第1話 アクトベイト!
ある時、メルバド星という惑星から来た知的生命体メルバド星人が、地球を侵略しに大きな宇宙船に乗ってやって来た。
当時の地球にはメルバド星人に対抗できる程の力はなかった。
しかしメルバド星人は地球侵略に失敗した。宇宙からやって来た謎の戦士、アクトナイトによって地球は守られたのだった。
それから100年後…
メルバド星人が地球に初めて降り立ち、そしてアクトナイトと激しい戦いを繰り広げた場所でもある日本の世須賀市。
この街の人間に限ったことではないが、今の地球の平和はアクトナイトが守ったものだということを忘れて地球人達は暮らしていた。つまり、メルバド星人のようなものに対抗する術は未だに存在しない。
小学校の頃に授業で習いはするものの、そこまで大切なことではないとテストの後にはほとんどの人間が忘れているのだ。
一応、アクトナイトを讃えた等身大の銅像が建てられたアクトナイト記念公園が住宅街の片隅にあるのだが、そこには幽霊が出るという噂があり全く人が訪れなかった。
「今日こそ誰か来てくれるはずだ…」
確かにそこには何がいる。しかしそれは幽霊などではなかった。
ある日の夜、珍しいことに5人の高校生が公園にやって来た。
「幽霊なんているわけ…」
彼らの目的はこの公園にある噂の真偽を確かめることだった。
「全然手入れされてない…」
鈴木啓太は公園の見渡して、まず怖いよりも先に汚いと思った。
「とりあえずビデオ撮ろうぜ。何か映るかもしれないし」
こんな暗い時間帯にここに来ることを提案した火野将矢は胸ポケットからスマホを取り出して動画を撮り始めた。
スマホを持ってグルッと公園内を歩き回ったがが、特に面白いものは映らなかった。
「あっ自販機あるけど…クモの巣ヤバ」
財布を取り出そうとしてポケットに手を入れたが結局出さなかった少女。彼女の名は清水奏芽。将矢に連れられて嫌々公園にやって来た。
「誰も来てないんだしそりゃこうなってるよね…」
そして奏芽の友達である金石千夏は、将矢に嫌々連れて来られた奏芽によって無理矢理連れて来られた最大の被害者だった。
そもそも2人はここに来るまでに飲み物を買っていたのでここで買う必要はなかった。
そしてあと1人。アクトナイトの銅像前にあるベンチで疲れた様子の少年がいた。
「バイト終わって疲れてるのに………月が綺麗だな」
「疲れてるところ失礼するぞ。俺の声が聞こえるか?」
「失礼って思うならほっといて………え?」
知らない声が聞こえた。大月信太郎は他の4人は離れた場所にいることを確認して、辺りをキョロキョロと見渡した。
誰かが話しかけてきたのだ。幽霊が出てくると噂の公園でこんな恐怖を感じることはない。
「話しかけられたんだ!銅像の側に座ってたらさ!」
信太郎は仲間達のそばに逃げるように走っていくと、早口で今起こった出来事を話した。
「んな馬鹿な。幻聴だべ」
幽霊探しを提案した将矢がそれを言ってはおしまいだと内心イラッとした信太郎。だがそんなことよりも早く帰りたかった。
将矢は他の3人を集めてそして仲良く銅像前のベンチに座った。
「…なんか壊れそうじゃない?」
「高校生5人が仲良くベンチに座ってるとかどういう状況…てか落ちそうなんだけど」
「みんな仲良さそうで微笑ましいな」
千夏が言った通り5人の体重に耐えられなかったベンチは壊れてしまった。
しかしそれよりも、信太郎はまた声が聞こえたことに怯えきっていた。
「また声したって!仲良さそうって!」
「銅像だ!この銅像喋ってるよ!」
4人も謎の声を聞いていた。声は台座に立っている銅像からだった。
「あー…俺の言葉理解出来る?一応ユニバーサルの発音だから伝わると思うんだけど」
「大月君が最初に声を聞いたから会話よろしくプリーズ」
奏芽はそう言うとスマホを取り出して録画を開始した。
「一応聞こえてますよ…えっと…あなたは幽霊ですか?」
「違う。俺はアクトナイトだ」
アクトナイト。銅像の幽霊はかつて地球を救ったヒーローを名乗った。
「え…アクトナイトは…死んだんですか?」
「だから俺は幽霊じゃない。訳あって今の俺は姿が見せられないんだ。それよりも、メルバド星人が再びこの地球を侵略しようと企んでいる!」
