第11話 強化アイテム、アクトブレイド!
とある日曜日、信太郎たち五人はアクトナイトに呼び出された。場所は相変わらず、アクトナイト記念公園だ。
「今日休日なんですけど…」
奏芽が将矢と一緒に宇宙船に入ってきた。他の三人は既にクーラーの前を取り合っていた。
「みんな集まったな…完成したぜ!アクトナイトのパワーアップアイテム!その名もアクトブレイドだ!」
ジャジャーンと効果音を口にして、シャオは何かに被せていた布を勢いよく剥した。そこにあったのはアクトソードよりも一回り大きく長い剣、アクトブレイドだった。
「………」
「え?何かリアクションしてくれないのか?これ造るのに苦労したんだぜ、おかげでまだ1個だけだ」
「これを使えばあのメルバナイトっていうのに負けないんですか?」
そう質問する千夏はエルビスとシーノ、二人のメルバナイトと遭遇して敗北したことで、若干トラウマ気味になっていた。
「あぁ。そうだな…信太郎、これを付けて変身してくれるか?」
信太郎はアクトソードとアクトブレイドを連結させた。この状態はアクトバスターと呼ばれる。
「それじゃあやってみるよ…アクトベイト!」
「理を超える神秘の力!アクトナイトセルナバスター!」
「口上…別に今言わなくてよくないですか?」
奏芽の指摘をスルーして、シャオはセルナに変身する信太郎を眺めていた。
そしてそこに立っていたのはこれまでとは姿が違い追加装甲が取り付けられたアクトナイトセルナだった。その名は、アクトナイトセルナバスター。
「どうだ?」
「どうって言われても…でも確かに強くなった気がする。それよりもこのブレイド?こっちにもマテリアルが付けられるの?」
信太郎は連結したブレイド側の窪みに注目した。そこにはソードと同じようにマテリアルをセットできるようになっていた。
「あぁ…あ~あ…」
「付けて見ようぜ。信太郎、俺のフレイスを」
「待て将矢!…そこに入れていいのは俺が造った人口マテリアルだけだ。お前たちが変身に使う天然物はダメだ」
「駄目って…どうしてだよ?」
「………マテリアルをセットする機能を付けた後に判明したことだ。強大な力を持つマテリアルを二つ同時に使おうとすれば、身を滅ぼす程の半端ない負担がかかる。今のお前たちにはまだ無理だ」
恐ろしい話を聞いたセルナと将矢は固まったように動かなくなった。
「それは…いやだな」
「おっそろしぃい…」
「まぁ、バスターの時点で充分強くなってるからな。きっと使わなくても善戦出来るはずだ………!邪悪なエナジー感知ィ!お前ら、出動だ!」
「よし!行こうぜみんな!」
「あの!今日日曜日なんですけど!」
奏芽は機嫌を悪くしながら現場に向けて出発した。
「あ…あれは…」
一目見てそれは恐ろしい物だと分かった。禍々しく巨大な、邪悪の塊。
信太郎たちはエアボードを空中で静止させて、今回戦う敵を観察している。戦わなければいけないと分かっていても、迂闊に手出し出来なかった。
「か…怪獣だ!」
彼らの前では今、巨大な怪獣が口から炎を吐いて街を燃やし、足元の物を平然と踏み潰し闊歩していた。
「か…勝てるの?あんな大きな敵に」
「やるしかねえだろ!いくぞ!アクトベイト!」
将矢、信太郎、奏芽の三名が変身して怪獣の周りを飛び回った。
アーキュリーが水を撒いて街の消火活動を開始すると、それと競うように怪獣は炎を吐いて建物を燃やし始めた。
怪獣を倒さない限り、街の火災は終わらない。
「俺が奴の気を引く!信太郎は急所を探してくれ!」
「うわあああ!」
セルナはあまりにも大きな敵を前にしてパニック状態だった。エアボードを接近させ何度も剣で怪獣を切ろうとするが、その身体はあまりにも硬くダメージを与えられていなかった。
「信太郎!信太郎!おい!」
「駄目だ将矢。彼は今パニック状態だ」
アクトナイトが言わなくても分かっている。地上で避難誘導をしている啓太と千夏は、バトンタッチの準備をしていた。
「うあああ!あああああ!」
「あいつ…!」
だが交代の必要はない。フレイスはセルナのボードに飛び移った。そしてメットに隠れている情けない表情を修正するつもりで、魂の如く燃える拳を喰らわせた。
「がはぁ?!」
「しっかりしろ信太郎!」
「こんなやつにどうやって勝てばいいんだよ!」
「周りを見てみろ!」
将矢に頭を掴まれた信太郎は、無理矢理足元の光景を目の当たりにした。
「人が怪我をしてる…泣いてる…怯えてる!そりゃあこんな大きな相手に勝てないかもしれないが、それでも俺たちが戦わないといけないんだ!」
「………」
