異世界だと思って無双してたら〇〇〇〇だった
「うわっ!」
急に風が吹いた。思わず目をつむる。風がやむと、そこには見慣れた景色があった。
「は? マジかよ」
ロゴが割れてる、渋谷109のビル。ぐにゃって曲がった、赤と青の歩行者信号。電柱にぶつかって、前がつぶれた救急車。災害みたいに壊れてるけど、ここは確かに
俺が前世いた日本だ。
「びっくりした? うふふ」
魔法使いは、楽しそうに笑っている。
「異世界だと思って無双してたら『現実世界』だった。ってタイトル、どう?」
意味がわからない。いや、違う。
「我ながら最高傑作だよね。さえない男の記憶を改ざんして、自分以外の人間をみーんなモンスターに見せて。自己実現? 自己満足? のために、思いっきり殺させる。予想以上にはしゃいじゃってさ、びっくりしたよ」
わかりたくないんだ。
「まさか自分の親兄弟を含めた、日本の人間1億人。それから韓国の人間を、絶滅させちゃうなんてね。やればできるじゃん、引きこもりのニートさん」
確かに前世の俺は、引きこもりのニートだった。難関中学に入れず、父さんからぶたれ、母さんから嫌味を言われ、兄貴からもバカにされて。
「なんで、知ってんだよ」
「狙ってたんだもん」
魔法使いが言い放つ。
「さえない人生で、嫌いな人がいーっぱいいて、攻撃的で都合のいい展開を受け入れてくれて、生まれ変わりたいなーって思ってる人!」
魔法使いがウィンクした。つい昨日まで、かわいいと思ってた顔。今は何も感じない。そんなことより!
「さっき、殺させるとか言ってなかった?」
「いいじゃん別に!」
は?
「だって、嫌いなんでしょ? 魔法の力で見てたよ、ずっと」
魔法使いは続けた。
「趣味はネットサーフィン。家族のことも学校の先生もクラスメートも、みーんな『氏ね』って書きこんでた。うるさい幼稚園児も、近所の噂好きおばさんも、死んでほしいって思ってたんでしょ」
うそだろ、まさか。
「殺したのか?」
「あなたがね」
違う!
「違わないよ。あたしはそそのかすことしかできない。実行できるのは『木村正義』あなただけ」
「そうじゃない、違う、俺は」
足が震える。叫ぼうと思ってたのに、出たのは消えそうな声だった。
「殺す気なんて、なかったんだ」
魔法使いが肩を叩く。
「なーに落ち込んでんの!」
顔も見たくない。だけど声だけで、笑ってるのが伝わってきた。
「死ね死ね、ってずっと書いてたじゃん。でも、書いてるだけじゃ殺せないよね。だからあたしが力を貸した。そしたら望み通りになったってわけ。『ありがとう』ぐらい言ったらどう?」
なんだこいつ。話が全く通じない。
「僧侶! 賢者!」
助けを呼ぼうと顔を上げた。いるのは魔法使い、ただ一人だけ。
「無理だよ。あの子たちは『人形』だもん」
え?