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パンフレット

「リカはこのカンパニーが全盛期だった頃のオーナーがどんなんだったか知ってる?」


オレより長くこのカンパニーにいるリカなら自分の知らない何かを知っているかもしれない。

ずっと一緒にいたのだからいくらでも聞くタイミングがあったはずなのに、今更聞くなんて、おかしな感じがした。

考えてみれば芝居の事ばかりでプライベートの話なんてした事無かったな。

リカもそう思ったのだろう。

こくんと首を傾けて微笑った。


「他者に興味の無いヒカルがそんな事聞いてくるなんて心境の変化?」


そうだ。オレは芝居以外全く興味が無い。日常当たり前の行動でさえも、これが芝居の中だとしたらどんな風に動けば視線を集める事ができるのだろうか?

プライベートで街を歩いていた時に通りすがりの人が突然倒れこんだとしたらそれも芝居の一環として思ってしまい、一秒一秒変わって行く倒れた人間の表情、動きをじっと見てしまう。頭の中は常に芝居のこと。カンパニーの仲間は仲間であって家族親友では無い。一緒にいい舞台をする事ができればその人物に問題があっても極端な事を言えばその人間が殺人鬼であったとしても舞台さえ完璧であれば問題無かった。


「誰かに何か言われたのかな?」


「……」


「ひょっとしてヒカル?」


「………」


ヒカルの名前を聞いた途端、頬が痙攣した。

オレはヒカルから預かったパンフレットをリカに渡すとしばらくは何も言わずパラパラとめくっていた。


「本当にうちらのカンパニーにこんな時代があったんだね!」


最早都市伝説かと思ってたと冗談っぽく言って一枚の宣材写真で手を止めた。

それはさっきオレが目を奪われたヒロインが写っているページだった。

息を飲み食い入るようにじっと見ていた。

あまりにも真剣に見つめるもんだからこめかみの血管が浮いてみえた。


「キレイな人だよな、その人…」


その形相が物恐ろしかったので声を掛けてみたものの返答は無く、そこに書いてある言葉一文字一文字を記憶するように読み更けていた。

何度も何度も左から右に動く瞳。

一度下まで動いた瞳がまた上に戻る。

彼女の何がそこまで興味深かったのだろうか?

ようやく、はっとしたようにオレを見た。


「ごめん、何か言った?」


「いや、随分真剣に読んでたね」


「う……ん」


どことなく歯切れが悪く、こんなリカの姿を見るのも初めてだった。


「すごくキレイな人だから目が離せなくなっちゃった」


パンフレットを持ったままそう言った彼女の目はどこか寂しげだった。


「オーナーの若い頃の話、オーナーに直接聞いてみたら?今日だったら、多分あそこにいるはずだから」


リカは窓の外を指差した。

オレンジ色の赤ちょうちんがぶらぶらと揺れて仕事帰りのビジネスマンを待っていた。


「毎週木曜日はオーナーいつも一人で飲んでるのよ」
















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