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verse 2:Street Dreams

燃えてるビル群、治安の悪い落書き、重油のにおい・・・。


ここどこだろ。少なくとも天国じゃないよね。


サイレンの音もうるさいな・・・。


ちょっとした地獄、って感じかな。


とにかく・・・今何時だろ?って腕時計なくなってる。


いや、腕時計なくなってるとか、そういう問題じゃないわ。


私、腕太くない?


「太くない?」みたいなレベルじゃないわ。


腕がめちゃくちゃ太くなってる。なにこれ。


あっ、わかった!全部夢か!それならガテンがいく!館内で急に倒れたのも、そのあとの意味わかんないラジオみたいな自動音声も、この変な街並みも。


どっかで見たことあるんだよなあ、この街並み。確か80年代のニューヨークの・・・そうだ、ブロンクスだっけ?サウスブロンクス。荒廃したーとか、音楽の原点とかそういう記述があったような。


まいっか。多分さすがに寝すぎだ。図書館に遅刻する。起きよう。


私は思いっきり頬をつねった。


痛っ・・・!


私の指、太っ!まあ腕がこんだけ太くて指細かったらおかしいか。


夢じゃなかったらなんなんだよ・・・


《夢じゃないメーン》


はあ、なんだよこの夢。


と、ビルの隙間からダボダボの服を来た男が飛び出してきた。


「ヘイメーン!」


あれ?私に言って・・・男は銃のようなものを取り出して、私に向けた。


「死にな!」


え?


バン!


何も考える余裕がなかった。銃弾は頭に当たったようで、一瞬頭が熱かった。


いった・・・あれ?


銃弾はコロコロと地面を転がった。


「お前・・・何者だ・・・!」


「図書館司書だよ」


私はそう言いながら、銃弾を拾った。


あれ・・・?私、声も太くない・・・?


銃弾を持つ指がもはや私じゃない。


そして私、なんでいまので死なないんだろう・・・


《アンサー。獲得スキル「防弾防刃(インパクトプルーフ)」を発動したってハナシ》


なんかうるさいな・・・はやく目覚めて、私!


あれ?あれはなんだろう。ライブハウスみたいな・・・。


そのライブハウスから、焦った顔をして男が飛び出してきた。


「おいそこの!アンタ!」


こいつもダボダボとした出で立ちをしている。


「・・・ハァ。今度はなに?どうしたら私は起きるの?」


「ん?何言ってる?よくわからないがアンタ、俺と一緒にバトルに出てくれないか?負けていい試合だから、マイクを持ってるだけでいい。」


もう全部流されてやるよ。


「はいはいわかったわかった。このライブハウスね。トイレもかりていい?ここの。」


「ライブハウス・・・?なんだそりゃ。まあトイレは好きに使え。こっちだ。バトル始まるから早くな。」


「うわ、煙たっ!」


ライブハウスの中は、人と煙でごった返していた。レーザービームが煙の輪郭を形づくり、ミラーボールがカラフルな光を踊らせる。ズンズンと体まで響く音が不快だ。


「俺は韻次郎。いんじろうって呼んでくれ。お前は?」


声を通すため、叫ぶように会話する必要がある。


「は?本村!いいから、トイレどこ!?」


音のうるささに耳を塞ぎながら、汚そうなトイレのドアに手をかける。


韻次郎が私の手を掴んだ。


「おいおい、モトムラっつったか?そっちは女子トイレだぜ?そのでけえ胸は脂肪じゃなくて・・・」


韻次郎は私の胸を拳でボンボンと殴ってきた。


「筋肉だろ?メーン?」


そう言いながらトイレのドアをあける。


そんなことをされても、私は冷静だった。


夢の中だし、夢の中じゃないとしても・・・ある予感があった。


トイレの鏡。


その中に映る自分は、屈強で、顔が大きく、胸板がアツく、白いタンクトップを着た男だった。


「これが・・・私・・・?」


整形後の女の子が言うようなセリフを、まさかこの姿で言うとは。


はぁ・・・どうなってんだ、この世界は。

早く目覚めたいな。いつ目覚めるんだろ、ほんとに。


《しつけえメーン、夢じゃないメーン》


はいはい。


でも夢にしてはこの韻次郎って男・・・妙にリアルなんだよなあ、表情というか所作というか、夢じゃできない表現というか。


「いやあモトムラ、ありがとな。2:2のバトルなんだけど、一緒に出る予定だったやつが逃げちまって」


「バトルってなに?」


「とにかく言いたいことを言えばいいんだよ。まあ今回のバトルは、勝っちゃ駄目だからほら、お前も適当にやってりゃ・・・あ、はじまる!来てくれ!」



めちゃくちゃな夢だな。


私と韻次郎は、ライブハウスのステージにあがった。


奥にはレコードのようなものが乗った棚と、その上にマイクがいくつか。



司会者らしき男がマイクを握って叫んだ。


「ブラッ!ブラッ!ブラッ!ブラッ!サソリスタジオ対アンセムのラップバトルを始めます!」


アンセムは俺たちのチーム名な、と韻次郎が耳打ちする。


目の前の二人組が「サソリスタジオ」ということか。ふたりともガタイが良く・・・って私もか。


「先攻サソリスタジオ、後攻アンセム。DJペロリ、ブリング・ザ・ビーツ!」


と同時に、いわゆる「ヒップホップミュージック」というのだろうか。ダーティでガンガンと体に響く音楽が流れ始めた。


ん・・・?


なんだ・・・この心地良さは・・・?


サソリスタジオの一人がマイクを持って歌い出す。


「Yo 相手はアンセム お前らの人生ここでジ・エンド

エンドウマメ みたく即つぶれ

俺らに負けたら土下座しな

下げた頭を42 口径の銃でBangBang

あげる血しぶき 潰す息吹 お前らにはないぜ生きる意味カモン!

俺がボブそしてこいつがマリー、 お前らの金で今日はパーリー!」


なるほど・・・本で読んだことがある。


これは「ラップバトル」というやつだ。


言葉の母音を合わせて歌にすることで一定の気持ちよさを出すとかなんとか・・・。


サソリの二人はまだ歌い続けている。


「おいモトムラ、次の次の小節から俺たちの番だけど、マジで適当でいいからな。負けないと駄目なんだ。それがルールだ。お前はマイク持たなくていいから」


わかったわかった、と言いながら、私は拳を握りしめていた。


私は納得している。


でも、私の魂は納得していない。


私たちの手番が来る。


「おい韻次郎!パスザマイク!」


私は韻次郎からマイクを奪い取った。


《「母音泥棒(ライミングスティール)」を発動するメーン》


私は、ルールに、従わない。

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