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居酒屋の暖簾を潜ってみると、リカの言葉通りそこにオーナーはいた。

アルコールの匂いと煙にまみれたカウンター席に座ってどこを見ると言う訳でも無い瞳にはパンフレットから溢れでていた輝きは無かった。

賑やかな店内声を高らかに話してる大人達の中、新しく入ってきた客に目を向ける人はいない。


「こんばんわ」


オーナーに声を掛けると窪んだ目でオレ達を一瞥して興味無さそうにまた視線を戻した。

オレ達は隣の席に座ったものの、オーナーとまともに話した事無い上、圧倒的コミュ症であり何て声を掛けていいか分からず、届いたコーラに口をつけた。


「突然すみません」


リカは運ばれてきたカシスオレンジをぐいと半分飲んでふぅーと息を吐いた。


「…何の用だ?」


タバコに火を点けオーナーが口を開いたオーナーの前に先程のパンフレットを置いた。


「これ…」


それを見て表情を変える訳でも無かったがオーナーはタバコの煙を迷惑そうに手で払った。


「どこでこれを?」


「今日ヒカルから預かりました」


「ヒカルか………。アイツ何か言ってたか?」


タバコの煙をくゆらせ、初めてオレの方を見た。その目が一瞬鋭く光り、ヒカルの言葉を思い出した。


『僕は事故だとは思っていない』


ヒカルの言葉が頭の中を回る。

ヒカルははっきりとそう言っていた。

ヒカルが生まれる前に行われた舞台のこと。ヒカルが知る筈の無いこと。

小道具の拳銃を本物の拳銃にすり替える事ができた人間がいるとするなら…、明確にその人間を殺そうとしたと言うことだ。

そこまでの恨みを持っている人間と一緒に舞台をしていたなんてどんな気持ちだったのだろう?

そして、一番大切なステージを壊してまで手に入れたかったモノは何だったのだろう?


「いや、別に何も言って無かったです…」


オレの答えにオーナーは一瞬眉を潜めたがすぐに取り繕い口角を上げた。


「で、何か話があるからここに来たんだろう?」


「あ…、えっと…」


具体的に何が聞きたいか?と聞かれると口ごもってしまう。全盛期のオーナーの大人気の舞台で起こった悲劇。考えが何度も何度もループしてしまう。

どうして?何故?


「このお芝居の千秋楽で起こった事件の事…、教えて欲しいんです!」


ぐいっとグラスを1飲みしたリカがじっとオーナーに食らいついた。

オーナーは新しいタバコに火を点けしばらく時間を空けてから口を開いた。


「……、カナタはヒカルの事どう思う?」


思っていた流れと違った問いにまたうまく答えられない。


「…?どうって?会ったばかりで分からないです」


「そうか…。カナタお前は芝居好きか?」


「はい!もちろんです」


「……、自分の演技に自信はあるか?」


「はい!」


「自分が一番だと言いきれるか?」


「……はい。」


少し迷ったが、オレは全てを懸けて芝居に打ち込んでいる。

誰よりも練習して誰よりも稽古に励んでる。

だから、誰にも負けない自信はある。


「そんなお前の前に天性の才能を持った人間が現れたらどうする?お前が培っていた物を一瞬で壊してしまう人間が現れたらどうする?そいつがお前の役を意図も簡単に奪っていったらどうする?」


…、答えられなかった。

正直な事を言えば自分より演技の上手な役者ならたくさんいる。

色々な舞台を見に行き、あ、絶対に勝てないと思う人物もいる。

でも、その度にまた稽古に力が入る。

いつか追い抜いてみせると。

そう思っているうちにまた自信を取り戻せる。

オレは確実に昨日の自分より上手になってると。

だから。


「そんな奴が目の前に現れてもオレは負けません」


オレの答えにオーナーはふっと笑った。


「……、若いな…。オレにもそんな時があった。いいか、カナタ、世の中には絶対に勝てない人間がいる。こっちがどんなに努力しても勝てない相手がいる。自分が夢見ていたステージにもしその敵わない人間がいたらそのステージはただの幻になって終わる」


「…!」


「しばらくヒカルと芝居してみるといい、そうすれば自ずと答えが見えてくるだろう」
























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