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王家の双子(一)

 ことは遡ること19年前から始まる。

 マスティリア国王と体の弱い王妃の間には長らく子供ができなかった。家臣たちは愛妾をと持つように進言していたが、愛妻家であった国王はそれを拒否していた。


 だが、ようやく王妃がめでたく懐妊し無事出産したが、手放しでは喜べない事情が発生した。

 それは生まれた子供が男子と女子の双子だったからだ。

 この国では双子は凶兆とされていた。せっかく生まれた子供なのに、国王の子供が双子で生まれたなどということが知れたら国民たちは"凶兆"と恐れ、不安に思うだろう。本来ならばその子たちは王位継承権を持たずに貴族の養子などとして家を出されてしまう。

 しかし、長らく子ができなかった国王と王妃のことを思うと、それも難しいのではと双子の件を知る一部の家臣たちは思った。

 悩んだ家臣たちは子供は男児のみが生まれたと発表することにしたのだった。


「女子の方は遠縁のランドール辺境伯爵に預けよう」


 残された女子の処遇について検討される中、家臣たちの意見は王家の遠縁で信頼のおけるランドール伯爵に託そうという意見が多かった。むしろほぼ決まりであった。だが時の宰相であるクライス=アイゼルネは考えていた。


(もし、この王子に何かあったら、王位継承権どうなるだろうか)


 このクライスという男は国王とこの国に忠誠を誓っている一方で、非常に頭が回る。出世欲もなくただ国の為にと考える真面目な男であるとともに、常にその先々を見るような聡明な男だった。

 出世欲は確かになかったのだが、幼馴染でもある国王にどうしてもと乞われ、仕方なく宰相を拝命しているという状態だった。


 そんなわけで宰相は王位継承権についても今後どうすべきかと頭を悩ませた。

 王位継承権については由々しき問題があった。普通の考えれば王弟であるアレクセイが継ぐのが妥当なところであるが、このアレクセイは女たらしで散財が趣味という絵にかいたような放蕩息子であったため、至る所から王位を継ぐのを反対する声が上がっていた。しかも一方では傀儡として操り国の乗っ取りを画策するようなアレクセイ派もあるのも事実だった。


 王子が事故などで亡くなった場合にはアレクセイが王として立ってしまうのは避けたい。

 そこで宰相は考えた。非常に考えた。昼も夜も考え、そして至った考えは非常にバカげたことであり、その子の運命をも変えるものだったからだ。


(背に腹は代えられない……か)


 宰相は結論を出したときには、空が白んでいた。窓から見つめる太陽はまぶしく、見上げた空には幸せの星とされる"天空の柱星"が輝いている。

 太陽とこの星が同時に見えるのは一年に一度の事。吉日とされているこの日にこの結論が出たのは幸先がいいものに見えた。だから日中に王にその案を相談し、即日決定された。


「もしこの王に何かあった時のために、ランドール伯爵の元で2人を一緒に育てる」


 それはすなわち女子は王子のスペアとして使うための布石であるとの宣言だった。

 このバカげた案に家臣たちは大いに反対した。もし王子が亡くなって女子が王女として立ったとしてもその後が続かないのでは、と。

 それについては宰相も悩むところだったが、その状況によって判断はしなくてはならないし、場合によっては「王の落胤が見つかった」などの言い訳をして女王となってもらおうとも考えることになった。



 そしてこのバカげた決定は実行されることになった。双子である王子はライナス、妹になる王女はセシリアと名付けられ、ランドール辺境伯爵の元で育てられることになった。

 ランドールはマスティリアの北東に位置する国で、そこを治めるランドール辺境伯爵であるヴァンディア=スナルクランは王家の遠縁であった。

 伯爵いう地位ではあるが、その要所を治めるという重要な役職で侯爵にも引けを取らない名家である。


 おおらかな性格の彼は、宰相からこの話を聞いて非常に驚いたが、愛情をこめて育てると言ってその任を引き受けてくれることになった。

 ただ彼らの養子としてしまうと、王子が即位となった時に何かと問題がある。そんな事情から、伯爵は自らの養子ということで引きとることは止め、遠縁の子を預かるという形をとることを提案した。



 旅立ちの日。

 王妃は涙ながらに我が子を抱きしめると、そっとヴァンディアに渡した。

 ランドール伯爵夫妻には子供が無いため彼らは双子を本当の子供のように育てた。

 ただ…大らかで自由を重んじる教育の為、少し…ほんの少し普通の貴族からは型破りな性格になってしまったのは否めない。

 今日も庭からは子供の声が聞こえている。


「ライナス!!そこは私のお気に入りなんだから!!」

「うるさい、セシリア!今日のおやつを独り占めしたんだからこのくらいいいだろう!?」


 一人の少女―セシリアが大きな木の下で騒いでいる。

 まだあどけない表情と舌足らずないい方からまだ幼いことが察せられた。

 ライナスはセシリアを見下ろしつつ樹の枝に腰かけて遠くを見つめた。遙か遠く。ランドールの果てによりも、賑やかであるという王都よりも更に遠く。本で読んだ色々な国のことに思いを馳せていた。

 その木の枝はセシリアのお気に入りの場所でもあり、木登りの得意なセシリアもよくそこで異国のことを考えるのが好きだった。

 双子の彼らは男女の違いがあるはずなのに、好みの食べ物も趣味も興味もまるで同じだった。


「私だって、今日読んだ異国の話を考えたいんだから!!」

「お前は女なんだからお人形遊びでもすればいいだろう?グレイスだっておままごとしたいって言ってたじゃないか!」

「グレイスとも遊んでるよ!かわいいものも大好きだし、お人形も大好き!でも、木登りも大好きなんだもの!!」


 そう、セシリアとライナスが違うのは、男女という性別の違い。

 そして髪の色。瞳はともに透き通った紫だが髪の色は、セシリアは金の髪、ライナスは亜麻色の髪。

 それくらいしか差異がないくらい似ていた。


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