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カレル達の暗躍(一)

 セシリアから正式にランドールに行くことの了承を取り付けられたのは、スライブにとってはありがたかった。

 これで公式にランドール伯爵とのコンタクトも取れるし、秘密裏に動いても文句は言われなくなった。


 丁度先日、サティにランドール行きを依頼したため、タイミングも良かった。

 念話でそのことを告げると、にやりと笑うサティの姿がありありと想像できるような口調で


『ならば大手を振って調査しよう』


 という返答が返ってきた。

 頼りがいのある片腕だが、あまり敵に回してくはないと思いつつも、こうしてスライブは執務室に戻った。


 しかし、執務室はもぬけの殻。代わりにメモがひらりと舞ってスライブの足元に落ちた。

そこには



・ラバール伯爵、税収

・ワイン価格、高騰

・天候不順なし



 という文字のほか、いくつかの単語や矢印での単語の関連付けなどが行われている。

 それを見たスライブには一つの考えが浮かんだ。


(まさかセシリアは自分で調べに行った?ということはロイヤルガーデンあたりで待ち伏せすれば捕まえられる可能性があるな)


 案の定、スライブの予想通りにセシリアを捕まえることができ、半ば脅すようにセシリアと同行して城下町に行くことになった。


 その間、セシリアは非常に居心地の悪いようだった。何とかして自分が女だとバレないように苦慮していることが手に取るように伝わってきた。


 既に正体は分かっているのだが、セシリアは自分がそれに気づいてはいないようだ。


 ロイヤルガーデンの時にも、ほかの時にもセシリアは懸命に女だという事をバレないようにしているようだった。その姿さえも愛らしくて思わず微笑んでしまう。


 普段は愛想がないと言われているしその自覚もあるが、セシリアに対して顔が緩んでしまう。その様子を見たカレルたちは気持ち悪いと言っていたが、セシリアが可愛らしいので仕方がないと思っている。


 スライブにとって今回、お忍びで城下町に行けたことは僥倖だった。

 まさかセシリアと二人で街を歩けるとは予想外の事だった。以前、夜の街でセシリアらしき人物と会ったが、毎回抜け出している様子から多分あの少女もセシリアだっただろうと思う。


 城下町を2人で歩いているとランドールでも2人で街に出かけることもあり、少し懐かしさも感じる。


(デートみたいだなぁ)


 セシリアも楽しんでいてくれるのだろうか?本来ならばワインについて調べなくてはならないと思いつつ、様々なお店を覗いてはあれやこれやと話しながら街を散策する。


「危ない!!」


 スライブがそんなことを考えていると、セシリアが目の前で転びそうになるのを反射的に抱きかかえていた。

 そしてまじまじと彼女を見つめて思った。


(本当に目が離せないなぁ…)


 セシリアはこういううっかりという事がある。


 彼女の宰相代理として過ごしていてやはりその能力の高さには舌を巻いていたし、噂通り能力の高い完璧ともいえる少年王だった。


 その反面、セシリアはちょっとしたことに抜けている。周囲をよく見ている一方で自分のことはよく見えていない。紅茶をよくこぼしてしまったり、寝ぼけてドアにぶつかったりしている。


 今回も周りが見えていないようで人にぶつかっていた。


(それにしても……細い腰だなぁ)


 腕に収まったかセシリアの細い腰を抱きしめて改めて女性だと感じてしまう。

 そしてどさくさに紛れて手を繋いだ。


 セシリアの女らしい柔らかな手の感触はスライブ思ったよりもセシリアを意識してしまい、内心ドキドキと動悸が止まらなかったが、そこは何事もないように振る舞うしかなかった。

 こんな時自分はポーカーフェイスが上手くて良かったと痛感する。


「セシリア……どうしました?」


 セシリアが不意に止まったため訝し気に彼女を見ると宝飾店で立ち止まって商品に見惚れている。


 きっと年頃の女性だからやはり綺麗なものや美しいものが好きなのだろう。興味があるのにそれを隠そうと必死になっているセシリアを見るのは切なかった。


 彼女は少年王である。だから妙齢の女性であるにもかかわらずそれを身に着けることができないセシリアを思うと眉を潜めてしまう。



(見るくらいならいいだろう)


 そうして強引に店内に引きずりこむが、セシリアも目の前の宝飾品を見たいという誘惑には勝てなかったらしく、中に入ったら入ったで目を輝かせていた。


 思わずセシリアに似合う宝飾品を選んでしまう。

 あれもこれもと薦めるとはにかんだように笑いながらもそれを付けてくれるとどの宝石も彼女に誂えたようだった。


 元々美人なセシリアだ。それに王族としての気品もある。


(本当に….可愛いし綺麗だ。なんでも似合うな)


