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ギルド事情

 その日のうちに、シアは裏事情というのがなんなのかの一角を知ることとなった。


「嘘でしょ……」


 今立っているのはとあるギルドの前。シアは茫然としていた。

 向かったギルドがことごとく機能を止めている状態だったからだ。どこも冒険者の登録が無い。

 どうやらクエストが回ってこないため、みんな例のギルドへと移籍してしまったようだ。


「つまり、他のギルドに移らなかったわけじゃなくて、移れなかったのか」


 この街のギルドがこんな有様ならば納得だ。

 そしてあの感じの悪い受付嬢が厭味ったらしく笑っていた理由も今ならわかる。


「あの女、他のギルド行ったってろくな仕事が無いのわかってて笑ってたってことだよね」


 シアの怒りのボルテージはますます上り、握りしめる手に力がこもる。けれどその手はすぐに解け、考え込む素振りをした。


「でも、他の都市や街のギルドに移ろうと思えば……ああ、そうだった。そうだよね、街を行き来できるほどの実力があるなら、報酬から紹介料で4割取られる、なぁんてことにはなってないか」


 他の街のギルドへ移ろうと思っても、実力が乏しい者だけでは困難を極める。

 今のこの大陸にあるそれぞれの街は、魔物の統べる世界に点在していると言っても過言ではなく、街同士の距離は遠い。

 しかも魔の勢力は、人の集まる地域から離れれば離れるほど増していく。街と街の中間地点はその地域の中で最も危険な地帯だ。シアも危ない目にあったことは数知れない。

 もしあのギルドで一般者と評価された冒険者が他の街のギルドへの移籍を考えるのなら、上位者と評される冒険者に同行してもらわなければ他の街のギルドへのほぼ不可能。

 しかし、甘い蜜をすする上位者がそれを許すわけはない。

 そんな感じで今のこの有様になってしまったのだろう。

 次に行くギルドが閉まっていたら、すべてのギルドがオルギス区画にあるあのギルドに食いつぶされたという事だ。もうどうしようもない。


「この街での滞在は諦めて次の街に行こうかなぁ……せっかく久々にゆっくりできると思ったけど……」


 次の街がこの街ほど栄えているとは思えず、シアは溜め息をこぼした。





 最後の望みのギルドは、周囲の賑やかな雰囲気に浮いたようなたたずまいをしていた。

 第一印象としてはこじんまりしていて、綺麗とは言い難い。廃墟と言われればそうかもしれないと納得してしまいそうな外装だ。

 綺麗にしているかどうかという問題もあるのだろうが、いつ建てられんだと言いたくなるくらい古くボロボロ。

 あまりの古ぼけた姿に一瞬ここもダメかと思いながら中の様子を窺った。すると予想に反し、このギルドは未だにどうにか機能している様子だった。

 クエスト板にはわずかにだがクエストが張り付けられている。


「こんにちわぁ」


 恐る恐る足を踏み入れると、カウンターからひょっこり小さい布を纏った塊が現れた。


「いらっしゃい。何か御用かい?」


 一瞬、布から発せられた声に何事かと思った。

 けれど、よくよく見てみると、どうやらそれはかなり小柄なおばあさんらしいという事がわかった。もはや人間なのかと疑いたくなるサイズだが、おそらくこのギルドのマスターだろう。


「無所属でクエストを紹介してほしいんですけど」

「こちらとしてはかまわないけど、クエストはあの有様だよ」


 クエスト板に近づいてよく見ると、報酬のかなり低い薬草集めや落し物の捜索といった依頼がほとんだ。

 どうやったらこんな状況になるのか、シアは改めて不思議に思った。


「さっきオルギス区画のギルドに行ってきたんですけど、クエスト板に貼られていたクエストの数はこんなものじゃなかったです。何が起きてるんですか?」

「……クエストの斡旋さ。どういう手を使ってるのかはわからないけど、大半のクエストがまずあのギルドに集まる。そしてしばらくして残った低ランクとあのギルドの冒険者では到底手におえないクエストが他のギルドへ回ってくるのさ」

