第110話 空中戦 その2
日が暮れた。それでなくとも円盤が空を塞いで人もいなくなったので、地上の世須賀はいつも以上に暗くなっていた。
バリアポッドは健在だ。街にはまだ少しも被害は出ていない。
だがしかし、ビレッツの宇宙人は街に侵入していた。世須賀上空にしか広がっていないバリアを避けて。
「本当にこの星にいるんですかね…?」
「既に予兆は見せている。特にこの街では著しく、異常なことが起こっている」
「原生動物には悪いけど、この爆弾で星の一部ごとやつを殺してやろう」
「やっぱりいた」
しかし、彼らの侵入に気付いた信太郎が街へと降りて来ていた。
変身は出来なくとも戦える。街を守る使命があるのだ。
「あ?地球人が何のつもりだ?」
図体の大きな宇宙人の拳が振り下ろされる。信太郎は避けただけで反撃はしなかった。
「避けたぞ。あいつ、俺たちの攻撃を避けた」
「少しは退屈しのぎになりそうだな…」
「かかって来い!」
信太郎の役割はただ1つ。仲間が誰か来るまで、時間を稼ぐことだ。
夜になっても戦闘は続いた。この状況で不利なのは地球の戦士たちだった。
(うぅ…眠たい…)
円盤に突入したビヴィナス。侵入者を迎撃しに次々とソルジャーが現れ彼女を包囲する。
「千夏!無理しないで!」
危機を感知したジュピテルが駆けつけた。ソルジャー達を倒して宇宙船のエンジンを破壊してから、ビヴィナスを連れて脱出した。
「ありがと…怖かったー」
「アクトナイトに回復してもらおう」
そう言う啓太にも余裕はない。2人はガイアスに戻りシャオに回復してもらったが、なくならない疲労感で押し潰されそうだった。
「あと何時間戦えばいいの…?」
「応援が時間通りに来るならあと16時間だな」
2人は再び戦いに出た。回復担当のシャオにも疲れは出ていた。変身を維持させるためにエナジーを送り、戦艦に戻って来た負傷者を治療する。眠くてストレスも溜まって来てはいるが、負けられない戦いなんだと自分を鼓舞した。
「アクトナイト!うるさい!」
「あ~!すまん!…しまった、心が繋がってるから考えてることとか聞こえてるんだったな…集中集中!」
1枚、また1枚と円盤が破壊されていく。怒涛の勢いで敵を襲うのは朝日昇士だ。
彼は既に100機以上の宇宙船を破壊している。
「どんだけいるんだよ!宇宙のテロ組織ってのは!」
彼が危険だと判断したソルジャー達が一斉に攻撃する。だが昇士には熱エネルギーの弾丸は効かず、あっという間に返り討ちに遭っていた。
「生身の地球人があんなに強いわけないだろ!もっとちゃんとやれ!」
「じゃあなんで仲間たちがやられてるんだ!」
戦意喪失したとあるソルジャー。彼がもう使い物にならないと機械が判断すると、装着していたスーツが彼の身体を強制的に動かして昇士に突撃させた。
「うわああああ!?どうなってる!?」
昇士の目前まで迫った瞬間、スーツの爆弾が作動。人間ミサイルにされたソルジャーは爆散した。
「こんなことまでするのかよ…」
それでも爆発を直で受けた昇士は浮遊していた。一部始終を見ていた那岐はある異変に気が付いていた。
「あいつ…本当に地球人なの?」
最初の頃は潜在能力が高い地球人かと思っていた。しかし彼の攻撃力と防御力は異常だ。組織で訓練を受けていた自分と剛よりも強くなった今、彼はこの星の人間ではないと疑いを持っていた。
「ハアアア!」
そして今度は体内のエナジーを光線化して無数の円盤に直撃させていた。
呆気に取られている那岐だが油断はしていない。背後に来ていたソルジャーを、腰の鞘に刀を納めるように突き刺して一撃。そこから振り返り様に、今度は居合い切りのように光軍の刃で切り裂いた。
柄から形成される刃の出力が落ちている。疲労感はあるが、他も頑張っているのに休んではいられないと、那岐も負けずにソルジャーの群れに突撃していった。
さらに時間が進み、日が昇り始めた頃…
「ガイアス!直撃を受けました!」
「バリアポッド全機排出!既に自立モードに移行してます!」
「そうか。では艦内にいる者たちは全員脱出を。バリアに焼かれないように気を付けて」
ガイアスは飛行困難な状態となり、艦にいた人間が次々と脱出していく。芽愛もシャオを後ろに乗せるとペガスターを発進させて、艦から飛び立った。
「皆!戦艦がやられた!俺と芽愛を!ペガスターを守れ!」
戦艦はバリアに触れて爆発した。自身の能力で浮遊するデスタームに、ソルジャー達が襲い来る。
「私に朝日昇士君ほどのパワーはありませんが、あなた達を軽く倒すことは出来ますよ」
肉弾戦は出来ないかと思われていたデスタームは、次々と敵を倒していった。攻撃を避けると手刀で胸を貫き、一撃で仕留める。スーツ姿から繰り出されるのは恐ろしい必殺技であった。
「デスタームさんよ、どうして地球を守る必要がある?こんな星に何か思い入れでもあるのか?」
「この星は私の商品ですから。荒らされると困るんですよね」
「商品ねぇ…メングランの眠る星で商売とは度胸があるんだな」
「メングラン!?」
単語に同様したデスターム。その背後からソルジャー達は一斉に攻撃する。だが攻撃は全て跳ね返され、あっという間に数が減らされた。
「これでも駄目か。流石だな」
「まさかビレッツが受けた依頼は…」
「そう、眠れる怪獣の駆除だ」
残った1人はそう言い残して、デスタームへ特攻を仕掛けて爆発した。
火炎から逃れたデスタームは何も告げることなく、静かに戦線離脱していくのであった。