100年前に地球を襲ったという宇宙人が再びこの星を狙っている。
アクトナイトのことを忘れかけている彼ら地球人がいきなりその話を信じられるわけがなかった。
「ドッキリでしょこれテレビ局とかの」
「カメラ探せカメラ!」
「いや本当なんだって…おい!」
将矢達はカメラを探しに公園内に散らばってしまった。
しかし残った信太郎はそのまま会話を続けた。アクトナイトを名乗る何者かの真剣な喋り方を聞いていて、根拠はないが本当だと思えたのだ。
「その話…マジだとしてどうして俺達に?」
「俺の力をお前達に託す。俺の代わりにお前達が戦ってこの星を守るんだ」
カタンと音がした。そして足元に5つずつ、剣と宝石が落ちているのに気付いた。
「それはアクトソードとマテリアルだ。使い方は簡単でソードのハンドガードの窪みにマテリアルを押し込むだけ」
「え、ちょっと待って急にこんなの渡されても…」
「するとお前はアクトナイトに変身。つまりアクトベイト出来るんだ」
困惑しながらも剣と宝石を拾った時だった。遠くの方で大きな爆発音が鳴り響いた。
「な、なんだ?」
「邪悪なエナジーを感じる!遂にメルバド星人のやつらが仕掛けて来たんだ!」
もしもメルバド星人が本当に来て街を襲っていたら。そう思うといても立ってもいられず、信太郎は音の聞こえた場所まで走り出した。
「どこ行くんだよ信太郎!」
「なんか凄く脚速くない?」
アクトソードの手にしたことによって信太郎の運動能力が普段の何倍にもパワーアップしていた。今の彼は50メートルを4秒で駆け抜けている。
「聞こえるか信太郎?俺はソードを通してお前に話しかけている。聞こえてるなら返事を」
「聞こえてるから!ちょっと黙ってて!」
信太郎は遠くに見える火の手に近付こうと全力で走った。。
銅像から謎の声がして剣と宝石を手にしたら今度は爆発が起こった。そして今自分は物凄い速さで走り続けている。
ここまで来ると信太郎はアクトナイトの言うことが信じられるようになってきた。
信太郎は街の外へと逃げる人々を掻き分けて騒ぎのあった中心部へと向かった。
そこでは何か得体の知れないものが暴れまわっていた。駆けつけた警官が車両の陰に身を隠しながら銃撃戦を行っていたが、銃弾を受けているにも関わらずそいつは平気で暴れまわっていた。
「信太郎。あいつはメルバド星人だ!やはり侵略計画を再始動させていたか!」
「メルバド星人…あれが…!」
正確にはメルバド星の人間が高度な技術力によって改造を受けたメルバド怪人である。その名も偵察怪人ミルトマス。偵察目的の為に造られた怪人だがそれでも恐ろしい戦闘力を持っていた。
「頼む信太郎。変身して戦ってくれ!戦えるのはお前しかいないんだ!」
「…分かった!」
もう選択の余地はない。信太郎はアクトソードにマテリアルをセットした。
「………何も起こらないんですけど!?」
「言い忘れてたことがある。マテリアルをセットした後、アクトベイトと叫んでマテリアルを押すんだ」
「さ、叫ぶ………アクトベイト!」
大きな声で叫び、マテリアルを強く叩くと刃が眩しい程に輝き出した。そして信太郎は光に飲み込まれた。
「理を超える神秘の力!アクトナイトセルナ!」
アクトナイトの口上と共に信太郎の全身を刃から溢れた光が包んでいった。
気が付くと信太郎は白色の鎧を纏ってミルトマスの前に立っていた。
「何ボーっと突っ立ってる!戦うんだ!」
「は、はい!」
動揺しながらも白色の戦士アクトナイトセルナに変身した信太郎は、怪人ミルトマスへと駆け出した。
信太郎は喧嘩の心得すらないが心配ない。アクトソードを持つ者はアクトナイトと心が繋がり、彼の戦闘技術を借りることが出来るのだ。なので信太郎はどう立ち回ればいいのかを何となくだが理解していた。
ミルトマスは走ってくるセルナを迎撃しようと近くに停まっていた車を軽々と持ち上げた。それを見ても臆せずセルナは走り続けた。
それからミルトマスが投げた車が飛んできても、セルナは焦ることなく冷静にソードで真っ二つに両断した。
「ギギギ!アクトナイト!」
