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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
大月信太郎編
101/150

第101話 セルナ、再び

 アクトナイト記念公園。選ばれた者にしか辿り着けないその場所で、朝から熱心に剣の素振りをしている少年がいた。


「っ!」


 自分を見失った挙げ句の果てに闇に染まり、最後は仲間たちに救われた少年、大月(おおつき)信太郎(しんたろう)

 彼は今、力を正しく使うためのリハビリ真っ最中だった。


 公園の銅像が動いた。そして現れた階段を昇って、シャオが姿を見せた。


「信太郎…今日は学校行かないのか?」

「っ!…昨日はちゃんと行ったし良いだろ」




 以前、学校に行った時の事を少し話そう。



 信太郎は2ヶ月の間刑務所で過ごし、それ以前から欠席が多かったために留年となった。

 そして先々週から始まった新学期。クラスメイトになった新入生から批判を浴びた。


「お前のせいで家族が傷付いた」

「お前が大切な人を傷付けた」


 そうだ。誰も殺していなくても、絶対に誰かを傷付けていたのだ。早くも虐めに発展し、信太郎は既に2、3回欠席していた。




「つらい気持ちは分かるが…それも受け止めて行くって決めただろ。将矢たちもフォローするっ言ってたしよ」

「想像してたよりもキツかったんだ。俺は自分がやった事を軽く見すぎてた。やっと罰が当たり始めたんだ」


 素振りをしながらそう話す。シャオもこの件には参っていた。学校の事は、信太郎自身で何とかするしかないと。

 脅すような真似はしたくなったが、仕方がないとシャオは語り出した。


「…この先どうするつもりだ?最低でも高校は卒業しとかないと、この国に働かせてくれる場所はねえぞ。怪人との戦いもいつか終わって、お前はその後どうするつもりだ?」

「俺はやるべきことをやるよ」

「学生なんだから学校行って勉強するのがやるべきことだろうがよ」


 その時、地震が起こった。信太郎は構わずに素振りを続けている。


「うおっ…最近多いな」


 しかし、地面が揺れてもやめなかった信太郎は少しすると腕を止めた。

 

「邪悪なエナジーだ…」

「あぁ。ここんところ出てなかったのにいきなりだな…まさか今の地震も怪人が?」


 久しぶりに怪人が現れた。時間帯的に他の少年たちが出動となると、授業を途中抜けする必要があるだろう。

 今の信太郎は以前と変わらず、心が誰とも通じない。シャオからエナジーや戦術知識、何より勇気が送れないのは特に問題だった。


「…あいつらには悪いが」

「わざわざ呼ぶ必要はない。俺が行く」

「けど…今のお前は変身出来るだけだ。闇の力に頼り切りだった前とは訳が違うぞ!」


 以前までの信太郎はアクトナイトセルナを超えた力を持ち、勇気ではなく自暴自棄に近い状態で戦っていた。

 呼び止めを聞かない信太郎がポケットから落としたトロワマテリアルがボードへ変形した。


「それでも行く」


 シャオが仲間たちに呼び掛けている間に信太郎は出動した。


「誰も繋がらない…!どっちにしろ信太郎に任せるしかないか!…バイブレーション付けとけば良かったな…」






 街では以前と変わらず、1体の怪人を中心に発生するメルバドアル達が暴れていた。

 こうして街を守るために敵の元へ向かうのが懐かしく感じたが、それだけだ。余計な事は考えず、信太郎は戦いに集中することを決めた。


「…っ!?」


 だが変身しようとした時、風に煽られたボードから足が離れて地面に落ちた。


「うぅ!?」


 身体を打ち付けた信太郎はアイテムを手放し身体を押さえ、敵を前にして何も出来ないというピンチに陥った。


「おい!そこのお前!」


 怪人はふざけた声で喋りながら信太郎に近付いた。


「お前はアクトナイトだな!俺はメノル王子から地球侵略を命令された怪人ビスケットガイマンだ!俺は正々堂々闘うことをモットーとしていてな!まずは能力を披露してやろう!はっ!」