「何より初めてアクトナイトと出会った日!お前は誰よりも先に怪人に向かって走り出してたじゃないか!」
五人は心が繋がっていた。救助活動を行う啓太と千夏、そして奏芽の頑張っている気持ちが伝わって来た。そして将矢は恐怖を抱えながらも、それを殺す熱い気持ちで戦おうとしていた。
「俺だけが…俺だけが戦おうとしてない…」
信太郎は己を恥じた。怖いことに変わりはないがそれでも戦わなければいけないと自分を奮い立たせ、勇気を示すように剣を掲げた。
「俺も…俺も戦わないといけないんだ!」
「信太郎!アクトブレイドだ!」
アクトナイトに呼ばれて反応するようにトロワマテリアルからアクトブレイドが現われた。そこから先程と同じようにソードとブレイドを連結させた。
「バスター!アクトベイト!」
「口上省略!やってこい信太郎!」
そこで言わないのかよという奏芽のツッコミが伝わって来る。セルナバスターはエアボードを加速させて怪獣の足へと急降下した。
「ウオリャアアア!」
アクトバスターによる強力な攻撃にはエアボードの勢いも乗っていた。セルナバスターは関節部の破壊のみならず、足を切断して怪獣を転倒させることに成功した。
「まだだ!」
更に先程まで歯が立たなかった表面にも、今のセルナバスターでならダメージを与えることが出来た。
ソードとブレイドを分離させると、二刀流のセルナバスターは怪獣の表面を何度も斬り付けた。
「やるじゃねえか信太郎!」
「この怪獣は生物じゃない!この身体はエネルギーの集合体、全身が弱点だ!」
それを聞いたフレイスもエアボードを加速させる。そして怪獣の関節部への攻撃を開始した。
二人のアクトナイトによって、今までビル並みに大きかった怪獣はどんどん小さく削られていった。
「一撃で倒せる!必殺技だ!」
「いけ!信太郎!」
倒れている怪獣の前に降り立つセルナバスター。ソード側のセルナマテリアルを力強く叩くと、剣を掲げて必殺技を構えた。
「闇世を照らす輝きの一撃!セルナバスタースラッシュ!」
「セルナ!バスタァァァスラァァァァァッシュ!」
セルナのエナジーによって形成された光の刃。セルナバスターが掲げるその刃は建物よりも高く、怪獣へと倒れていくように振り下ろされた。
一撃の後、怪獣は一辺も残らずに消滅していた。その余波で二車線道路の真ん中部分にも斬撃の跡が出来ていた。
「これは…使う場所を考えないとだな…」
「将矢、ありがとう。さっきは少しパニクってた」
二人の元に消火活動を終えたアーキュリーが飛んできた。戦いはしていなかったが、街中の火を消そうと頑張っていたのでヘトへトになっていた。
「疲れた~…水ずっと噴いてたから気持ち脱水状態。喉渇いた」
「それじゃあ帰るか。この後なんか食いに行こうぜ。信太郎も来いよ」
「うん。何か重たい物食べたいなー」
「ラーメンとか?」
「まだ戦いは終わってないぞ!邪悪なエナジーがすぐそこに!」
次の瞬間、エアボードに立っていたアーキュリーが建物の外壁に激突した。死角からの攻撃が彼女を吹き飛ばした。
「よう、ヒーロー」
先程までアーキュリーが乗っていたエアボードの上には謎の怪人が乗っていた。そして怪人はメルバソードを持っていた。
「なんだこいつは!」
怪人を目視したセルナバスターとフレイスは怯むことなく攻撃を仕掛けた。
「こりゃ物騒な挨拶だな」
怪人は二人の攻撃を軽々と受け止めるとエアボードから飛び降りて二人を地面に叩きつけた。
「俺はバッド。さっきの俺はカイジュウマテリアルで変身してたメルバナイトカイジュウ。そして今の俺はカイジンマテリアルで変身してるメルバナイトカイジンだ。ナイトと呼ぶには見た目が禍々しいけどな」
「よくも奏芽を!」
フレイスはブレイクダンスの様な動きでバッドを退けてから立ち上がった。
「いってえな!」
怒鳴るカイジンが振り下ろした剣は地面を弾けさせた。もしもフレイスの回避が遅ければ一撃で戦闘不能になっていただろう。
「生意気に避けてんじゃねえ!」
「立て信太郎!」
「くっ…脚が!」
剣を支えになんとかセルナバスターは立ち上がる。だがしかし、目の前にはカイジンに突き刺されたフレイスがやっとのことで立っていた。
「将矢ああああ!」
「…しん…た…ろ」
変身が解けた将矢の胸には酷い傷が出来ていた。だが将矢は最後の力を振り絞り、ソードに付いていたフレイスマテリアルをセルナへと投げ渡した。
力尽きた将矢は剣を手放して、バタリとその場に倒れた。
「将矢!…お前えぇぇぇぇえ!」
「!…いい叫び声出すじゃねえか」
「信太郎待て!それは駄目だ!」
アクトナイトの制止の言葉は信太郎に届いていない。セルナはブレイドの窪みにフレイスマテリアルをセットしてしまった。
