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その2

 ロッソ王の言葉に、またしてもアズーリは驚かされてしまいました。しばらく口をパクパクさせていましたが、やがて我に返って首をふったのです。


「しかし陛下、我らと同じ一族ということは、その虹の魔女たちも王族だということですか? それならなおのこと、反乱を考えているのではないですか? 王族である我らを支配するために、雲を描かず、それを使って交渉しようと考えているのでは?」

「いいや、それはできない。虹の魔女たちは、王族として、というよりも貴族としてといったほうがいいじゃろうが、望めばその地位も手に入るのじゃ。虹の魔女たちの娘が、十五になったときに、そのまま虹の魔女として天候を描き続けるか、それとも貴族と同等の暮らしを望むか、選べるのじゃよ。……その代わりに、王族としての特権を選ぶことはできないし、貴族になっても表舞台に出ることはかなわんがな。それに虹の魔女たちのほとんどは、貴族としての暮らしを望むことはない」

「なぜでございますか? もともと虹の魔女たちというのは、王族だったのでしょう? それなら、贅沢な暮らしにあこがれるのでは」

「我らとて、常に倹約を心がけているだろう? もともと我らの一族は、遊牧の民だった。だからこそ、贅沢な暮らしよりも仲間意識、ひいては国民を大切にするという思いを持ち続けるようになったのじゃ。そしてそれは虹の魔女たちも同じ。……それに貴族となれば、魔力を持つ筆、アルコバレーノには一切かかわることができぬのだから、ほとんどの者は西の果て山にとどまることを願うのじゃよ。……じゃが、そういえば」


 ロッソ王は、わずかに顔をしかめて首をかしげました。


「確か今雲を描いている魔女には、一人娘がおったんじゃが、その娘は珍しく貴族としての生活を望んだんだったな。だから今の虹の魔女は、わしよりも年寄りじゃよ。後継者ができずに嘆いておったよ」

「嘆いておった、ということは、陛下はその虹の魔女と交流を持っていたということですか?」

「うむ。これもまた戴冠式のときに話す内容なんじゃが、話しておこう。虹の魔女は空に雲を描けるんじゃが、雲だけでなく、様々なものも描けるのじゃ。そして、描いたものは等しくすべて現実のものと化す。その力を使って、わしのところへ一直線に飛んでくる、伝書バトに手紙を持たせておったんじゃよ。……しかし、そのハトも最近はめっきり来なくなってしまったが……」


 ロッソ王がさびしそうに窓の外へ目をやりました。しかし、すぐにアズーリへと視線を戻すと、その目に力をこめて続けました。


「とにかく、そういうわけで虹の魔女たちが反乱を起こすなどということはありえない。我らと彼女たちは兄妹のようなものなのじゃからな。……とはいえ、なにかが起きたんじゃろう。これほど長く、雲がかかれないということは今までなかった。病気や、最悪の場合、亡くなっているという可能性もある」

「それでは、このままでは……」

「雲が永遠に描かれなくなってしまう。そうなれば国は亡びるじゃろう。だからこそ、そなたに西の果て山におもむき、虹の魔女になにが起きたかを探ってきてほしいのじゃ」


 ロッソ王の言葉に、アズーリはしっかりとうなずきました。ロッソ王は安心したように笑い、それからベッドから抜け出し、奥にある豪奢なたんすの、とびらを開けて取り外したのです。アズーリは目を見開きました。


「実はこのとびらは、しかけとびらとなっておるのじゃ。西の果て山は、非常に遠く、さらに複雑に入り組んでいるから、人も寄り付かん。じゃが、それ以上に、虹の魔女たちのすむ頂上へは、特殊な地図がないとたどり着くことができないんじゃ」


 タンスのとびらを、なにやらかちゃかちゃと動かし、やっとのことでロッソ王は、はがきくらいの大きさの絵を取り出しました。額縁にはめこまれたその絵は、どうやら山の絵のように見えます。しかし、それはなんとも不思議な絵だったのです。なぜなら――


「陛下、この絵は、見る角度を変えると、描かれたものが変わっていくのですか?」

「いや、それは違うな。見る角度を変えると変わるのではなく、この絵はたえず変わっているのじゃ。我らの一族が、王族と虹の魔女へと別れる際に、虹の魔女がアルコバレーノでこの絵を描いたのじゃ。この絵は虹の魔女へとつながる絵じゃから、これを持ちし者でなければ、虹の魔女のもとへたどり着くことはできん。……この絵は、虹の魔女の心のとびらなのだからな」

「心の、とびら……」


 アズーリはもう一度、ロッソ王から渡された心のとびら絵をまじまじと見つめました。西の果て山は乾燥した大地に、登る者たちを拒むかのような、おびただしい数の茨が描かれています。アズーリはごくりとつばを飲みこみました。しかし、その絵をじっと見つめていくうちに、どうしてでしょうか、胸の内がしめつけられるような、不思議な感覚におちいったのです。アズーリは急いで首をふりました。


「……夜明けとともに、王宮を出発します。馬を走らせれば、夜更けまでには西の果て山にたどり着くでしょう」

「すまぬ、西の果て山は危険な山だが、これはお前にしか頼むことができない任務だ。……どうか無事で帰ってきてくれ」


 アズーリは王の目をしっかり見てうなずきました。

その3は本日1/11の19:15ごろに投稿する予定です。

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