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腹の探り合い(二)

Narou


セシリアはアンナが用意してくれていた謁見用の礼装に着替え始めると隣室のマクシミリアンがため息をついているのが聞こえた。


「全く、本当にあなたと言う人は……。謁見前なのですから少しは気を引き締めてくださいよ。一応国王なんですからね!」

「でもさぁ、少年王とか言われているけど、所詮は子供って馬鹿にされているわけだし。トーランド側もまだ20歳にも満たないの私みたいな子供が出たらそれこそ舐められるんじゃない?」

「なるほど……とでもいうと思いましたか!!」

「引っかからなかったか。残念……」


マクシミリアンの脳裏に小さく舌を出すセシリアの様子が手に取る様に映し出される。

頭を抱える兄に代わってフェイルスが話題を変えようと先ほどの会話の続きを促した。

隣の部屋に待機しているマクシミリアンとフェイルスと壁越しに話をする。


「それでセシリア嬢は何が引っかかってたの?」

「確証はないけど、大規模地滑りと治水事業で気になって。えっと。もともとウチからトーランドには小麦と鉄鋼類の輸出をしているわよね」

「えぇ、輸出に対する主力商品ですね」

「で、小麦の輸出量を見てみて。なんか変化がある?」


壁越しから聞こえるセシリアの促しによって、マクシミリアンは資料をめくった。


「…いえ。例年通りですね」

「じゃあ今度は鉄鋼類の輸出量は?」

「少なくなってますね」

「まず鉄鋼類の輸出量が減ったということは、トーランドには鉄鋼類の需要が少ないってことよ。元々あそこが鉄鋼類を必要としているのは武器への転嫁がメインだったはずよ」


トーランドは魔法を使うことができる民族だ。だが、魔法も万能とは言えないため武器として鉄を用いることもあり、軍事目的での鉄鋼を輸入していた。

もちろんそれだけではないが、変動する可能性が高いのはそこだとセシリアは思った。

だからこそ、その変化が気になった。


「ということは、戦争としての武器として剣や弓なんかに重点をおく必要が薄れているということ」

「でも、あそこはいくら魔法による攻撃が出来るとしても兵士全員が魔法を使えるわけではないはずです。そんな中で武器を減らすというのは……」

「そう、そこよ」


セシリアはそこで一旦話を区切ると、まったく違う話題に移った。


「で、次の話に移るわ。小麦の輸出量は?」

「変わってません」

「それはトーランドには特に天候不順などはなく、小麦の需要供給バランスは依然と変わらないってことだと思うのよ」

「そう考えられますね、でもこのデータはなん関係が?」


そこでようやくセシリアは隣の部屋から出てきた。

歳よりも落ち着きを見せるような群青色ベストの上にジャケットを羽織るような礼服だった。そんなセシリアはブラウスの袖口のボタンを留めながらにやりと笑った。


「さて、ここで質問です。帝国が魔法能力が強い理由はなんでしょう?」

「それは当然魔石があるために、魔力攻撃が強いということです」

「その魔石の生成には元になる鉱石と大量の水が必要になる。そこでポイントになるのが地滑りと貯水池の場所よ。そして偶然にもそこに大きな貯水池があったりするのよね。私は何のための貯水池かなと思ったわけよ。干ばつ対策ってのもあるかもしれないけど、小麦の輸入量から考えると現状天候不順でもないから食うに困っているわけでもない」

「そう言われると……地滑りが起きた山奥に貯水池を作るのはおかしいですね」

「ラスティの報告だと、この近辺で貯水池建築での人足を募集してたみたい。あ、実際ラスティも潜り込んだみたいだけど、かなり大きいサイズみたいよ。むしろ干ばつ対策に使うには大規模すぎる」


そこでマクシミリアンははっと何かに気づいたようだった。


「つまり…トーランドは魔石の生成を行っていると?」

「そういうこと。この地滑りというのは表向きの話。実際には魔石発掘の落盤事故じゃないかしら」

「なるほど。ではトーランドは帝国に対しての敵対するために秘密裏に魔石を作っているのですね」

「えぇ。だから、結構この同盟は結べる余地は十分あると思ってるのよ」


だが、余地はあると言っても即同盟にはならないだろう。

マスティリアはトーランドに比べると小国。ここで値踏みされ同盟まで漕ぎつけられるかは少年王であるセシリア次第だ。


(はぁ……本当責任重大だわ。マックスじゃないけど胃薬が欲しい気持ちは分かるわ)


などとセシリアは心中でそんなことを思っていたが、マクシミリアンが聞いたら「いいえ、絶対に私の苦労は分かりません!!」と断言されるような気もする。

セシリアは最後に胸元のタイを結びなおした。


「兄さん……やっぱりセシリア嬢は凄いな……」

「あぁ、まったくだ」


セシリアには聞こえないようにフェイルスがマクシミリアンに耳打ちした。

いつもやる気のない表情を見せているので忘れているが、やはり彼女は王なのだ。


マクシミリアンも宰相としては家臣からも優秀だとされており、自身もセシリアの治世を支えているとは思っているが、彼女の着眼点はそれを上回る。


(まぁ、そんなことを言ったら「だから街に遊びに行かせて!」なんて言われるので敢えて言わないでおこう)


そんな裏話がされているとも知らずにセシリアはアンナからマントをもらい、それをバサリという音を立てて羽織った。

ビロードの紫のマントに金の刺繍がよく映える。


そしてセシリアは一呼吸置いた。

ここからはトーランドとの戦争だ。年若いと侮られないように。マスティリアが優位であることを印象付けるように振舞わなくては。自分はマスティリアの「少年王」なのだから。


そしてセシリアはいつものように腹心たちに言う。


「さぁ、諸君、仕事の時間だ。」


◆ ◆ ◆


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