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渡りの冒険者・シア

 時は遡り――


 かつては生い茂る木々が一面を埋めていたと思われる場所で、その少女は十数体の魔物の群れと対峙していた。

 この魔物はウイングヘッドウルフ。ウルフと命名されている通り見た目がオオカミにかなり似ていて、俊敏で賢く、群れの連携がとても厄介な魔物だ。

 かなり高いレベルの冒険者がパーティを組んで討伐するような魔物の群で、本来この辺りでは見かけることのない強力な魔物の群れだ。

 どう考えても少女が1人でこの場を切り抜けられるわけがない。

 少なくとも彼女が普通の冒険者の少女ならばそうだった。

 だが少女はその魔物の動きについていっている。それどころが群れを圧倒しているようにも見える。

 後ろからの奇襲もまるで見えていたかのように鮮やかにかわし、次々と襲い掛かる魔物を2本の剣で流れるように仕留めていく。

 ほんの数分で少女を取り囲んでいた魔物の群れは討伐され、辺りは赤く染められた。


「ふう。なんとかなった。これで全部だよね」


 少女は額の汗を手で拭いながら、頭を右へ左へと動かした。

 一安心と息をこぼした時、後方、しかも近距離から声が聞こえた。


「まだいる」

「えっ⁉」


 声と同時に、先ほどの魔物の断末魔のような鳴き声も聞こえた。

 勢いよく振り返ると、先ほどまでそこにはなかったはずの血まみれの魔物の亡骸が転がっていた。少女のほかには誰もいない。


「勝てる相手だからって、油断、ダメ。ちゃんと確認」


 今度は声と同時に、何かが頭に触れたような感覚もあった。どうも頭を撫でられたようだ。

 周り全体を見渡しても、この場にいるのは少女ただ1人。

 今度こそ本当に終わったらしい。


「はぁ……また助けられちゃったか。ダメだな、私」


 どうしても最後の詰めが甘い。

 わかってはいてもなかなか直せないのだからどうしようもない。

 少女は気持ちを切り替えようと、自身の両頬をパンと叩いた。


「よし! 気を取り直して次の街に行こう!」


 近くの木の陰に隠していた荷物から地図を出し、広げた。


「うーんと、ここからだと一番近いのは……キャロンジアって街かな。歩いて1日ってとこかぁ」


 そう言って荷物を背負うと、少女は歩き始めた。


「前に行ったところは治安悪かったけど、今度の街は発展してて大きいみたいだし、今度こそゆっくり羽休めできる街だったらいいな!」


 長距離移動は疲れるけれど、街でゆっくりできるかもしれないと思えば不思議と体は軽くなる。

 少女は先ほどまで十数匹の魔物を相手にしていたにもかかわらず、突然どこにそんな体力があったのだと言いたくなるような全力疾走でキャロンジアに向かい始めた。







「着いたぞー‼」


 道中、時折魔物と遭遇はしたけれどたいした傷を負う事もなく、少女は1日で目的の街、キャロンジアへと辿り着いた。

 巨大な門を潜り抜け、にぎわう大きな街を目にすると少女は人目も気にせず大きな声を上げた。結果、何事かと気になった通りすがりの人々からの好奇な視線を一気に集めてしまっている。

