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少女

その人物は足元に何かいる事に気づいたようで目をキョロキョロと動かしていたが、すぐに大きくなった瞳孔がそのモノが自分の好奇心をくすぐるものだと教えてくれた。

体をぶるぶると動かせ握りしめた両手をぶんぶんと上下に動かしていた。

あの先に何があるのだろうと見ているこっちまでワクワクしてきた。

途端に腰を屈め息を殺しながらその何かを捉えようと手を伸ばした。

瞬間、突風が吹いたのだろうか、その子は膝をくっつけ太股辺りを抑えて、もう片方の手は頭の上を抑えたまま動けずにいる。

体を斜めにして静止している姿は可愛い少女のようだった。

この締め切りの室内に風など入ってくるはずないのにオレも…、他のみんなも風を感じているようだった。

「あ!」

少女は短くそう叫び前方に右手を伸ばした。

相当風が強かったのだろうか。頭を抑えていたモノが飛んでいってしまったのだろう、前方の…帽子だ、オレの目にも帽子が見えた。

紅潮した頬潤んだ瞳、今すぐにでも泣き出してしまいそうだったが、少女は泣かずにスカートのすそを掴んだまま唇を噛んでいた。


「はい、終わり」


カンパニー最年長のユウタが手を叩き、先程までヒカルが作り上げていた景色を壊した。

劇団員全員集まり久々のエチュードで、ヒカルの実力を見ようとしたのだが。

先刻入ったばかりのヒカルに与えられたお題は『少女』だった。

とらえどころの無い曖昧なこのお題。

ヒカルへの嫌がらせとしか思えなかった。

今のこのメンバーで次の講演を成功させようとカンパニー全体的で話していたのに、初日までまで幾ばくもないタイミングで新しいメンバー、更にそのメンバーがオーナー直々にスカウトしてくるなど初めての事だったので、ほとんどの者がヒカルの存在を面白く思っていなかった。

特に最年長のユウタは次の舞台を最後の舞台にしようとしていた。

いつかは大きな劇場で舞台ができるとそう信じてやっていたが、周りからのそろそろ現実を見ろと言う圧力と年齢を考え自分の意思で最後にしようと決意したのだ。

ユウタにとっても今度の舞台は大切な舞台なのに、ここにきて新しいメンバー、しかもオーナーの折り紙付きなど、あってはならない事だった。

そこで、どうせ出来ないと思われていた『少女』をヒカルにやらせてみたところ。

ヒカルは完璧に少女を演じきったのだ。

少女と言う曖昧なお題にも関わらず彼は小道具ひとつ使わず少女になっていた。

ついさっきまでオレの隣に座っていた時は何の空気も持たないただの少年だったのに。

ヒカルの演技を見るのは今日が初めてだが。

これがヒカルの実力だと思うと背筋が寒くなるのを感じた。

正直これほどの実力者と一緒に舞台をした事が無いので、もしかしたら喰われてしまうのでは無いかと……、途端にヒカルの存在に恐怖を感じた、

そんな事縁起でもない。

折れそうな心にぐっと力を入れた。

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