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テオノクス侯爵への断罪(三)

 これは事実だった。

 ガーネルトの進撃は予想外のことだった。当初戦いをしていたのは養父のヴァンディアだった。


 ヴァンディアは「ランドールの黒い軍神」と称されるほどの戦略家であり武人だった。


 見事敵を蹴散らし、ガーネルトの軍を退けた。だが、今後も彼の国は攻めてくるであろうことを見越して、セシリアとヴァンディアは秘密裏に不可侵条約を結んだ。


 秘密裏にというのは下手に同盟を結んで帝国に睨まれるのを恐れたためだった。


「そして逆に調べればいい。同時期にランドールから消えたのはライナスという少年であることを。そして、その少年はランドール伯の"知り合いの子供"であったことを。あぁ、ただライナスが消えたというのは少し語弊があるな。確かにライナスが消えたのは事実だが、あの時私は身分を偽る必要があったからね。女装してセシリアという偽名を使って街にも出ているから街の人間に聞くといい。セシリアという少女がランドールにいたという証言が得られるはずだ。これならば大衆が証言者だ。偽ることができないだろうな」

「そんな……」


「因みに同時期にシリィという下働きの人間も入っている。これも私だよ。趣味ではないが、この女顔のせいで女装もこなせる。お前たちが正しく政務を行っているのか確認する意味でも女装は有効だったと思うよ」


 セシルとして商会にアルバイトをしていただけではなく、"女装して"下働きをしていたことにも度肝を抜かれたのはアレクセイだけではなく、集まっていた貴族の面々もだったようだ。

 どよめきが起こった。


「僕はセシルとしての陛下もシリィとしての陛下も城で会っているから。保証するよ」


 カレルが援護射撃をしてくれる。

 セシリアによる意外な反撃に、アレクセイは金の髪を振り乱してマクシミリアンを振り返って怒なった。


「おい!どういうことだ、マックス。王家の秘密だと言って教えたじゃないか。そのために私が王位に就いても宰相の座を約束すると。それにこいつの元で働くのはもうこりごりだといっていたじゃないか!」

「えぇ言いました。あんな子供の言いなりになっていては私の身が持たないと」


 あまりのいいように、セシリアは目を引きつらせてマクシミリアンを睨んだ。


「マックス!お前!私を裏切るようなことをいったのか?」

「申し訳ありません。でも、本当の事でしたので」

「ったく……まぁいいだろう。お前が負傷を理由に色々と動いてくれたおかげでこうして物品の回収はできたし私を排除して王座に就こうとしているという言質も取れた」


 大げさに大きなため息を付いたセシリアが言った言葉を理解できないのかアレクセイ派混乱した面持ちをしていた。


 そんなアレクセイを放置して、マクシミリアンはセシリアの方に歩み寄ってきた。

 そのマクシミリアンの行動を受けて、アレクセイは自分の思っている状況ではないことに気づいた。


「ライナス……何を言って……マックス、お前ちゃんと私を擁護しろ!」

「何故私があなたをかばわなくてはならないのですか?」

「えっ?」


 マクシミリアンはアレクセイに呆れたような侮蔑の表情を向けた後、セシリアの元へとたどり着き、ゆっくりとそのわきに立った。


 それはそこがマクシミリアンの定位置であるように、しっくりとくる構図だった。


「マックスが私を裏切るわけないじゃないか」


 セシリアは玉座に座りながら、頬杖をついて斜めにアレクセイを見ながら言い放った。


 それに対して、アレクセイはセシリアとマクシミリアンを交互に見ながら後ずさって言った。

 そう、全ては仕組まれたことだとアレクセイが気づいたときには遅かった。


「お前……初めから……」

「えぇ、私は陛下に忠誠を誓っていますから」


 淡々と言い放つマクシミリアンには、いつも執務室でセシリアに振り回されている様子など微塵も見せず、堂々とした宰相の顔だった。


「さて、叔父上。もう言い逃れはできませんね。では判決を言い渡す。このもの達が無罪だと思うもの、反論のあるものは前へ出よう」


 セシリアが集まった貴族達を見回してそう言うが、もちろん反論するものはいなかった。

 それを見て、セシリアは静かに判決を言い渡す。


「……セジリ商会は3ヶ月の営業休止、役員は刷新の上その旨届けること。あぁ、もちろん懲罰として未払金も納付すること。わかったか?」

「はい……」


 セジリ商会会長はほとんど気絶しそうな表情ながら平伏して承諾した。

 次に、とセシリアはラバール伯爵に視線を移した。


 ラバール伯爵もヘナヘナとその場に座り込み、青い顔を向けていた。一瞬侯爵へ視線を投げかけたが、目を瞑っている侯爵に自分を擁護するものはいないと悟り、静かにセシリアの言葉を待っていた。


