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その5

 セレナがアハハと笑いました。完全に予想外の答えだったのでしょう、アズーリは驚き、思わずいすから立ち上がっていました。


「まさか、君が虹の魔女? だが、虹の魔女はかなりご高齢だと聞いたが、君は……」

「今年で十五よ。あなたがいっている虹の魔女は、あたしのひいおばあちゃんのことだわ。あたしはひ孫。ひいおばあちゃんに魔法を習っているのよ」


 セレナは得意げに、スカートのポケットから筆を取り出しました。


「筆先が、虹色に光っている……」

「見るのは初めてだった? そう、これがアルコバレーノよ。天候を描くだけでなく、他にもいろんなものを描けるの。王子様がいったように、このレストランも、お料理も、ウェイターも、それにさっきあたしをおそっていた盗賊たちも、みんなあたしが描いたのよ。……残念だけど、お料理は食べることはできないけどね」


 セレナは肩をすくめましたが、すぐに笑ってアズーリに再びグラスを差し出しました。


「でもお酒は本物よ。それとも、王子様はお酒はおきらい?」

「いいや、きらいじゃないよ。だけど、その酒にはなにか薬を混ぜているだろう?」


 アズーリの言葉に、今度はセレナが驚く番でした。しかし、またもやアハハとおかしそうに笑い、あっけらかんとした顔でうなずいたのです。


「さすがは王子様ね。なんでもお見通しってわけ? そうよ、このお酒には、薬が入っているわ。じゃあついでに、なんの薬か当ててみてよ」

「毒薬か?」

「やだっ、そんな怖いこと考えないわ。せっかくあたしの前に王子様が現れたっていうのに、どうして毒薬なんて飲まそうとするのよ。このお酒に入っているのは、ほれ薬よ」


 アズーリの青い目が大きくなります。セレナは楽しげに笑って、その目を食い入るように見つめます。


「うふふ、王子様にはちょっと刺激が強すぎたかしら? でも、もういいわ、こんな小手先の魔法に頼ったって、つまんないもん。直接あたしの魅力で、王子様をとりこにするわ」

「……君は、本気なのか? いや、本気だろうが冗談だろうが、そんなことはどちらでもいい。とにかく虹の魔女が見つかって、無事でいてくれてよかったよ。それよりすぐに西の果て山に戻って、雨雲をたくさん書いてくれ! そうしないと、我が国は干からびて滅んでしまう」


 アズーリの懇願を聞いて、セレナは肩をすくめました。


「そんなのいや」

「なっ……」


 絶句するアズーリに、セレナはパチッとウインクしました。


「それより王子様、せっかくだからデートしましょ。確かにここは、あたしがアルコバレーノで創り出したニセモノのレストランだわ。でも、あたしこの町で一番のレストランも知っているの。ね、そこで遅めのランチでも」

「君はなにをいってるんだ!」


 思わず声を荒げるアズーリを見て、セレナはビクッと固まってしまいました。アズーリはバツの悪そうな顔をしましたが、すぐに首をふって続けました。


「セレナ、頼むからまじめに考えてくれ。君が雲を描かなければ、この国は滅んでしまうんだ。さっき街中で強盗騒ぎがあっただろう? 昔はあんなこと、この国ではめったに起こらなかった。でも今は、みんなの心が乾ききっていて、誰もがすさんだ気持ちになっている。……君が雲を描かなければ、みんなの心はどんどん乾いていくだろう。心だけじゃない。乾ききって、みんな死んでしまう。セレナ、君しかこの国を救えないのだ!」


 アズーリの演説を、セレナは目をこれでもかとばかりに見開き、固まったまま聞いていましたが、やがて眉間にしわをよせて、不機嫌そうに顔をそむけたのです。


「……またそれ? そんなの、ひいおばあちゃんからも聞いたわ。虹の魔女が雲を描かなければ、この国は亡びるって。ひいおばあちゃんはもう百歳に近いから、後継者がいないとこの国が亡びるって。……それであたしが呼ばれたのよ。虹の魔女の一族の中でも、あたしの魔力が一番高かったから」


 セレナの言葉に、アズーリはハッと顔をあげました。セレナはアズーリには視線を向けずに、しかめっつらのまま続けます。


「ずるいわそんなの。おばあちゃんは、ずっと雲を描くばかりの生活がいやで、貴族になった。おばあちゃんの娘、あたしのママも同じだった。ひいおばあちゃんには娘は一人しかいなかったから、虹の魔女の血を引いているのは、あたしたちだけだった。そしておばあちゃんもママも、魔力はすでにほとんどなかった。だからあたしに貧乏くじが回ってきたのよ。ずっと雲を描いて暮らす、退屈で面白みのない生活がね!」

「……だが、虹の魔女たちは、十五になる年に、貴族として暮らすかどうか決められるんだろう? 君は今年十五になるといっていたじゃないか。なら虹の魔女としてではなく、貴族として」

「さっきいったじゃないの、虹の魔女として、雲を描けるのはもうあたししかいないの。あたしに拒否権なんてないのよ。拒否したら、この国は干からびてそれこそ滅びてしまう。そうなったらおしまいだわ。……でも、あたしが虹の魔女としての生活を選べば、あたしの人生はこの先干からびたままになるわ。そんなのごめんよ!」


 最後は胸が張り裂けそうになるほどのどなり声でさけび、セレナはアルコバレーノで巨大な壁を創りあげました。セレナにかけよろうとしたアズーリは、突然現れた壁にはばまれ、激突しました。


「うぐっ、セレナ、待ってくれ、セレナ!」

その6は本日1/11の20:45に投稿予定です。

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