第100話 「それでそれで?」
シャオの奢りで焼き肉を食べた啓太と千夏。現地解散となった後、2人は人通りの少ない河川の道に沿って歩いていた。
「あああもっとホルモン食べたかった~!」
「有名人って大変なんだね…」
啓太はまだ満足しておらず、千夏もデザートを注文できなかった。
周りに気を付けながら啓太は歩く。というのも、正体を明かしてから数週間の間、少年たちの姿が何度も週刊誌に載せられたからだ。
さっきも焼肉屋で肉を奪い合っているところに、カメラを向けられた。
「…クスッ」
「どうしたの?」
「いや…アレ思い出しちゃって…」
様々な記事が世に出回っているが、その中で特に酷かったのは将矢と奏芽が夕方頃にラブホテルへチェックインした時だった。
周囲から公認のカップルではあるが、これは流石にとそれぞれの家庭で家族会議が行われ、同級生たちからもかなり弄られるハメになって大変だったという。
「なんだったっけ記事の名前?」
「正義のヒーローベッドでの大決戦!」
「そうそう!クソ映画のタイトルみたいでさぁ!あははは!」
「写真の2人の目にさぁ黒い線入ってんの!とっくに顔バレしてんのに!」
「名前もイニシャルでさ!何に配慮してるんだって!ははははは!」
啓太は今でも忘れられない。顔を真っ赤にして出版社に殴り込もうとしていた2人の光景を。
「あの時止めるの大変だったよね~」
「怒りを鎮めるのに一体どれだけ出費したことか…」
その後、シャオから呆れられつつ注意を受けていたのは言うまでもない。
「私たちもいつかするのかな。そういうこと」
それを聞いた啓太の笑いが止まった。芽愛の話し方が真剣な物になり、いきなり緊張しなければならない。
「デートも何回かしたけどさ…何も言ってこないし。やっぱりそういう関係にはなんないのかな?私たちって」
「それは違う!あの時は…なんていうか…」
いつか言わなければいけないと秘めていた想い。それを伝える時が突然やって来た。
「時期が時期だったし…それにほら、試験もあって勉強大変だったし…生き返ったばっかだったし…」
「それでそれで?」
「試験勉強に関しては本当、勉強手伝ってもらって助かりました。おかげで進級出来ます」
「…それでそれで?」
「会えなかった間に、他の人を好きになってるかもって…」
「へぇ、私ってそんな簡単に心変わりする女だって思われてたんだ…」
「ショック~」
「いや違う!ただやっぱり帰って来たばかりってのもあって!」
「帰って来たばかりって何?もう2ヶ月経ってるけど!いい加減にラブレターでも言葉でもいいから告白して来てよ!ずっと待ってるんだけど!」
「待ってないでそっちから来てよ!大体なんだよ!知らない内に昇士と剛とも仲良くなってさ!不安にならない方が無理あるでしょ!」
「そんなこと言ったら啓太こそ!異世界でハーレム作って冒険者してたんでしょ!?どうせ色んな女に一目惚れしたんだ!ハーレムセックスしたんだあああああ!?」
「うわあああ!?外でんな言葉叫ぶなああああああ!」
見苦しい論争が10分ほど続いた後、お互いの息を切らしてもう何も喋らなかった。
(溜まってた物が全部出たなぁ…)
(あぁ~…何言ってんだろ私ってば)
「僕は向こうの世界で誰にも手を出してない。本当に。嘘だったら腹切るから」
「それでそれで?」
「僕の気持ちは変わってない。死ぬ前からずっと千夏が好きだった」
「それでそれで?」
「えっ!?この後何言えば良いの…?」
しばらく考えた末、啓太が発した言葉はシンプルな物だった。
「付き合ってください」
「言えたじゃん…」
「それともあれかな、私が言わせたから言っただけかな?」
「悪いことしちゃったかな…無理矢理告白なんて…」
焦らす少女の肩が力強く握られる。啓太は返事はまだかまだかと目力で訴えた。
「痛い痛いごめんいたずらが過ぎた」
「それでそれで?」
「声低くしないで…」
「私もずっと好きだったよ。啓太…」
告白を終え、顔を赤くする赤く2人に夕陽が照らされた。
「やっっっと啓太が告白してくれたんです!」
「それでそれで?」
「もうやっとって感じで!嬉しくて嬉しくてもう我慢出来なくて!」
「だから腕を組んで堂々とホテルインしたと。なるほどな」
数日後、記念公園には笑顔で語る千夏と疲れている啓太の姿が。そして一冊の週刊誌を持ったシャオが鬼の形相をしていた。
「また撮られてるじゃねえか!気を付けろって言ったよな!啓太ぁ!気が抜けてんじゃねえのか?」
週刊誌で啓太と千夏の熱愛報道が取り上げられていた。軽く将矢たちのことに触れたりと、もう最悪の記事だ。
「はい…すいません」
「路上で始まった口論からの告白!夕陽をバックにしたナイスショットから見事ホテル入館まで撮られてやがる!お前らなぁ!?」
「文句あるなら恋愛禁止にでもしてくださいよ!この調子じゃ次は朝日と那岐ですよ!」
「漫画などで得たであろう恐ろしい知識を全てぶつけられて…僕は…僕は…!アクトベイトしてしまった!」
「啓太ぁ!黙ってろ!てかアクトナイトを汚すな!…こいつ、啓太が戻って来てから調子良くなってきてんな」
「いや啓太被害者面してるけど、あの後私がやめてって言っても聞かずに」「うるせえええええええ!お前ら!もう帰れ!頭冷やして来い!」
「あははは!」
「笑い事じゃないよ…てかもう将矢たちの事笑えないし」
「別に良いじゃん。私たち平和守ってるんだし。恋愛して何か悪いのって感じ」
「…千夏、強くなったね」
「うん。一度離れて…また出会えたから、かな」
啓太だけが強くなって帰って来たのではない。千夏もまた、啓太と出会えたことで少しだけ、強く成長していた。
別れがあったからこそ、今一緒にいる時間を大切に思うこともできるのだ。
「啓太…」
「なに、千夏?」
油断していた啓太の唇に、千夏の唇が重なった。