プロローグ
3作品目です。
※ただいま休載中。モチベーション上がったら続きを書きます。あと、たぶん再開前に加筆修正すると思います。
とある大きな街の周囲一帯に、人間という食料を求めて集まったおびただしい数の魔物の群れが押し寄せた。本来ならば人間の街の近くには住みついていないような力の強い魔の軍勢だ。
この街に滞在している冒険者たちは、今まさに襲い来る魔物の襲撃をどうにかしのいでいるという危機的状態だ。
そんな中、他の冒険者よりも動きが俊敏な冒険者の少女の姿があった。彼女は2本の剣を振り回し、倒れる仲間が増える中バッサバッサと魔物を切り伏せていく。
「本当は、こうならないために、頑張ったはず、なんだけどなっ‼」
じわじわと減っている冒険者達を悼む余裕なんてものはない。
この状況を作ったのは金に取りつかれ、悪い方へと肥大化していたあのギルド。この冒険者の少女はその膿を取り除くためこの数カ月の間、自分のできる限りの力を駆使して奔走してきた。状況は間違いなく良い傾向に向かっていたはずだった。
けれど、魔の動きが思った以上に早かった。それが今の現状を生み出してしまった原因だ。読みが甘かったのだ。
少女は悔しくて無意識に下唇を噛みしめた。そこからは赤い血がじわりとにじみ出た。
悔しさを剣にのせて敵を切り裂いた。倒しても倒してもきりのない戦場で少女は敵の少ない空間を見つけ、そこへ飛び移った。同時に背後に何者かも飛び込んできた。
少女に向ける殺気はないため味方であることは間違いないだろう。
「シアちゃん大丈夫?」
「うん。ジークの方は?」
「僕もフィオナちゃんの援護でのおかげでどうにか。なのに……フィオナちゃんとはぐれちゃって……うぅ……どうしよう、フィオナちゃんに何かあったら……僕……」
横目で見るとジークという青年は予想以上のボロボロの姿で少女、シアの背後で武器を構えていた。
「会ったころに比べたら剣の腕はだいぶマシにはなったけど、その性格だけは直んないよね。大丈夫、フィオナはあんたに守られないと生き抜けないようなやわな子じゃないから。むしろあんたがの方が心配だわ」
「そ、そんなぁ」
シアの言葉に納得のいかなかったジークは、戦場に立っているのにもかかわらず警戒を解いてシアの方へ振り向いた。
「バカ!」
1匹の魔物がジークめがけて飛び込んできた。
「こんな時に気なんて抜いてんじゃないわよ!」
シアがジークの腕を引いて自身の後ろへ隠し、庇おうとしたところで巨大な炎の塊が目の前の魔物を吹き飛ばした。
「シ、シアさん! ジークさん! 大丈夫ですか⁉」
「フィオナ!」
どうやらフィオナが魔法で先ほどの魔物を倒してくれたようだ。
3人は互いに背中を合わせた。
「フィオナも怪我は無い?」
「はい。それよりジークさんが無事でよかったのです。1人で魔物の大群の中に突っ込んでいってしまって……次に会ったときに死体になっていたらどうしようかと思ったのですよ」
「ほんとにね。数分といえ、フィオナなしでよく生き残れたよ、ほんと」
シアとフィオナは向かってくる魔物を倒しながらも、やれやれといった具合にため息をついた。
「2人ともひどいよ! 僕の事なんだと思ってるの⁉」
ジークがムキになって叫ぶと同時に、魔物の群れを切り分けながらシアたちの方へ何者かが向かっている気配があった。
こんなに大胆な向かい方をしてくる人物など、シアには1人しか思い当たらなかった。
「いたいた! 3人とも無事か?」
「カーミラ」
カーミラはシア達とは別のパーティ、ブランというパーティのリーダーをしている男勝りな性格の女性だ。
「無事みたいだね。3人ともここは私らがどうにかするから、君らはこの魔物の群れの頂点を叩いてきてくれ」
「けど、私達よりブランの方がパーティ全体の実力は上でしょ。それならそっちが向かった方が」
カーミラは首を横に振った。
「いや、君らが向かうべきだ。シア、君がこんな人目のつく場所で戦っていては、戦闘に参加できずに力を持て余す人材、と言っていいかは不明だが……とにかくだ。彼の能力を思う存分ヤツらに披露してやれないだろう?」
「それはそうだけど……」
シアが率いるパーティメンバーは4人。
カーミラの言う通り、この戦いへの参加を拒んでいる彼を引きずり出すためには人目がつかない場所へ向かう必要がある。
けれど、シアは躊躇っていた。
魔物の勢いが止まらない今、この戦場を離脱してよいのかどうか。
カーミラはニッと笑った。
「大丈夫。この場は私ら、ブランがどうにかしのぎ切ってみせる。だからシア達は行ってくれ」
シアが踏み出せずにいると、もう1人の仲間の声がした。
(行こう、シア。それなら、俺も、手、貸す)
その声でシアは覚悟を決めた。
「わかった。私たちは今から魔物達の親玉を倒しに行ってくる! ジーク。フィオナ。行こう!」
「うん!」