 けれど少女にとってはそんな事など些細な事だった。


「きれいに整備された地面! 綺麗なお家! いろんなお店!」


 そして溢れかえらんばかりの人の数。

 これまで渡り歩いてきた街の中でも、この街の発展具合はトップクラスだ。


「こんな楽しそうな街久々! ……そうだね、じゃあ、今回は奮発して装備品新調しちゃってもいいかな!」


 そんな調子で心躍らせ、思ったことが駄々洩れ、どころか誰かと会話しているのではと思えるほど1人でしゃべりまくっているこの少女の名前はシア・フローリア。

 腰には2本の剣。いかにも冒険者という風体をしている冒険者だ。

 街の人々はただのソロの変な部類の冒険者だと認識したようで、関わらないように避けながら立ち去っていく。

 もちろんシアは周りからそんな風に思われていることなど気にしていなかった。

 シアは遠くの何かを探すように、額に手を当てて右に左に首を回した。


「さてさて、まずはギルドに挨拶してこようかな。この街の案内板は……あっ! あれか!」


 遠くに見えた案内板に近づいてみると、それはかなり巨大だった。

 なのに文字は小さく書かれている。シアは持っていた地図を見たとき、キャロンジアがここまで大きい街だとは想像していなかった。

 これは宿や食事も期待できそうだ。


「それで、えーっとこの街のギルドは……っと」


 ギルドを探してはみるけれど、案内板は巨大なうえにいろんな店が書き込まれているため、どれがギルドをさしているのかが全くわからなかった。

 シアは困って眉間にしわを寄せた。


「? どれだろ。地図がごちゃごちゃし過ぎてて、よくわかんないなぁ……あっ! すみません!」


 シアは丁度後ろを通り過ぎようとしていた中年男性に声をかけた。


「どうしたんだい?」

「あの、この街のギルドに行きたいんですけど、どこですか?」

「ギルドね。いくつかあるけど、嬢ちゃんはどのギルドに行きたいとかはあるのかい?」

「じゃあ、1番大きいところがいいです」


 ギルドはどの都市にも存在しているというわけではない。

 そのほとんどは各地方の主要な都市に集中していて、この都市のようにかなりの広さがあるところには複数設立されているという話を聞いたことがある。

 シアはクエストさえ受けられるのならばどこでもよかった。

 なのでとりあえず、より多くのクエストが集まっているであろう勢力の強いギルドを選ぶことにしたのだ。


「それなら中心部のオルギス区画にあるギルドが1番だったはずだよ。1番新しいギルドではあるんだけど、あっという間にこの街1の勢力を誇るギルドになったんだ」


 男性が指差して教えてくれたおかげで、シアはやっとギルドの場所を把握できた。

 ギルド勢いを表しているかのようにそのギルドの敷地は大きく表示されている。


「へぇ、すごいんですね。きっとマスターさんがやり手なんでしょうね。あとは、スタートメンバーも実力者ぞろいで、高ランククエストバンバンかっさらっていったとか?」

「さぁ。そこまで詳しいギルド組織の内部状況とかは知らないよ。ただ、そこの力が増しすぎちゃったからなのか、他のギルドはかなり衰退してるって噂は聞くよ。中には閉めてしまったギルドもあるんだってさ。他のギルドがあるのは……」


 男性はついでにと、他の小さなギルドの位置も教えてくれた。


「わかりました。とりあえずオルギス区画にあるっていうギルドに行ってみます!」

「嬢ちゃん渡りの冒険者?」

「はい!」

「そのギルドに腰を据えるのかい?」


 冒険者のほとんどはどこかのギルドに所属し、そこを拠点にクエストと呼ばれるあらゆる方面の依頼を受けて活動をしている。

 対して渡りの冒険者とはどこのギルドに所属することなく、着の身着のまま旅をしている冒険者の事だ。主に魔物の討伐により得た戦利品を売って生計を立てている。

 無所属だと魔物出現の情報が得にくく、クエストを受ける際にギルドへ渡す紹介料が割高になる事も多いため、ただ旅を楽しみたいだけの変わり者の冒険者がほとんどだ。

 稼ごうと考える冒険者は必ずどこかのギルドへ所属する。

 シアは旅が好きというわけではないけれど、諸事情からどこかのギルドに登録しようという気は全くなかった。


「いえ。今のところどこにも入る気は無いんです」

「そうかい。渡りは大変だって聞くけど、頑張んなよ」

「はい! ありがとうございます!」


 シアはぺこりと頭を下げて男性を見送ると、再び案内板へ目をやった。


「と、いうことで今回お世話になるのはそのギルドってことで……うん、決定! 泊まるとこはギルドが運営してるところだと狭いだろうから……」


 通りを歩く人たちはシアの大きな、まるで誰かと会話をしているような独り言に耳を傾けていた。

 間違いなく怪しい人物だと思われているに違いない。

 そう理解しつつもシアの独り言は止まらなかった。もはやそういうふうに見られるのに慣れてしまっていて、自然と言葉が次々と出てくる。


「よし、じゃあまずはギルドに向かおう! 行くぞ、おー!」


 シアは思ったことを1通り口に出し終えると、気合いを入れ直し、手を空へ突き上げた。

 お読みいただきありがとうございます。

 次回更新についてですが、ストックの数話分あるのでそれはなるべく早めに更新するようにします。

 でわ、また次回!

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