 そう思ってセシリアを眺めるとやはり何か一つでも買ってあげたいという衝動に駆られる。


(本当ならば店ごと買って、彼女にもお洒落をして欲しいし、俺が選んだものを身に着けてほしい)


 そんな思いを持って店内をぐるりと見てみる。

 清楚な印象のあるセシリアにはごてごてしたものよりも、華美すぎずでも上品なデザインのネックレスなどが似合うだろう。


 そうしているとセシリアがエメラルドのネックレスを真剣に見つめていた。

 確かに綺麗だし、セシリアに似合うだろう。


 そう思ってエメラルドが好きだと聞いてみれば、セシリアが『スライブの瞳みたいで綺麗』だと言った。

 自分の瞳と同じ色の宝石を見て好ましいと思ってくれることが嬉しく、思わず頬が緩んでしまう。

まるで告白されたみたいで、柄にもなく舞い上がってしまった。


(俺をこんな気持ちにさせるのはセシリアだけだな)


 だから少しだけ期待した。

 セシリアも自分と同じように思ってくれているのではないかと。


 その反面だけどとも思う。これだけ一緒の時間を過ごしても彼女の気持ちが分からない。

 もちろんトーランドには意地でも連れ帰るが、セシリア自身の気持ちが知りたかった。


「セシリアは……スライブのことが嫌いなのでしょうか?」


 思わず縋るような言葉を口にすると共にセシリアから否定の言葉を願った。

 じっとそのアメジストの瞳を見つめると、セシリアは少し戸惑いながら嫌いではないという言葉を口にした。

 嫌いではない。その言葉だけでスライブには十分だった。


(今はそれでいい。だけど気づいてほしい。俺のことを。そして好きになってほしい。その時は……来るよな)


 だからこっそりとセシリアが見つめていたエメラルドのネックレスを買うことにした。


 身に着けることはないかもしれない。だが、セシリアが自分と同じ瞳の色のネックレスを身に着けてくれるのは酷く魅力的に感じる。独占欲の表れかもしれないが、彼女が自分のものであると主張できるような気がした。



(これを彼女に渡せる日が来るように……)


セシリアの代わりというように、包まれたネックレスにそっと口づけてスライブは店を出た。

 ちょうどお昼に差し掛かり、どこか食事でもと思っていたところセシリアは定食屋を見つけたという。


「うん、美味しい肉料理を出してくれるお店を見つけたの!」


 店を見つけてくるところも、がっつりと肉料理を勧めてくるのも相変わらずで思わずスライブは噴き出していた。

 ランドールで食べたニンニクたっぷりソースの肉を思わず思い出す。


 半ば引っ張られるようにセシリアに案内された定食料理屋は定食屋というよりも少しバールといった感じの店だった。

 昼間からお酒の提供もある。

 本来の目的であるワイン調査も兼ねてスライブはワインを、そしてセシリアにはソーダ水を注文した。


「でも、僕がソーダ水を好きだってよく分かったね?」


 スライブがソーダ水をすんなり注文したことに対しセシリアはきょとんとした表情を見せた。

 本人は気づかないかもしれないが話しているときこの表情を見せるがそれが小動物のようで庇護欲をそそる。また、その時少し首をかしげる癖がある。


(変わらないなぁ)


 思わず眩しいものを見るように目を細めてしまう。

 国王という立場は人を疑心暗鬼にする。信頼している家臣に裏切られることもあるし、命を狙われることもしばしばだ。


 もしくはその地位に慢心してしまうこともあるだろう。豪勢な暮らしに慣れ政治を顧みないという国王も多い。


 だが、セシリアはそんなこともなく、ランドールで会った時のままだった。

 少年王と呼ばれて政治的手腕を発揮していてもやはり18歳の少女で、ランドールで過ごした15歳のセシリアと変わらないことを感じるとまた嬉しくなる。


 提供されたワインはアルコールの混ぜ物をしおり、価格も通常の2倍というものだった。

 また睨んだ通りセジリ商会の販売品。これは確実にセジリ商会の不正があるだろう。そしてそれを出荷しているラバール伯爵という人物も怪しいだろう。

 ほぼ黒に近いグレーと言ったところだろうか。


 その後、セシリアはこの状況におかんむりのようだったが、スイーツを食べると気も紛れた様にそれ以上のことは言わなかった。

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