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演技

「休憩、休憩ーー!」


稽古場に響き渡る苛立ったその声に我に返る。

全く稽古に集中していない証拠だ。

ユウキさんは頭に巻いたタオルを外し、まっすぐにこちらに向けられた不機嫌そうな視線は傍目にも分かるほどだった。

周りの人間もユウキさん程では無いが不満を露にした表情を浮かべて自分を見ていた。

原因は分かってる。

オレが役に入りきっていなかったからだ。

心の入ってない中途半端な稽古ほど、時間を無駄にする物はない。

今まで一度もそんな事無かったのに。


「どうした、カナタ?お前らしくないな」


最年長だけあって口振りは穏やかであったが顔つきの険しさは隠せていなかった。


「……すみません…」


「いや、そんな言葉が聞きたい訳じゃないから」


口元をピクピクと震わせていた。

言い訳が嫌いなユウキさんに意味の無い謝罪なんてもってのほかだと分かっている。

これも全部。

ヒカルのせいだ。

稽古場の隅でダンスシューズのヒモを結び直しているヒカルに一方的に焦燥の視線を送ってしまう。

ヒカルに与えられた役はオレのライバル役だった。

元々オレのライバル役はリカがやる筈だったが、当初からこの決定に賛成しない人間もいて、やはり、男がやるべきではないかと意見もありヒカルが入った事により彼にやらせてみようかと。

もちろん、入ったばかりのヒカルにそんな大役をやらせるなんてこれにも反対の意見は多かったが、オーナーがそう決定したのだから周りは何も言えなかった。

だけど、ヒカルの演技力は予想を超えていた。

今回の舞台の登場人物全員のセリフ全て覚え、一人で最初から最後まで演じてみせたのだ。

ただ演じるだけで無く、立ち位置など本人なりに考え見事に演じきり、あまりの素晴らしさ…、いや、恐ろしいと言う言葉の方が近かった。周りは畏怖を感じ沈黙に包まれていた。

自分達が今まで築き上げたものを簡単に追い抜いていったヒカルの演技を前に誰も口を開く事ができなかった。

自分達の自信が音を立てて崩れていった。

ヒカルが何かを演じるとありもしないその場面が見えてくる。

それがむさ苦しい楽屋であったり、何も無い荒野であったり。

風や匂いまでも感じられた。

そんなヒカルを前にして、オレは何もできなかった。

いつも通りの演技?いつも通り?オレはいつもどんな風に演技してたんだっけ?

生温かい汗が頬を伝う。

カンパニーのみんなの視線が突き刺さる。


『お前の演技はそんなものか?』


ああ、責められている。

蔑まれている。

お前の実力はそんなものかと。

気持ち悪い……。昼間食べた物が逆流してきそうだ。

唇を噛みしめ、ユウキを見上げた。


「次はちゃんとできます!」


「ちゃんとしろよ…、座長…」


少し皮肉っぽくそう言うとユウキは頭にタオルを結び直した。









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