コロコロコロ
こいぬのコロは、ポッチャリとしたしばいぬの男の子です。
まだ小さいので、お父さんやお母さんのように、
とおくへおさんぽへは行けません。
でも、おうちのにわはおおきくて、
コロのだいすきなあそびばです。
いつもおにわであそんでいます。
おにわには、コロよりもずっとずっと大きな、
イチョウの木と、カシの木がたっています。
コロはそのあいだをはしりまわるのがだいすきです。
その日も、コロは小さなしっぽを
めいっぱいおおきくふってあそんでいました。
そこへ、ヒュウっとかぜがふきました。
「ねぇ、ぼうや、しっているかい?」
かぜが、コロにはなしかけてきました。
「こんにちわ!」
コロは、おおきなこえでごあいさつしました。
「やあ、こんにちわ」
「なあに?」
「もうすぐ、なつがおわるんだよ」
かぜのいうことに、コロはにっこりとわらいました。
「うん!しっているよ!
きのう、ひぐらしがないていたから、
もうすぐなつがおわるんだ!」
コロはとくいげに、いいました。
それは、きのうはじめてきいたひぐらしのこえに
ビックリしてこわがっていたら、
おかあさんがおしえてくれたことでした。
かぜはコロのことばにかんしんしました。
でも、ちょっとだけくやしそうです。
「よくしっているね。
では、こんなはなしはしっているかい?」
コロはかぜのはなしにみみをかたむけ、
めをまんまるにしました。
「セミってやつは、あんなにうるさくないているけど、
ほんとうはなまけものなんだ」
コロはちいさくくびをかしげました。
だって、セミはいつだっていそがしそうです。
「どうして?」
「あいつらは、じつはものすごくねぼすけなのさ。
ほおっておいたら、
いつまでだってつちのなかでねているんだよ。
いまおきているのは、
ぼうやがうまれるずっとまえからねむっていたやつらが
ようやくおきてきたのさ」
「へーそうなんだ」
コロはかんしんして、しっぽをパタパタしました。
かぜはとくいになって、つづけます。
「では、なんであんなにうるさいとおもう?
あれはね、めざましなんだ。
あんまりにもねぼすけだから、
おたがいにこえをかけあうんだ。
あれくらいうるさくないとおきられないんだよ」
さらにつづけます。
「では、なんでなつになくとおもう?
なまけものだから、冬は寒くてうごきたくないし、
はるやあきは、ここちよくてよくねむれてしまうんだ。
だけどなつはあつくってねぐるしいだろ?
だから、いくらねぼすけでも、
なかにはがまんできなくておきてくるやつがいるのさ。
でも、さいしょにおきたやつは、
ひとりきりではさみしいだろ。
だから、おおごえでないて、
ほかのみんなもおこそうとするのさ。
それでもおきないやつはいるんだけどね」
「へーかぜさんはものしりなんだね!」
こうなると、かぜはだいとくいです。
「セミのなかでも、いちばんのなまけものは、
ひぐらしさ。
おっきなこえで、みんなをおこすのがいやだから、
さいごなのさ」
コロははなしをききながらみみのうしろがかゆくなって、
みじかいあしをめいっぱいのばしてかきました。
でもうまくかけなくて、ひっしにあしをのばしたから、
コロリところがってしまいました。
かまわずかぜはつづけます。
「だからアイツらはこうなくのさ。
そろそろみんなおきたカナ?
あつくないカナ?
おきたほうがいいカナ?
ナツもおわるカナ?
ってカナカナないているだろう?」
やっとおきあがれたコロは、
にくきゅうではくしゅしました。
「かぜさんって、ほんとうにものしりだ!」
かぜはきもちよくなって、
わらいながらさっていきました。
そのようすをみていたイチョウの木が、
しんぱいそうにこえをかけました。
「かぜのいうことをぜんぶしんじてはいけないよ」
「どうして?」
コロはききました。
「アイツらはしょせんどこふくかぜさ。
いきさきのないたびびとなんだ。
だから、かれらのはなしにも、
いきつくさきなんてないのさ。
しょせんはかぜ。
わたしたちとちがって、ねもはもないのさ。
それよりも、私のしっているもっとみになるはなしは、
どうだい?」
イチョウの木がなにかはなしたそうにしていました。
でも、コロはこんどははんたいがわのみみのうしろが
ムズムズしてしかたありません。
イチョウの木のようすに、
となりのカシの木がわらいだしました。
「ハハハハハ!
たしかにかぜのはなしにはねもはもないのはさんせいだ!
だが、アンタのみになるはなしは、
いつだってうさんくさいじゃないか!
はながあったらつまみたくなる!」
いっしょうけんめいあしをのばしたコロは、
またコロリところがってしまいました。
「ただいま!」
「ただいま。」
そこに、おさんぽからかえってきた、
おかあさんとおとうさんのこえがしました。
「おかえり!あのねあのね!」
コロはみじかいあしをいっぱいうごかして、
でも、ころばないようにきをつけながら、
おうちにかけていきました。
おしまい
こいぬってかわいい。
こねこもかわいい。
それだけでむてき。