「うああああ!」
二つのマテリアルの力を今の信太郎には制御できなかった。フレイスの力によって身体が炎上し、信太郎は怒りと悲鳴の混ざった叫び声をあげた。
それでも、目の前にいる敵に一矢報いるという気持ちだけは残っていた。
「暴走か…未熟というかなんというか…まあ恥じることはねえよ。誰もが通る道だ」
身体が燃えても構わない。その思いで信太郎は一心不乱に剣を振り回したが、カイジンにその刃が当たることはなかった。
「まだ未熟だ。今のお前らみんな弱い!だから今日はこれぐらいにしておいてやるよ。弱い奴らを一方的に潰したところで面白くないからな」
カイジンはそう言うと高く跳んで街のどこかに姿を消した。それを追う力は今のセルナには残っていなかった。
「う…」
そして信太郎も間もなく力尽きて倒れ込んだ。
啓太と千夏は三人を抱えると記念公園に急行した。
いつものように公園でアクトナイトによる治療が行われた。ここで治療を受ける頻度が増している気がするが、それは敵が強くなっているという何よりの証拠だ。
回復した奏芽はすぐに目を覚ましたが、重傷を負った二人は未だに傷の治癒が続いていた。
「どういうことですか…パワーアップしたから勝てるんじゃないですか…」
「…すまない」
「私じゃなくて将矢たちに謝ってくださいよ!将矢は街を守るために戦って、大月君もそんな将矢のおかげで怪獣と戦ってくれた!でも二人ともこんなになってるじゃないてすか!」
涙ながらに怒りの声をあげる奏芽。啓太と千夏はただ静かにその言葉を聞いていた。
「いつもこうやって…傷が治ればいいってもんじゃないんですよ!将矢があのバッドっていうのと戦ってる時、凄く怖がってたけどそれでも戦ったんですよ!痛い思いを何度もして今度こそ勝てるかと思ったらまた負けて!また痛い思いをした!あと何回将矢は傷付けばいいんですか!」
「そこまでにしなよ奏芽…アクトナイトさんも辛いと思うし」
千夏に優しく肩を叩かれて奏芽は落ち着きを取り戻した。
「かな…め…」
「将矢!」
先に将矢が意識を取り戻した。奏芽は再び涙を流して将矢に抱き着いた。
「やっぱり二人って」
「啓太。空気を読もう」
「…俺たち負けちまったのか」
「ねえ将矢!もうこんなことやめよう?普通の学生に戻ろうよ!」
奏芽の質問に迷うことなく、将矢はあっさりと返事をした。
「…駄目だ。いや無理だ。もう俺達は普通の学生には戻れない…戦わないといけないんだ」
「戻れるよ!まだ千夏たちがいるんだし、それに代わりの人が見つかるはずだよ!」
アクトソードは選ばれた人間にしか使えない。自分たちに代わる人間がそう容易く見つかることはないと、発言した奏芽自身も分かっていた。
「…続けるか辞めるかはお前たちが決めてくれ。俺が無理矢理やらせていたことだからな」
アクトナイトはそれだけ言って信太郎の治療を続けた。
将矢は考える時間が欲しいと呟いた。そして奏芽の手を握って公園から出て行った。
「…また俺が…ごめん…」
「大月君!?」
意識は戻っていないはずの信太郎が口を動かし涙を流していた。
「うああああ!」
「きゃあぁ!!!」
物凄い勢いで信太郎は起き上がり、それに驚いた千夏がバッタのように跳ねた。
「はぁ…はぁ…ここは…公園か………そうか、俺たちは負けたのか…」
信太郎は立ち上がって背中の砂を払い額の汗を拭った。
「アクトナイト、ごめん。普通に負けた。せっかくのアクトブレイドも上手く使えなかった」
信太郎は銅像に向かって頭を下げると、早足で公園から出て行ってしまった。二人は心配そうに彼の後ろ姿を見送った。それはとても小さく、とても弱々しいものだった。
「それじゃあ私たちも帰ろうか」
「じゃ、じゃあ駅まで送ってくよ。それじゃまた、アクトナイトさん」
「二人は…辞めたいとは思わないのか?」
その場から去ろうとする足をアクトナイトが止めた。
「…考える時間ください」
「僕も同じく…」
宇宙船の中でシャオはボーっとただ立っていた。
自分は子ども達を戦いに巻き込んでしまった。アクトソードを使えるのが彼らだからというのもあるが、あまりにも無理に戦わせ過ぎていた。
そして、そんな彼らが敵わない強敵メルバナイトが出現した。アクトブレイドの力をも凌ぐ強敵と交えて、信太郎たちの戦意が失われかけていた。
「だったら…どうすりゃいいんだよ…」
どうすればやつらに勝てるのか。その答えを見つける為、シャオは新しい装備について考え始めるのだが、そんな簡単に思い浮かぶはずがなかった。
そして彼らに勝つために必要なのは新しい装備などではなかった。