「なにそれ……」


 この街のギルドのシステムは根っこから腐っていることが発覚し、シアは唖然とした。


「お前さんもありえない額の紹介料吹っ掛けられたんだろう」

「はい。何でみんなあんなところに居続けるんだろうと思ったんですけど、そういう事態になってたんですね」

「貰える報酬が少なかろうと、あのギルドで稼ぐのが1番収入を得られるからね。おかげで他のギルドからは冒険者がいなくなってしまって、ご覧の有様さ。少し前まではそれなりに冒険者の出入りはあったんだが……」


 かつてそれなりに栄えていたであろう建物内にはマスターとシア以外の人間はいない。

 人影がなくなったことで、普通なら姿を見せないような生き物がちらほらと姿を見せている。中には見たくもない形をしたヤツもいる。


「こちらももう誰もいないんですか?」

「いや。1人残ってるんだよ。薬草探しとかそういったクエストしかできない子がね。そろそろ戻ってくると思うよ」


 マスターらしい老婆がそう言うとほぼ同時、外から慌ただしい足音が聞こえてきた。


「ばぁちゃん! 薬草取って来たよ!」

「ほらね」


 ギルドに駆け込んできたのは気の弱そうな青年だった。手には大量の薬草と思われる草が握られている。

 よほど苦戦したのか肌や防具、衣服が泥まみれだ。

 彼はシアと目が合うと慌ててギルドの外に掛け出た。


「だ、だだだだ誰ですかこの人!」


 激しく震えながら、壁から顔置覗かせてシアの事を見ている。

 まるで人を警戒している子猫のようだ。


「か、可愛い……」

「ふえっ⁉」


 シアの発言に青年は驚き、激しく戸惑ってい始めた。

 初対面の青年に向かって可愛いはないかと気がついたシアは誤魔化し笑いを浮かべた。


「ごめんごめん。えっと、私はシア・フローリア。渡りの冒険者。ちなみに好きなことは食べること。16歳のうら若き乙女です! よろしくね!」

「????」

「ねぇ、あなたのお名前は?」

「名前? あの、その、えっと……」


 シアが興味津々といった様子で近づくと、ノリについていけないようで青年の戸惑いは激しさを増した。

 なぜこんな子が冒険者をやっているのかが不思議だった。もっと向いた職があるだろうに。

 それにしても可愛い反応だ。


「ジークは気が弱い子だからその辺にしてやっておくれ」

「すみません。場を和ませようとしたんですけど、全部逆効果だったみたいですね」

「ジークこっちにおいで」

「は、はい」


 ジークはシアを避け、慌ててギルドマスターの傍まで飛んでいった。そのまま滑り込むように、近くにある机の陰に隠れてしまった。


「ほら、ジーク。シアさんに自己紹介しな」


 もはやギルドマスターと冒険者というより、おばあちゃんと孫にしか見えない。

 ジークは机の陰から出てくると、恥ずかしそうな小さな声で自己紹介を始めた。


「僕はジーク・カネティクト。えっと、好きなことは縫物の、その……」

「無理して真似などせんでいいから」

「す、すみません、すみません!」


 彼が関わると大抵のことがコントになってしまうようだ。


「あ、あはは。よろしくね」


 シアは苦笑いを浮かべた。


「で、話が逸れてしまったけど、現状うちのギルドはこの有様だ。割に合わんでも向こうに行った方が稼げると思うよ」


 シアはクエスト板を見た。ほとんどが捜索系の簡単なクエスト。シアの実力には不釣り合いな物ばかりだ。

 けれどその中に紛れ込んでいる2つの高ランククエストに目を付けた。


「マスターさん。これ、受けさせてもらってもいいかな?」

 お読みいただきありがとうございます。

 次回更新も近々の予定です

 でわ、また次回!

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