 ビスケットガイマンと名乗る怪人が衣服のポケットを叩く。するとポケットから光線が発射され、街灯に直撃した。


「ふざけた攻撃だな…!」

「それはどうかな…?」


 一旦目を離した隙に、なんと街灯がサイズはそのまま、チョコが塗られた棒状の菓子に変化していたのだ。


「俺のビスケット光線を受けた物体はこうしてお菓子になるのだ!」

「ナメた能力だな!」


 怪人が説明をしている間に身体は回復した。

 信太郎は剣を掴むと、回転して踊るように起き上がった。そして力強く足踏みをし、地面のマテリアルを手元まで跳ばした。


「アクトベイト!」


 神秘の力で戦うアクトナイトセルナが、今ここに復活した。


「げげげ!剣をお菓子に変えて変身出来なくする作戦が!えぇい!行け!お前たち!」

「逃がすか!」


 ビスケットガイマンを追おうとすると、雑兵のアルが立ち塞がった。


「ビスケット!ビスケット!ビスケット!」

「なんだこいつら。俺のやつらよりもやる気に満ち溢れてるな!」


 俺のやつらというのは彼が怪人だった時に出現したアルのことだ。確かに、今までと違ってアルが声を出していた。


「助けて~!」

「逃げ送れた人がいるのか!放せ!」


 助けに行こうとするが、アルはセルナに抱きついて離れなかった。

 そして、痛々しい悲鳴が響いた。


「きゃあああああ!」

「しまった!うっ…」


 攻撃を加速させてももう遅い。助けられなかった者は助けられなかったのだ。

 敵を一掃した後にビスケットガイマンの姿はどこにも見当たらず、エナジーも感じられなかった。


 恐る恐る、悲鳴がした方を見る。幸いにも襲われた人物は軽い怪我で済んでいるようだった。


「大丈夫ですか!」

「あ…はい…大丈夫…どこも痛くないですから…」


 しかし助けようとした途端、その女性は走って逃げていった。

 今の女性が助けられるのを拒んでいたのは、言うまでもない。


「…」


 街灯以外の物も菓子になっていた。その後、辺りにいた人々に聴き込みを開始。光線は人間には効かないなど、有力な情報を得た。


「一度逃がすと次現れるまで見つからないんだよな…帰って作戦を考えよう」




「あの~、今ってお時間ありますか?」

「……………」


 怪人に逃げられてしまっても慌てず冷静を保っていた。だがその声を聞いた途端、独り言も止まり拳に力が宿った。


「怪人はどうなったんですか?もしかして逃がしたんですか?」


 かつて信太郎がイーヴィルアクトナイトになったきっかけ。それはとある記者による心のない質問が大きな原因だった。

 そしてその質問をした若手の記者が今、信太郎に笑顔でボイスレコーダーを向けていた。


「そうやって都合の悪い部分は隠して報道するんだな、あんた」

「怪人を逃がす度に思うんですよ。どうして強いのに最初の戦いで倒さないのかなって。もしかしてわざと逃がしたんですか?被害を拡大させた後に怪人を倒して、いかにも危機を救ったヒーロー!って演出にするために」

