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カレル達の暗躍(二)

 一日一緒に街に出ると執務室とは違う面が見えた。些細なことで一喜一憂するセシリアは、少年王とは全くの別人であるように感じた。くるくると表情を変えて。

 ランドールにいた頃のセシリアと変わっていない。むしろもっと好きになった。


(これ以上俺に君を好きにさせてどうするんだ、セシリア)


 予想しなかった展開だったがセシリアと城下町を歩き、スライブはとても満たされた気持ちで城に戻ると、だいぶ回復したらしいマクシミリアンが執務室の前で仁王立ちになっていた。


「陛下……、今日はどちらで執務を?」

「いや……あの……ルディとちょっと……ってか、なんでマックスがここにいるの?怪我はいいの?」

「えーえー、陛下がふらふらと街に行っているとフェイから報告がありまして」


 青筋を立てたマクシミリアンを止める間もなくセシリアは彼の執務室に連行されて行ってしまった。

 スライブも自分とサティの関係を思い出して思わず苦笑してしまう。


 主従というには近い関係なのはトーランドとマスティリアくらいのものなのだろうか?

 一般が分からない。ただ、セシリアとずっと一緒にいるマクシミリアンが羨ましいと思ってそれを見送った。


◆   ◆    ◆


 セシリアとスライブのお忍び城下町デート(もとい調査)が終わって数日経った頃のことだった。

 午後は来客があるという事で本日の執務は午前中のみという事で、スライブは暇を持て余すことになってしまっていた。


 城内は自由に歩いてもいいと言われていたスライブは王立図書館へと向かって客間が並んだ豪勢な廊下を一人歩いて行く

 マスティリアは温暖な気候だと聞いていたが、確かに晴れが続いており、ここ数日は特に快晴だった。窓の外には整備された庭が見渡せて、奥の方には貴賓室へと続く廊下も見渡せた。


 ちょうどロイヤルガーデンは死角になってしまっていることを考えると、セシリアがロイヤルガーデンを使って変装して行き来していることに納得いく。


(まぁ、さすがにこのタイミングでセシリアがロイヤルガーデンに行くこともないだろうけどな)


 などとスライブが思っていると、貴賓室の廊下にセシリアがいることに気づいた。


 遠目だと一瞬分からないが、セシリアに執着しているスライブにはすぐに分かった。少年王ライナスではなく今日はウィッグを脱いで金の髪を後ろにまとめている。

 珍しく女の格好をしていて、久しぶりに見た女性の姿にスライブの瞳は釘づけになっていたが……よく見ればメイドの服装だった。

 前回は地味なドレス、そして今回はメイド。たぶん変装をしているのかもしれない。


(また何かやらかしているんじゃ……)


 これまでのセシリアの行動を考えると思わず苦笑してしまう。あの生真面目そうなマクシミリアンのことを思うと申し訳ないが同情を禁じ得ない。


 まったく……ふらふら出歩いて不用心にもほどがある。更に本人にその自覚がないのも困りものだ。


 今回は何をしているのか気になり、セシリアの元に行こうとした時、一人の男がセシリアに接触してきていた。身なりは貴族だ。何かメイドに尋ねたいことがあったのだろうか?


 顔を合わせた二人は微笑みあっているように見えた。セシリアとして会っている状態で微笑んでもらえるとは、よほど仲の良い人物なのだろうか?


 スライブ自身でさえセシリア姿の彼女と声を交わしたこともないし、微笑まれたこともない。一瞬の羨望を持ってそれを見ていると、2人はいくつか会話した後に、セシリアが脱兎のごとく逃げ出していた。


(あの男!セシリアに何をしたんだ!!)


