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失態

「あれ、何してる?」


 大きな虫型の魔物、ホワイトワームを抱えたハイドが戻って来た。

 スルーアの雛たちは大喜びでホワイトワームに食いついた。


「ジークが孵化したばかりの雛と追いかけっこして遊んだ末、捕まって甘えられてるだけだね」

「そう。なら、いいか」


 ハイドはエサに食いつく雛の頭を撫でた。


「よくないよぉ! 助けてよ、し、死ぬ! 重い! ぐるじい」


 ジークは救いを求め、ハイドに手を伸ばしていた。

 雛といえど、あの大きさだ。重いのは間違いないだろう。


「冗談。わかった、助ける」


 ハイドはジークの上に陣取る雛を見つめた。雛も何故ジッと見つめられているのか不思議そうにハイドの瞳をジーっと見つめている。


「ピィ!」


 雛は鳴き声を上げるとジークの上から降り、喜んでホワイトワームの方へ駆けて行った。


「な、なんで?」


 今までジークの上から全く動こうとしなかった雛の突然の心変わりにジークは困惑していた。


「ハイドの能力の支配の1種だよ。けど今のは完全に支配してるわけじゃなくて、魔物の欲を刺激することで自発的に移動させただけなんだけど。完全支配では、魔物の意識を沈ませてハイドの思うままに行動させることができるんだ」

「や、やっぱりハイドさん、恐ろしい魔人」


 ジークは今にも失神してしまいそうな状態になっている。

 敵ならその反応も頷けるけれど、何故味方に対してここまで怯えられるのだろう。

 シアは過去の自分を棚に上げ、そう思った。

 3匹の雛は元気いっぱいホワイトワームを食べ続けている。残りの卵も孵るのか様子を窺ってみたけれど、今のところ孵る気配はしない。


「ハイド、残りの卵はどうするの?」

「この状態なら、このまま収納、大丈夫。孵化、しばらくしない」


 そう言って卵に手を伸ばしかけたハイドの動きが止まった。


「どうしたの?」

「残念なお知らせ。スルーアの魔核、持ってかれた、かも」

「えぇ⁉⁉」

「今まで、魔核と体、繋がってたから、だいたいの場所、わかってた。けど今、突然、わからなくなった」

「……嘘でしょ?」

「ほんと」


 実はハイドは対峙した魔物の魔核から発せられる魔力を一定時間探知できる能力を発現させていたりする。本人曰く、支配と統率の能力を極めた故の能力ということだ。

 シアはこの力を使ってこれからスルーアから魔核を回収する予定だった。それなのに先を越されるとは。

 やはりすぐに回収に向かうべきだった。

 いや、もしかしたら今からならまだ間に合うかもしれない。相手が魔核を換金、もしくは依頼主に提出していない今なら買い取れる。


「ハイド! 今すぐスルーアが落ちたところに連れて行って」

「いいけど、間に合う?」

「わからないけど、何もしないよりマシ!」

「わかった」


 ハイドは卵と雛をホワイトワームごと、宙に作り出した亀裂の先にある異空間へと放り込んだ。

 そしてシアとジークを両脇に抱えると、断崖絶壁に向かって走り出し、飛び降りた。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ‼」

「ジーク、うるさい。落とす」

「す、すみませぇぇぇぇん‼」


 森に泣き叫ぶジークの声は遠くまでこだました。

 シアとしてはできれば自分がハイドに抱えられて飛んでいる姿を他人には見られたくはなかった。だから本当は、飛行でこうして移動することは避けたいところ。

 けれど計画上、スルーアの魔核は持ち去られるというような事態は避けなければならないため、背に腹は代えられなかった。

 今はこの状況を見る人間がこの付近にいないことを祈るしかない。







「やっとみつけた!」


 ハイドがスルーアの墜落した正確な位置を認識できなくなってしまっていたため、到着するのにかなり時間を要してしまった。

 シアは急いでスルーアの体を調べた。すると胸に大きく切り裂いた跡がある。

 シアは迷いなくそこから手を差し込んで中を探り始めた。


「シアちゃん⁉ なっ何してるの⁉」

「見たらわかるでしょ。魔核が本当に無いのか確認してるだけ……やっぱり無い。持ってかれてる」


 魔核どころか高値で取引される風切り羽も持ち去られた後だ。


「はぁ……やられた……」

「どうするの? これじゃあ汚名挽回できないんじゃないの?」

「名誉挽回ね。汚名を挽回してどうすんの。まぁ、こうなったら諦めて次のクエストに賭けるしかないかな」


 ここに来る途中に魔核を持ち去ったかもしれない人の姿は見かけなかった。だいぶ時間も経ってしまっているし、今からこの広い森の中を捜索範囲も絞らず探すとなると、手遅れだろう。


「追いかけて取り返さなくてもいいの?」


 ジークは怒りを抑えているのか、握りしめた手が震えている。

 悔しいと思えるのはいい進歩だ。

 けれど、その悔しさを間違った方に向けさせるわけにはいかない。感情のまま動けばろくな結果は訪れない。その先には破滅しかないのだ。


「いい、ジーク。冒険者同士の戦いはご法度。とくに戦利品に関する戦いはね。私たちが倒したっていう証拠がない以上どうしようもないの。持って行ったのが賊って言うなら話は別なんだけど、この胸の切り口は質のいい刃物で手際よく切られてる。おそらく冒険者で間違いないと思う」

「そんな……で、でもばぁちゃんに言えば何とか……」

「ならないよ。言ったでしょ、私たちが倒したっていう証拠がないって。討伐に向かったことは確かに証明できるよ? けど、魔核を持ち去った冒険者が、私たちが倒す前に倒しましたーって言ったらそっちが真実になる。そういうものなの」


 とくにキャロンジアでは間違いなくそうだ。逆があっても、こちらの申し立てが通ることは絶対にないだろう。


「いい、ジーク。今回の事は運が悪かったと思って諦めよう。今は絶対にシルバーホーンに盾突いちゃダメ。こんなことで今、目を付けられるわけにはいかないんだから」

「わ、わかった」


 ジークはしぶしぶ頷いてくれた。


「あとね、シアちゃん」

「なに?」

「あの、シルバーホーンじゃなくて、ゴールドホーンだよ」

「……」


 シアは素で間違えた。

 自分も変なことでゴールドホーンに目を付けられないように気をつけよう。シアは心の内でそう固く誓った。

 お読みいただきありがとうございます。

 シアは気がついていませんが、実はジークの方が3つ年上です。

 次回更新はたぶん近々できると思います。

 でわ、また次回!

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