「そう思うならそう書けよ。そもそも嘘を書くのが仕事のあんたが俺に取材する意味あるのか?暇なのか?」


 真華の言葉を思い出す。そしてこういう人間は相手にしなくて良いのだと、信太郎は無視して歩きだした。


「ねえ待ってくださいよ。もしかして帰るんですか?街の人への事情説明は?あなた第一人者ですよね?」


 確かに今日は風が強い。信太郎はまた落ちてしまわないように足を貼り付けるように踏ん張って、ボードを上昇させた。




「ごめん、怪人倒せなかった。それと身体打ったから治療頼める?」


 シャオの治療が始まる。信太郎はベンチで一休みしながら、怪人の能力を伝えた。

 きっと戦闘力は大したものじゃない。数を揃えれば簡単に倒せると告げた。


「物体をお菓子に変える能力…大したことなさそうだな」

「このビスケットの破片、街灯の一部なんだけど」


 ビスケットを取り出したポケットの中はカスで汚れていた。

 シャオは破片をじっくり観察したが、特に何もないビスケットにしか見えなかった。


「毒や魔力はない………食べたか?」

「こんな得体の知れない物食べるわけないだろ」

「だよな~ムシャムシャ…」


 信太郎に共感しながらも、さらに情報を得るためにシャオは実食。


「…ってシャオ待った!」

「んあ?…なんだ?」


 振り返った時には遅かった。たった今、ネットでは元々が街の物だった菓子を食べた人の件で騒ぎになっていた。

 この菓子を少しでも食べた物は僅か数分で、車に乗れなくなる程のボールのような肥満体型になってしまうのだ。


「あっ…」


 かなりショックな光景だった。宇宙人の姿でも人間に擬態してもカッコいいシャオ。そんな彼は今、宇宙船に降りる階段で突っ掛かって動けなくなっていた。


「おっ…抜けねーぞ。助けてくれ…げぷっ」

「肥満ってレベルじゃないぞ…」


 フィットネスクラブも入店を拒否しそうなその身体は見るに耐えなかった。

 シャオを引っ張り出した後、信太郎はこれ以上の被害者を増やさないためにも街へ呼び掛けに出た。




「なんで食べるなって言われてるのに食べるかな…?」


 街にはボール体型の人だらけだった。もうずっと前から菓子の危険性は広まっていたというのに、これには困惑する。


「怪人を倒せば解決…するのか?」

「いた!大月君!」


 ペガスターに乗った陽川(ひかわ)芽愛(めい)と合流。休み時間に騒ぎを聞き、大急ぎで来たらしい。


「ねえこれ、どうしよう…?」

「いや、俺もそれ思ってた…どうしようもなくない?他のみんなは?」


 とある1名を除いて他は怪人の捜索。そしてそのとある1名は…



「ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ!」


 朝日(あさひ)昇士(しょうじ)である。彼はその身体に秘めた力で超人のように戦うことが出来る。エナジーを扱える彼は、菓子を食べて発生したカロリーなどをエナジーへ変換、そして放出をすることで、肥満体型になるのを防いでいるのだ。


「いや、ライジングスラッシュで消せばいいだろ。てか食わなくていいだろ別に」

「あれ?大月君知らないの?」


 かつてはプレハブ小屋だったビスケットの小屋。突然屋根が展開して、ビスケットのプロペラを現して、空中へ浮かんだのである。


「お菓子になった物はしばらくすると自分から食べられに来るんだって!こっちに来るよ!」

「いやそれ先に言ってよ!?」


 信太郎を乗せるとペガスターは発進。だが小屋はふざけた見た目の割に凄い速さで距離を縮めて来た。


「朝日君!早くこっちのも食べてよ~!」

「ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ!」


 ふざけた能力だがここまで追い詰められるとは思っていなかった。一欠片でも口に入れば、信太郎たちも周りの人間と同じように肥満体型にされてしまう。


「朝日く~ん!助けて~!」

「陽川さん!前!前ってば!」


 前方不注意。ペガスターは金平糖の竜巻に飲み込まれた。


 信太郎は口を閉じてさらに手で鼻の穴も閉じた。


(腹にさえ行き渡らなければ…きっと…)


 ドシンという大きな音がした。


「いや~!」


 野太い芽愛の声が聞こえてきたがきっと幻聴だ。信太郎は振り返らず、ペガスターを降りて竜巻を抜けた。




「お菓子の街がだんだんと出来上がって来てるぞ~!メノル王子もさぞお喜びになられる!」


「見つけた!今度こそ倒す!」


 走りながら変身し、そのままビスケットガイマンに切りかかった。


「ぎゃー!?痛い!お前たち行け!出番だ!俺を守れ!」

「お前正々堂々闘うのがモットーじゃねえのかよ!」

「正々堂々、卑怯に闘う!略して正々堂々闘う!それが俺のモットーだ!喰らえ!ビスケット光線!」

「意味わかんねえ!」


 避けたビスケット光線がベンチをお菓子に変える。セルナが攻撃しようとすると、またアルが邪魔をした。


「よし!俺はまた逃げる!」


「待て!邪魔だこいつら!おい!」


 仲間たちを呼ぼうにも心は繋がらない。また逃がすのかと諦め掛けたその時、変身が解除された。


「何が起こった!?」



 後ろから誰かの走る足音が近付いて来る。せっかく仲間が来てくれたのに、これじゃあ時間稼ぎも出来ない。




 そして駆けつけたその少年は、落ちていた剣を拾うとアルの群れを飛び越えていき、マテリアルをセットした。


(あいつは…誰だ!?)