「ラバール伯爵。そなたは貴族である立場を利用し、脱税下だけではなく、市民生活に著しい混乱を招いた。よって、領地及び爵位の没収。次の領主が決まるまで領地は王家直轄とする」

「承知いたしました」

「侯爵についてだが……」


 侯爵はやはり目を閉じたままセシリアの判決を待っていた。そこには貴族としての矜持のようなものも感じる。


 リュカに目をやると、リュカも俯いたまま罪人として罪を受け入れる覚悟を感じさせる態度だった。セシリアが一旦言葉を区切って静かに言葉を口にした。


「侯爵についても監査決定者としてその地位を利用した罪は非常に重い。だが、そなたの息子であるリュカ・テオノクスのおかげでこうして全ての不正を明らかにできた。その勇気に最大限の恩赦として、侯爵は蟄居し、その家督を息子リュカに継がせることにする」

「え……?」


 リュカはセシリアが何を言っているのか分からない様子で目を見開いてこちらを見ていた。そして、すぐに我に帰ると、セシリアの判決に意を唱えた。


「陛下!そのような恩赦、とてもお受けできません。僕は罪人の息子です。責任を取らなければなりません」

「確かにそうだな。ではリュカには1年間私の監視下におく。侯爵の地位はそのままに、城で一から政務を担ってもらう。部署は……病院や孤児院の建設といった公共施設に関する部署がいいな。追って連絡する」


 それは実質侯爵家の権力を使わず、一官吏としての立場だったが、この罪状からするとかなり軽減された判決だった。


「寛大な判決、感謝いたします」


 リュカは半分泣きそうな声でセシリアの沙汰を了承した。

 セシリアが沙汰を下した後、伯爵たちは捕縛されて牢獄に連行となった。


 いよいよ最後の判決。

 大物であるアレクセイの番だった。

 アレクセイは1番みっともなく叫んだ。


「お前は、血を分けた私にも罰を下すと言うのか!!」

「罪には正当に贖ってもらわなくてはなりません。王家の人間だからと甘い沙汰を下すのは権力の濫用というもの。大人しく罰を受けてもらいますよ。そうですね……処刑と言うのも良いでしょう」


 冷ややかな視線を向けたセシリアにアレクセイは一歩後ずさった。生唾を飲み込む音が静まり返った広場に響く用だった。


「まぁ、そんなことはいたしません。まずは北の塔への幽閉。その後については他の罪状を洗ってから決めましょう」

「ばかな……。おい、お前達、俺を助けろ!!」


 アレクセイはみっともなく叫びながら、取り巻きだった貴族を指さした。多分彼らも甘い汁を吸っていた人間だろう。


 だが、彼らが何かをいう前に今度はマクシミリアンが先手を売って彼らを睨んだ。


「陛下。アレクセイ様のもとに行っている間、それはもう色々な裏事情を話ていただきました。その貴族の方の中にはかなりアレクセイ様に優遇されている方もいました」

「それは興味深い。心当たりのあるもの。今からでも遅くはない。身を綺麗にしておくことだ。あぁ、その誠意によっては考えなくもない」


 それは暗に「お前達がアレクセイを切るならば罰することはない」と言外に言っているようなものであった。


 これは職権濫用ではなく、裏どりの時間を割くという合理的な理由からだったが、後ろ暗い貴族にはこの脅しは有効に働いたらしい。


(これでアレクセイ派は大人しくなるわね)


「これを持って閉廷する。陛下がお下がりになる。礼を」


 マクシミリアンがそういうと一斉に貴族たちが頭を垂れた。

 それを見てセシリアは退場しようとした時、リュカの姿が目に入った。

 セシリアは足を止めてリュカに声をかけた。



「そうだ、リュカ。お前の勇気、しかと見届けた。私はお前が言ってくれて言葉に感銘を受けた。私の政策を褒めてくれたね。すごく……嬉しかった……」

「貴女は……!」


 きっとリュカは気づいただろう。

 セシリアがあの夜会であった人間で、正真正銘女であることを。

 だがリュカは言わない。

 むしろこれまで以上に国に尽くしてくれるだろう。


 その証拠にリュカは何かを言いかけたが、そのまま片足をついて頭を垂れて、誓いの言葉を口にした。


「……全て、陛下の御心のまま。貴方のために尽くします」

「リュカ、期待している」


 そうして一連の不正は暴かれ裁判は無事に終わったのだった。



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