 セシリアに害をなすであろう者は排除しなくては。若干の怒りを感じつつその男の元に急いで駆けつけてに声を掛けようとすると、振り返ったのはスライブのよく知っている人物だった。


「カレル?何をしていたんだ?」


 自分が思っているよりも怒気を含んだ声が出てしまう。愛する人を傷つけたかもしれない男を容赦するつもりはないが。


「え?あ、スライブか。びっくりした。……そんなに息を切らしてどうしたんだい?血相を変えて」

「今、セシリアと話していただろう?何を話してたんだ?」

「いや、大したことないけどちょっと世間話かな」

「なのに、セシリアはなんで逃げ出した?お前が何かしたんだろ?」


 見苦しい嫉妬だとは思いつつも、カレルとはセシリアとして話をしていたことは何となく気に食わない。


「別にこれと言っては……。まぁ強いて言うならそれよりも僕は2人の仲を取り持っていたの。感謝して欲しいんだけどなぁ」

「なんだそれは?」

「まぁまぁ。そうそう、サティが戻って来たよ」

「サティが?何か収穫があればいいのだけどな」


 話を逸らされたような気がしたが、サティがランドールから戻ってきたという事は何か進展があるかと足早にサティがいる客間に向かうことにした。


 部屋に入るとサティは足を組みながら悠然とした態でソファーに座って紅茶を飲んでいる。

挨拶もそこそこにスライブはサティの前のソファーに腰かけ身を乗り出して言った。


「ご苦労だったな、サティ」

「本当だ。セシリア探しはお前自身ですると言っていただろうに。まぁ、面白い話が聞けたから今回は見逃してやる」

「で、どうだったんだ」


 スライブが促すとサティは不敵な笑みを浮かべつつ、まずはと切り出した。


「確かにランドール伯爵家にはセシリアのいた形跡があった。ただどうも伯爵の娘ではないようだ」


 3年前に訪ねたときにはセシリアという人物はいないという事だったが、やはり伯爵家にいたのだ。

 だが、伯爵の娘ではないとはどういうことなのだろうか?

 訝し気に思っていると、サティは更に報告を続けた。


「伯爵夫婦には子供はいないと戸籍にあった。それで元使用人を探し出して聞き出したところ、セシリア達は遠縁の子供だと言われていて、伯爵は彼女達を一時的に預かっていたとのことだった」

「達?」

「そう、セシリアは双子だ。もう一人兄がいる。そして面白い話が聞けた。双子の兄の名は…ライナスだ」


スライブは思わず息を飲んだ。セシリアの双子の兄の名がライナス。もしやと思ってサティの顔をじっと見ているとサティは頷いた。

それは自分の想像が正しいことの肯定だった。


「ライナス…陛下か?」

「たぶんそうだ。セシリアにうり二つの顔、双子の男児、名前も歳も一致する。そしてランドール伯は確かに王家の遠縁にあたる。本来ならば辺境の地の伯爵という地位に甘んじるのは疑問だが信憑性は高い。」

「ではなぜ、セシリアはマスティリア王になったんだ?」

「これは推測の域は出ないが、事実を纏めるとこう考えられる。6年前に伯爵の元から兄の方がいなくなったらしい。その時、王子が擁立されたのは覚えているか?」


その6年前にはスライブは義兄が第一王位継承者だったためあまり政治には詳しくなかったが、そんな噂は耳にしていた。


「確か…病弱だった王太子が王都に戻ったとか聞いたな。トーランドでも王太子が戻ってきたということで、ささやかな贈り物をしたと記憶している」

「だが一方で、伯爵の元に黒ずくめの男が頻繁に来ていたという証言が得られた。これはたぶんマクシミリアン宰相の事だろう。残されたセシリアを心配してきていたのだろうな。この事実から考えると王太子として城に戻ってきたのはライナスだと考えられる。そしてちょうど3年前、領主であるランドール伯爵が人探しに城内の騎士たちを使った。探させたのは金髪に紫の目の少女。」

「それはセシリアだろう?彼女を探させた理由が少年王=セシリアと何の関係があるんだ?」

「だがその少女は結局見つからなかった。同時に、伯爵の家から妹の方も消えた。」


セシリアの逃亡とライナスが王太子になることになんの関係があるのだろうか。


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