「アクトベイト!」


 そして謎の少年は、目の前でアクトナイトセルナに変身してみせた。


「タァッ!」


 力強い掛け声。それは信太郎にいつか語りかけてきた幻聴と同じ物だった。

 剣を逆手で持つセルナは、信太郎よりも慣れた動きで攻撃していく。ビスケットガイマンは反撃するが、鈍いパンチなど簡単に避けられてしまった。


「…!アルが行ったぞ!」


 怪人のピンチを感じ、メルバドアルは信太郎からセルナに狙いを変える。そしてアルが背後まで来た時、セルナは回転切りを放った。

 刃よりも遠くまで届く斬撃は雑兵を一掃し、怪人に致命傷も与えた。


「アクトナイトセルナはあの子どもだけじゃないのか!ええい!誤算だった!」

「セルナスラッシュ!」


 そして一閃。繰り出された必殺の一撃を喰らった怪人は、真っ二つになった直後に爆発した。



 セルナの変身を解き、少年が信太郎の元に寄った。


「お前は…誰だ?」

「僕はシン。やっと会えたね、信太郎」


 シンという少年の手を借りて信太郎は立ち上がった。周りを見ると、菓子にされた物は元の姿に戻り、それを食べて肥満になった人々も元の状態になっていた。


「今日は簡単に片付いたけど、次からはきっとこう上手くいかない。特訓を怠らないでね」

「待て!お前は一体何なんだ!どうして変身できる!」


 剣とマテリアルを返すと、シンは走り出した。信太郎はそれを追ったが、角を曲がったところで見失ってしまった。


「なんだったんだあいつは…」


 敵ではないと思いたかった。信太郎は怪人を倒した事を電話で連絡した。シャオも元に戻ったそうだ。




 怪人は倒せた。しかし、事態の解決に時間が掛かったことに関しては、やはりと言うべきかマスコミから叩かれていた。


「あ~あ、撮られてるなぁ…」

「恋愛を持ち込むなって…いや知らないし。別に私たちアイドルでもないし」






「それっすよ!」


 アクトナイトサートゥーンに変身する少女、佐土原(さとはら)美保(みほ)が何かを思い付いたようで大きく叫んだ。


「アイドルっすよアイドル!」

「え…何、急に」

「私たちって世間から見て評判最悪じゃないすか。そのイメージアップのためにアイドルやりましょうよ!」


「なるほど、名案だな。却下」


 真っ先に反対したのが、アクトガーディアンの二地(ふたち)(ごう)である。色々理由はあるが、美保にそんなことをやって欲しくないというのが一番だろう。


「なんか面白そうだね~」

「動画投稿から始めようよ!」

「…ありかもしれねえ。人々の意志がアクトナイトに傾けば、デスタームも好き勝手出来なくなるだろ」


「は?」


「ほら先輩!賛成多数ですよ!武道館でライブするってなったらセンターで踊らせてあげるから、反対取り消してくれませんか?」

「…俺は踊らない」


 美保がここまでやりたがっては仕方がない。不服ではあるが、剛もそのアイドル活動とやらに協力することを決めた。


「まずチャンネル作って…いやその前にツイッター開設か…?」




「今日の怪人。今までと違ってた」


 他のメンバーは帰ったが、信太郎は残って特訓を続けていた。そもそも彼は現在、家に帰らず宇宙船の部屋を借りて暮らしている。以前までそうしていた美保は家での暮らしに戻り、剛は彼女の家で居候をしていた。


「なんていうか…よく喋るやつだった」

「そりゃ怪人は改造されたメルバド星人だしな…今回のやつの自我が強かっただけじゃねえか?」

「能力も奇妙な物だった。一見ふざけてるようで、下手したら大打撃を受けてた…メノルが言ってた通り、戦いが変わったんだ」


 おそらく次もまた、変わった能力の敵が出てくるのだろうと腹を括る。


「そんなにビビらなくても…きっと大丈夫だ。皆で力を合わせれば、勝てない敵はいない!前向きに行こうぜ!」

「力を合わせれば…か」


 立ち上がったばかりの信太郎が、仲間たちと力を合わせるにはまだ少し時間が必要かもしれない。

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