました。何を言われても当然だと思います…けど、今でも朝日君を諦められないし、灯刀さんへの想いは本物です」
「2人のことが大好きです。付き合ってください」
「…私は…いいと思う。無理矢理されたのは嫌だったけど、それまで一緒に話してて楽しかったし…昇士はどうなの?」
「那岐、まずは自分の本心を伝えなきゃ。ね?」
「うぅ…!あの日急にキスされて外なのにレイプ同然のことしてきて!表情も違ってて怖かったに決まってるでしょ!?数少ない友達だって信じてたのに、あんなことされたら嫌な気持ちになるのは当然でしょ!」
「…そう、だよね」
「…でも…正直、嬉しかった。2人の人からこんなに強く想われてるんだって…喜んでた自分がいたのかもしれない…これ、浮気かな………私も2人が好きよ」
「スゥゥゥゥ…俺の番かぁ~…時間くれない?」
「やだよ」
「気持ちを伝える方法なんて、いくらでもあるでしょ」
那岐がチョイチョイと指を動かす。それを見た昇士は一瞬、こんなことして良いのかと迷いながらも、2人に腕を伸ばして強く、抱き寄せた。
「ふふっ!ちょっと苦しいわよ!」
「くすぐったいよ!」
1つしかない身体を一生懸命擦り付けている。その姿はまるで匂いを移してマーキングする動物のようだった。
「好きだよ!これで分かっただろ!」
「分かりませ~ん!私たちのどこが好きなんですか~?それぞれ100個ずつ挙げていってくださ~い!」
「どーせ無理よ。女子2人に惚れる単純な男だもの」
「はぁ!?そんなに言うんだったら今ここで!行動で証明してやるよ!」
「今すぐそのベルトを外そうとする手を止めろ」
その声を聞いて背筋が凍った。
「み、見てらっしゃったんですね…趣味が悪いなぁ」
「着陸に失敗して気を失って、目が覚めた時には戦いが終わっていた。俺たちは勝ったのだと喜んだが…これは一体どういうことだ」
フラフラになりながらも、「公然での破廉恥な行為は絶対に許さない」と鋭い目で訴える剛がいた。
「…戦いはどうなったのか。まずはそこから教えてもらおうか」
「その前にまず、怪我治してもらおうぜ」
昇士は彼を抱えると、シャオのいる場所まで運んでいった。