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出会いは受難の始まり(二)

 本当はぶん殴りたかった。が、一応殴らなかった自分を褒めたい。頭突きで勘弁してやったのだ。むしろ感謝してほしい。

 だが、男はそんなセシリアの心中など知らないばかりか、そもそも何が起こったのか理解できていない様子で目を白黒させてセシリアを見上げている。

 セシリアは腰に手を当て、ふんぞり返りって男を見下ろした。


「男のくせに死にたいとかなんとか暗いこと言ってんじゃないわよ!!ぐちぐちぐちぐち湿っぽいったらありゃしないわ!!あんた、我武者羅に頑張ったって胸張って言えるわけ?誰かの為になることでもしたわけ?は?言ってみなさいよ!!」

「な……」

「死んだ方がいい!?ふざけんのもいい加減にして!そういうのはもう燃え尽きて、動けなくなった時に思うことよ!そこまでの何かをあんたはしたわけ?苦しさを変える努力をしたの?」

「……」

「無言は肯定と受け取るわ」


 男は黙ったままだった。その態度にセシリアは思いっきりため息をついた。

 ダメだ……この男、ダメすぎる。大体セシリアは暗い男も嫌いだったし、命を粗末にする男も大嫌いだった。そして何より死を選ぶことで思考を止めるなどという愚行は最も嫌いな行いの一つだった。


 この性根を叩き直さねばこの怒りは収まらない。それに折角命を助けたのに、再び死のうとされるのは目覚めも悪いのだ。

 憤慨したセシリアはグイと男の腕を掴み立ち上がらせるとそのまま大股で歩き出した。


「ちょっと来なさい!!」

「!?」


 男は息を飲み動揺したようだったが、抵抗する様子もない。まぁ、抵抗されたところで連行するつもりだったのだが。

 こういう時の一番効果のある方法は一つ。

 その目的のためにセシリアは店に向かった。外までいい香りが流れてきている店のドアをゆっくり開けると、見知った顔がセシリアを出迎えた。

 恰幅がいい40代半ばの男がカウンターの中の厨房で料理を作りながら声をかけてくれる。


「おじさん!席ある?」

「おぉ、セシリア久しぶりだな!席ならあるぜ。ちょうど店もひと段落したところさ」

「ありがとう!」

「今日は連れがいるのかい?」

「うん。彼にご馳走してあげて」

「あいよ!じゃあ裏メニューセットしとくかい?大盛サービスするよ」

「あら、今日はまだ裏メニューがあるの?ラッキーだわ」


 ここはセシリアが贔屓にしている食堂だった。

 メイン通りから1本入った通りにある食堂だが、値段よりも格段に味も盛りもいいので、人気のある店である。

 特に今日注文した裏メニューは常連ではないと食べれないもので、不定期にしか出ない代物なので今日は本当に運がいい。

 気さくに声をかけてきたのはこの店の看板娘のライナだった。


「おや、珍しい髪色のお兄さんだね。セシリアの男かい?」

「まさか。冗談やめてよ。ちょっと訳ありの人で保護したのよ」

「そ、セシリアはソーダ水でいいわよね。…あんたは?」

「……」

「あんたは?」

「……水で」


 ライナの言葉に最初は無言だったが彼女の圧に屈して短く答えていた。 

了解といってライナは手早く準備をして、セシリアの前にソーダ水を、男の前に水を置いた。


「うーん!!やっぱり暑い時にはこのソーダ水よね!シュワシュワが堪らない!!」


 ソーダ水を一気に飲んでプハーと息をついたセシリアだったが、もちろんこんなことは屋敷の中ではしない。

 一応淑女教育を受けている状況なので、こういう細かい食事のマナーには養父母は煩いのだ。だからこの解放感を味わえるソーダ水を街で飲む瞬間がたまらない。


「あなたはお酒じゃなくてよかったの?ワインもここの名産なのよ」

「……そこまで飲みたい気分じゃない」

「あ、そ。……来たみたいよ」


 セシリアがソーダ水で一息ついていると、ライナが裏メニューセットを運んでドンという音と共に男の前に置いた。

 そのボリュームに男は目を見開いて、そして困ったようにセシリアを見た。


「これは……?」

「さぁ、遠慮なく食べて!あ、お代は"とりあえず"いいから!!」

「食べてって……俺が?」

「当たり前でしょ?だいたいそんな青い顔してまともに食べてるの?お腹が空くから暗い考えしか浮かばないのよ」


 面食らったようにして戸惑う男の態度にセシリアはため息をついてフォークにニンニクがたっぷり入った特製ソースのかかった肉をグサリと刺して男の口に持っていった。


「ほら!!」

「……」

「ほら口を開けて!!」


 男は一瞬何かを言いかけたが、セシリアから乱暴にフォークを奪うと一気に食べた。

 口に含み咀嚼すると男は目を見開き、次の瞬間には無言で黙々と食べ始めた。それはもういい食べっぷりで、セシリアは嬉しくなった。


 食事に夢中になる男のことをゆっくりと見た。


 がつがつと勢いよく食べているが、その所作は綺麗でがっついているという印象は持たない。

 着ている服は質素に見えるが実は上等な布を使っているようだった。

 泥だらけのままだということはここまで来るまでに何かあったか強行軍で来たのだろう。

 身長はセシリアより頭一つ分くらい大きい。セシリアも一般女性より少し身長がある方だから結構な長身だと思われる。

 服の上からは見えないが先ほど手を引いた時にはごつごつとした手であったから剣など武器を日常的に扱っているのだろう。ということはたぶん体も鍛えられているのではないかと思う。


(うんうん……これは使えるな)


 セシリアはそう思いながら男の食べっぷりを見ていると、大盛にあった食事があれよあれよという間になくなり惚れ惚れするほどの食べっぷりだった。


ちょっと微妙な区切りですが、一旦区切ります

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