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心刃一体アクトナイト  作者: 仲居雅人
アクトナイト編
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第10話 ある日のシャオ

 教室がやけに賑やかで、信太郎はやかましく感じていた。


 来週の土曜日、世須賀市で毎年恒例のルノー祭りが行われる。海沿いの道路を封鎖して屋台が並び、最後には花火が上がるのだ。


 その日付が昨日、祭りのウェブサイトで発表された。生徒たちは予定を立て始めているのだ。



 祭りの日にもメルバド星人は攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

 しかし予定のない信太郎は祭りが中止になっても構わないと思っていた。



「…やっぱりヤバいよなぁ」


 祭りとは全く関係ないが再来週、校外学習が予定されている。そのためのグループを作らなければいけないのだが、信太郎は未だに孤立していた。


 他のアクトナイト四人のグループに入れてもらうことも出来る。だが流石に彼らのグループに入ろうとするほど、信太郎は空気の読めない男ではない。


(サボっても…いいかなぁ)



「あのー…大月君?」

 

「え?はい。えっと…」


 突然クラスメイトの女子から声を掛けられ、信太郎は声を裏返してまぬけな返事をした。さらにまぬけなことに、この女子の名前を信太郎は覚えていなかった。


「…何ですか?」


「急にごめんね。校外学習のグループで人が足りなくてね、まだ大月君と愛澤さん、グループに入ってないから私たちのところにどうかなって思って…」


「いいの?じゃあ…入れてもらってもいいですか?」


「本当?良かった~。それじゃあグループに招待するね。クラスグル入ってる?」


「あぁ入ってないから…」


 信太郎はスマホを取り出してメッセージアプリの連絡先を交換した。


 ここでやっと少女の名前が思い出せた。いや、今覚えたというのが正しいか。


陽川(ひかわ)芽愛(めい)…可愛らしい名前だな…)


 彼女の他に、朝日(あさひ)昇士(しょうじ)灯刀(ひなた)那岐(なぎ)の二人がいた。


「よろしく、朝日さん灯刀さん」


「昇士でいいよ。よろしく、信太郎」

「………」


 二人への挨拶を済ませた信太郎はトロワマテリアルに手を触れた。

 こうして定期的にアクトナイトと連絡を取り、怪人が出現していないか確かめるのだ。


「アクトナイト。怪人は?」


「今のところエナジーは感じられない…大丈夫か信太郎。辛かったらいつでも相談してくれ」


 この力で会話をする時には心を通わせているので、相手に感情が伝わってしまうのが厄介だった。助け舟を出してもらえないとグループに入れない自分に、信太郎は苛立っていた。


 信太郎はトロワマテリアルから手を離して、次の授業を受けた。




 信太郎たちが授業を受けている頃、シャオは宇宙船の中でアクトナイトの強化アイテムを考えていた。


「そういえばこんなの初めてだよな~あの人はマテリアル変えただけで強かったし」


 そう呟いて目をやった先には、二本のアクトソード。そして二つのマテリアルが収納されていた。


「こいつを使える地球人も見つけないといけないし…課題は山積みだ……ん?……んんんんん?」



 シャオは宇宙船の外、少し離れた場所からエナジーを感じた。しかしそれはメルバド星人の物でなく、邪悪な感じもしなかった。


(…ちょっくら出てみるか)


