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第8話 沙織と二人の先輩たち②

『お姉ちゃん……お願い……ぎゅーってしたいの……』

『……す、少しだけだからね……』

『えへへっ、やったぁ!』


 なんでかわからないけど、今私たちは映画を観ている。

 ……ほんとになんでだろう。

 夕陽先輩が『姉妹のキズナ物語〜アイラブユーは唐突に〜』という映画を見たいというので、私と嫩先輩が付き合わされている形になっている。


 夕陽先輩がラブコメ好きなんて意外だ。

 ファンタジーやアクションを好みそうなのに。

 というか、図書館に行く話はどこに消えたのだろうか。

 夕陽先輩の自由さは、時に少し控えてほしいと思ってしまう。


『えへへっ、お姉ちゃんつかまえた』

『んむっ』


 物語も山場を迎えて、そろそろラストに差し掛かろうとしていた。

 最初はあまり興味なかったけど、観てみるとなかなか面白い。

 妹がお姉ちゃんにベタベタ甘々なところが一番のポイントなのかなと思ったりする。

 姉妹のキズナというのがタイトルにある通り、姉妹間の繋がりを重要視しているだろうと考えたから。


 それにしても、この作品には男性が存在しない。

 モブなどではちらほら見かけるものの、主要キャラは女性のみになっている。


「もしかして……でも、まさかね……」


 私が男性恐怖症ということで、主役級の男性が出てこない作品を選んでくれたのではないかと思ったけど、そんなはずはないかもしれない。

 嫩先輩はそうしてくれるかもしれないけど、夕陽先輩は根っからの自由人でだれかを気遣うところを見たことがない。

 私に優しくしてくれたことはあるけど、それは気まぐれからかもしれない。


 今まで見てきた夕陽先輩の印象は、孤高な一匹狼。

 だれかとつるんでいるところを見たことがない。だけど、全然寂しそうじゃなかった。

 むしろ一人でいることを望んでいる感じだった。


 そんな夕陽先輩が、今こうして私たちといることも一緒に映画を観ていることも、今までのイメージからは考えられなかった。

 飽きたらすぐに「もう帰る」とか言い出しそうだし。


『えへへ……お姉ちゃん……好きぃ……』


 そのセリフが最後のようで、エンドロールが流れた。

 あんまり集中できなくて、話の内容があまり頭に入っていない。

 思っていたよりも面白かったことしか残っていない。


「面白かったわね〜。映画っていう選択肢もなかなかいいものね」

「そうだろ? あー、でも付き合わせて悪かったよ。図書館行くって決めたのに」

「いいのよ。私は元々合わせるつもりだったから」


 二人は普通の会話をしている。

 それだけなのに暗闇の中だからか、二人が特別綺麗なものに見えた。

 いや、二人とも普通に美人なんだけど。


 なんていうか、見慣れないから新鮮に見えたのかもしれない。

 でも、こういう他愛のない話をさっとし合えるなんて憧れる。

 私は話しかけることはもちろん、話しかけられても上手に返せないから。


「沙織ちゃん、面白かったわね」

「えっ、あ、はい。そうですね……」


 ……そう。私は上手くできない。

 こうやって返すのが精一杯なのだ。


 そうして、私たちは映画館を後にした。

 話の内容が記憶に残っていないからか、気分はどんよりしていた。

 だけど、先輩たちに悟られるわけにはいかないと、必死で笑顔を取り繕って話を聞いていく。


「次はどこ行こうかしら?」

「……お腹すいたな……」

「ふふっ、夕陽ちゃんは正直ね。沙織ちゃんは? もうお昼ってことでいいかしら?」

「は、はいっ! お二人についていきます!」


 私がそう言うと、嫩先輩は驚いたように目を丸くした後、口に手を当てて笑った。


「うふふっ、そうすると行き先は全部夕陽ちゃん任せになりそうね」


 そんなに面白かったのか。

 でも、自由人の夕陽先輩についていく主体性のない二人という図を想像したら、面白くないこともない。

 私がもし嫩先輩と二人で出かけた時は行き先が決まらなさそうで大変だろうけど。


「へへ、私たちが夕陽先輩のお供みたいですね」

「ふふふっ、そうね。なんだか笑いが止まらないわ」


 楽しそうな嫩先輩を見ていると、こっちも楽しくなってくる。

 今は、このくらいの距離感でいい。

 そんなすぐに変われるなんて思ってないし。

 逆に、すぐに変わったら不気味でならない。


「ねぇ、沙織ちゃんは楽しめてる?」

「え? は、はい……楽しいですよ?」


 それは本心からの言葉だったけど、嫩先輩はどう受け取ったのだろう。

 私の頭をぽんぽん撫でて、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 ……って、え? なんでこんなことされてるの?


「沙織ちゃん、無理に合わせなくてもいいのよ。たまには自分に素直になってみてもいいんだから」

「え、えっと……無理に合わせてるつもりはないんですけど……」

「そういうことじゃなくて。たまにはあなたの意見も聞きたいなってことよ」

「あ……」


 自分でなにかを決めることに恐怖を覚えている私を、嫩先輩は見透かしていたのだ。

 自分がなにかを言うことで、嫌われてしまうんじゃないかと怯えているこの私を。

 ……嫩先輩は、私にとって聖女みたいな人だ。


 だからこそ、私は嫩先輩に――どんどん惹かれていったのかもしれない。


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