「凄い、こんなことが出来るなんて!」
セルナはミルトマスの長い脚で繰り出された蹴りをジャンプで避けると、頭部目掛けて剣を振り降ろした。
しかしミルトマスは剣を生体手甲で防御して、反撃のパンチを喰らわせてセルナを吹っ飛ばした。
「うおあああ!」
セルナが叩きつけられた店のシャッターが思いっ切り歪んだ。常人ならこの時点で既に重傷だが、アクトの鎧を纏っている信太郎は立ち上がることが出来た。
「いっってぇ…」
「頑張れ信太郎!」
自分の名前を呼ぶアクトナイトの心が伝わってきた。言われなくても信太郎は戦いを続けるつもりで、剣を持ち直して再び怪人へと突進した。
セルナは剣を何度も振って攻撃した。だがミルトマスには全て回避されてしまい一撃も与えられない内にバテてしまった。
「はぁ…はぁ…」
「まだ戦いは終わってないぞ!何疲れてるんだ!」
ミルトマスは太い両手を組み、街のタイルにヒビが走る程の威力でセルナを叩き伏せた。強烈なダブルスレッジハンマーが命中した。
「信太郎!」
いくら頑丈な鎧を装備していても痛いものは痛かった。あまりのダメージに信太郎は悶えることも出来ずにその場に倒れていた。
「アクトナイトヲ排除スレバ俺ハ英雄ダ!」
ミルトマスは腕に装備している超強力なレーザートンファーを起動させ、セルナの首を切断しようと腕を伸ばした。
もうダメだ。信太郎が諦めかけたその時だった。
「信太郎!」
アクトナイトのように誰かが心に叫んできた。
「今どこにいるの!?」
「伝わってくる…大月君が今凄く頑張ってるってことが!」
公園にいるはずの4人の声だった。
彼らもアクトナイトが落としたアクトソードを手にしたことで心が繋がっているのだ。
「諦めないで…頑張って!」
4人から送られてきたのは言葉だけではなかった。
「立ち上がれ信太郎!」
信太郎のアクトソードにはみんなの心の力が集まり、そしてその力が彼に送られていた。
「うおおおお!」
セルナは勢いよく立ち上がり振り下ろされるトンファーもろとも腕を切り落とした。
「ギャアァァ!」
「みんなの力が…俺に届いてる!」
セルナに変身している信太郎がパワーアップしていた。反撃してくるミルトマスの蹴りを腕で止めると、今度はセルナが相手を蹴り飛ばした。
「まだだ!」
キックの勢いで後方に飛んでいくミルトマスに追い付いたセルナは追撃を仕掛けて更に剣を振るった。
「ゴアアア!」
そしてミルトマスはここに来るまでに乗ってきた自動車サイズの小型宇宙船に衝突して止まった。
「信太郎!マテリアルをもう一度押せ!必殺スラッシュだ!」
「分かった!」
言われた通りにマテリアルを再び叩くと剣の刃が目映く光り出した。ただ光っている。それだけなのに、信太郎はそこから物凄いパワーを感じていた。
「闇世を照らす輝きの一撃!セルナスラッシュ!」
「セルナ!スラッシュ!」
セルナはミルトマスの目の前に一瞬で飛び込み、アクトソードを下から上へと力強く振り上げた。
「ギャアァ…アァ……!」
一刀両断。真っ二つに斬られたミルトマスはノイズの混じった弱々しい断末魔の声の後に爆発した。
戦いが終わるとその場に街の人々が集まってきた。
信太郎は面倒なことになる前に現場を離れて記念公園に戻っていた。
「今日は……凄く疲れたな」
「信太郎大丈夫?」
「飲み物買っておくね。何がいい?」
剣から啓太達の声が聞こえてくる。正直言うと今は静かにして欲しかったが、雰囲気が悪くなるようなことを口には出来なかった。
「信太郎…よくやったぜ。けど戦いはこれからだ。きっとあいつはただの偵察だ。これからはもっと強いやつがやって来るだろう」
「アクトナイト。これからも信太郎は戦わないといけないのか?」
「そうだな…だが心配はいらん。お前達にも使えるマテリアルがある。それで一緒に戦うんだ」
「え…私達も戦わないといけないの?」
「僕達来月試験なんだけど…」
「頼む。地球の平和のために戦ってくれ」
「そろそろ帰らないと…お母さんに怒られるんで帰っていいですか?」
自分抜きで勝手に話が進んでいく。信太郎は頑張って歩きながら、このままだと道端で倒れるんじゃないだろうかと思いながらも公園を目指した。