 そのままの格好では目立ってしまうので、シャオは変装して宇宙船の外へ出た。


「うお暑っ!どんな星でも温暖化はよくあるがこりゃあ並みじゃないな」


 シャオが地球の地上へ出るのはこれが初めてだった。日傘をさしてトゲトゲしい頭部がなるべく見られないようにして、宇宙人のエナジーを感じる方へと歩き出した。



 暑い中を歩いていたので、シャオは宇宙船を出て間もなく喉が渇き始めた。


「あっ…金持ってねえよ」


 この星の飲み物が身体に大丈夫なのは子ども達の差し入れで確認済みだが、彼は自販機で使える通貨を持っていない。


 そもそもこの星のこと自体あまりよく分かっていなかった。


「自販機の下ってたまに金が落ちてたりするんだよな~」


 そう言って自販機の下に腕を入れようと地面に這いつくばったが、太陽の光で焼かれたアスファルトはとてつもなく熱かった。


「あぢいいい!」


 熱さに耐えて腕を入れようと試みるが、今度は腕が大きくて自販機の下を漁ることができず、ただアスファルトで火傷を負っただけだった。


 宇宙船に戻ったら何か冷たい物を飲もう。今は水分補給を諦めて、宇宙人のエナジーを感じる場所へと近付いた。



 横断歩道を渡っていたところ、信号無視をした車がシャオを跳ねた。


「うっ!」


 跳ねられたシャオは数メートル転がったところで姿勢を取り戻し、真っ先に自分を跳ねた車に走った。


「この野郎!今みんなが渡ってただろうか!…ってええええ!」


 跳ねられたのはシャオだ。しかし車内はエアバッグが作動して運転手が気絶していた。


「こ、こういう時…おおおい!誰かああ!」



「おいなんだありゃ…」


「怪人が人を襲ってる!」


 車に跳ねられたシャオは日傘を手放し帽子が外れてしまったため、周りの人から人間ではないとバレていた。


 しかも世須賀の市民は頻繁に起こるアクトナイトと怪人の戦いの影響で怪人を警戒するようになっていた。


「あああもう!分かった!だったら誰でもいいからこの人頼むぞ!頼んだからな!」


 シャオは車のドアを外すと急いでその場から離れた。その後、車の運転手は周囲の人による懸命な蘇生措置によって意識が回復し、病院へと運ばれた。



「ったく面倒な目に遭ったな…それでエナジーは…こっちからだ!」


 エナジーを辿って古い神社へと続く長い階段を全力で駆け上がり、そこで停まっている宇宙船を発見した。


「お~い誰か。誰かいるのか?」


「………」


「心配すんな!俺もこの星の人間じゃない。言っとくけどエナジー感じてるからここに誰かいるって分かってるからな」


「本当…?」


 宇宙船のボディはアウトリガーで少し浮いてた。そのボディの下に潜っていた宇宙人は泣きそうになりながらその姿を見せた。


「アランバ星人か…ってアランバ星ってここからかなり遠いだろ!?」


「僕、ベベンって言います…これで旅をしていたんです。けどこの星で休憩しようとしたら変な怪人が襲ってきて…宇宙船が壊されちゃったんです!うわーん!」


 ベベンは泣き出した。彼の言う怪人とは恐らくメルバド星人の怪人のことだろう。



「俺はシャオ。宇宙船の修理、手伝うぜ」


「本当?ありがとう!」



 それからシャオはベベンの修理を手伝い始めた。宇宙船には大きな引っ掻き傷のようなものが残されていた。


「うわーかなり酷くやられてるな…」


 シャオは手慣れた様子で宇宙船の修理を行った。ベベンはシャオに頼まれた工具を渡したり、原動力となる水をバケツに汲んで運んで来た。



「だいぶ進んだな。あとは外部の修復をするだけだ」

「お腹空いたぁー…お弁当買ってくるね」


 ベベンはそう言うと姿を別の物に見せる装置を使って地球人に成り済ました。それを見ていたシャオは「その手があったか」と関心していた。



 彼が戻ってくるまでの間、シャオは宇宙船をじっくりと見ていた。


「一機の宇宙船…その性能を高めるために外部に宇宙船をバラして装着している。追加装備…」


 その一言を呟いた時、彼の頭に強化アイテムのアイデアが思い浮かんだ。


「アクトソードの性能を高める…それだ!アクトナイトをパワーアップさせるには!はっ!」


 突然、背後から邪悪なエナジーを感知して振り返った。作業や構想に夢中で接近を許してしまったのだ。


「メルバド星人か!」


 爪の大きな怪人がシャオを睨んでいた。ベベンを襲い宇宙船を破壊したのはこいつだ。


「誰かいるか!?怪人が現れた!」


 シャオは仲間たちのマテリアルへ呼び掛けた。ちょうど今は昼休みで、反応出来た将矢と啓太が来ることになった。



「後は来るまで時間稼ぎ…」


「殺ス…殺ス…」


 シャオの手元にはアクトソードはない。そもそも彼は変身が出来ないので、この星で信太郎たちの様な少年と出会えるのを待っていたのだ。


 そんな普通の旅慣れただけの宇宙人では改造された怪人になど勝てるわけがない。




「はぁ…あのなあ、こういう時に備えて俺が何も用意してないって思うのか?」



「行け!アニマテリアル!」


 シャオが大声で叫ぶと物陰から小さな戦士たちが奇襲攻撃を仕掛けた。


 ファルコン、ワイルドボア、モンキーの三機はトロワマテリアルと同じく、シャオが造った人工マテリアルだ。


「そうだそこだ!頑張れ!」


 アニマテリアルはマテリアルモードとアニマルモードの二つの姿を持っており、アニマルモードではこうして戦うことが出来るのだ。


「キーッ!キーッ!」

「ヤカマシイ!」


 怪人の脛を殴っていたモンキーが蹴り飛ばされた。これぐらいの衝撃で壊れることはないが、シャオはダイブしてモンキーをキャッチした。


「セーフ…大丈夫か?」


 ファルコンは一回一回の攻撃の為に高い場所から急降下している。ワイルドボアは突進を繰り返し、怪人の顔に投げつけられたモンキーは顔を蹴った。


 もう少し改良しなければと思うシャオだが、近付いてくるエナジーを感じ三機を呼び戻した。



 駆けつけたアクトナイトフレイス、ジュピテルが怪人を奇襲した。だが怪人はその大きな爪で二つの刃を受け止めると、二人を遠くへと投げ飛ばした。


「おっと!」


 フレイスは体操選手のようにグルグルと回って着地、ジュピテルは植物でクッションを作りそこへ落下した。


「気を付けろ二人とも!こいつに能力はないが純粋に強い!」

「こっちは二人だ!負けねえよ!」

「油断しないで将矢!」


 フレイスの刃に炎が宿る。再び攻撃を仕掛けたフレイスは振って止められるならと突きを繰り出した。


 怪人は突かれる刃を爪で押し払い反撃する。今度はフレイスがそれを剣で弾き、再び胸への突きを狙った。


 それをしばらく繰り返していたが、先に集中力の切れたフレイスが胸に一撃を受けてしまった。


「将矢!大丈夫か!?」

「こういうワンパターンなのは苦手なんだよ!」



 だか背後から植物を伸ばして足音を立てずに接近していたジュピテルの攻撃には、流石の怪人も対応できずに直撃を受けてしまった。


「やったよ!」


「将矢!せっかくだからこいつ使え!」


 フレイスはシャオの声を聞いて振り返ると何かを受け取った。


「ちっせえ猿!」

「そのモンキーアニマテリアルをソードにセットするんだ!」


 手のひらでモンキーがマテリアルへと変形した。


 フレイスはモンキーのアニマテリアルへと付け替え、いつもスラッシュを繰り出す時のようにそれを叩いた。



「口上は…そうだな…」

「早くしてくださいよ!」


「アクロバティックに動くぜモンキー!フレイス!モンキースラッシュ!」


「よし!いくぜ!」

「猿ってことは…将矢!」


 ジュピテルが地面に剣を突き立てると辺りの植物が成長して一帯がジャングルのようになった。猿が生息するジャングルでは、モンキーの力を最大限まで発揮することが出来る。


「サンキュー!」


 フレイスは猿のように木を飛び回り、やがて目に捉えるのが難しい程の動きをするようになった。


 背後から一撃、横からまた一撃と、怪人は四方八方から攻撃を続けた。


「セリャアァァ!」


 そして最後に激しい回転切りを喰らって、怪人の身体は耐えられずに活動を停止。打ち上げられると空中で爆散した。




「それにしてもアクトナイトが外に出てるって珍しくない?」


「色々訳ありでな…」


 将矢の隣で啓太は可愛らしいアニマテリアル達と遊んでいた。


「へへへ…あの、この子達は?」


「それはアニマテリアル。街の警備とお前らのサポートを目的とした小さな戦士だ」


「へ~可愛いですね~…あ!帰らないと!」



 二人は午後の授業があるのでエアボードに乗って急いで学校へと戻った。


 アニマテリアル達もこの場に仕事がないと認識すると、街の警備パトロールへと戻っていった。




 それから空がオレンジ色になるまで宇宙船の修理活動は続いた。


「よし!修理終わり!」

「ありがとう!本当に助かったよ!」


 ベベンはコックピットに入って動作確認を行い、この宇宙船がこの星から飛び立てるのを確認した。


「こちらこそ!おかげでいいアイデアが思い浮かんだぜ」


「君はこの星に住んでるの?それともヒッチハイカー?良かったら送ってくよ?」


「いや、俺はこの星でやることがある。まあ思ってるほど宇宙は広くないんだ。またいつか会おうぜ」



 シャオはこの空から宇宙船が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。


「さあ…造るか!アクトブレイドを!」



 アクトナイトの強化アイテムを頭の中で練っていたシャオは大急ぎで宇宙船に戻り、新アイテム、その名もアクトブレイドを造り始めた。

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