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スライブの回想(三)


 物思いに耽っていたスライブの意識を引き戻したのはカレルの声だった。


「って、スライブ聞いてるかい?」

「あぁ。カレル。聞いてなかった」

「えー、少年王との対談どうするって話」

「どうせあの女のことでも考えてたんだろ。色ボケもたいがいにしろ」


 屋台で買った夕食を摂っていた自分の手が止まっていることに気づく。

 サティが冷たく言い放つのを聞いて、カレルは苦笑した。スライブ自身もマスティリアに来てだいぶ浮ついている自覚はあるので何も言わなかったが。

 そしてすぐにマスティリア王に対する算段を考える。


(少年王か。その手腕見せてもらいたいところだな)


 ライナス王のサージルラーナンド撃退劇についてはもちろんトーランドに届いていた。若干15歳の王太子がそれを行ったというセンセーショナルな情報だったが、いささか誇張されているのではと思う。

 少年王ライナスは知略を持ってマスティリアを改革し、文化的生活水準も高くなったとも、新技術の開発も最先端を行っているというが、その実態について確かな情報はない。


 執務上の最低限にしか姿を現さず、家臣のなかでも顔を知るのはごく少数と隠密からの報告があった。

 だからこそ同盟に値する王であるかを見極める必要があるのだ。


「まずは同盟よりも友好関係を築く程度でいいだろう。まだ見極め段階だ」


 サティの言うことは至極真っ当だった。だが、マスティリアのマテルライトは魅力的なのは確かだ。これがあればこれまで以上の戦力は得られる。


「それに焦らした方がいい条件で同盟が結べる」

「噂の少年王の手腕が手に入るならトーランドとしてもメリットじゃないの?」

「それについては未知数だからな。……例えばまだ彼の国には前王弟派がいるらしい。それを我々が滞在中に片付けれる、とかなら話は別だがな」

「それは……なかなか厳しい条件だね」


 サティの容赦ない条件にカレルも苦笑した。

 サティの言うことはわかる。スライブ自身3年前に王位継承争いに巻き込まれ命を狙われたのだから。反勢力を一掃したからこそ今の王太子の地位があるのだ。


「俺もサティの言い分は尤もだとは思う。マスティリアとの同盟で直近での懸念は反対勢力がまだあることだ。それを制圧できたらこれは同盟に値するな」


 だが、スライブとしてはそこはあまり重要ではない。

 将来一国を担う王太子ではあるが、今はセシリア探しを優先したいのだ。

 少年王の手腕はまた別に見ればいい。


(セシリア……お前はどこにいるんだ)


 このマスティリアの空の下にいるのは確かだ。だからこそどうしても恋焦がれる思いが止められないでいる。


 屋台で料理を頼み円形広場に置かれたオープンスペースで今後のことについて話しながら食事をしていると、突然何かが壊れる音が響いた。

 どうやら酔っ払いたちの喧嘩の音だった。

 周囲の人間は暴れる男たちをどうしていいのか戸惑っている。


「まさか、取り押さえようとか思ってないよね?」

「……このまま暴れたままにしておけないだろう」


 そう言ってスライブは暴れる男たちに近づいていった。面倒だとは思いつつもこのままだと被害が出ることを予想し、スライブは素早く場を治めた。もちろん武力行使だったが。

 サティとカレルは野次馬が近づかないように対処していくれていたようだった。スライブは早々に片を付けて仲間の元に戻ろうとしたとき、カレルが少女と話しているのが見える。


(あいつはまた女に好かれて。顔が良いというのも善し悪しだな)


 きっといつものように女がカレルにしつこく言い寄っているのだろう。他国に来ても女絡みで面倒を起こされたくはない。強く言えないカレルに代わってここは強く言わなくては。

 そう思っているうちに、少女は逃げるように去ってしまった。


「カレル、今のは?」

「あぁ、あの子、無謀にも君の加勢をしようとしてたからさ。止めたんだよね」

「なかなか気の強い女だな」


 笑ながらスライブは少女に目線をやった時、去っていく少女が一瞬スライブに目を向けた。

一瞬絡んだ視線。

 金の髪にアメジストの瞳。年恰好も似ている。


(まさか……セシリア?)


 ドクンドクンと心臓が耳につくほどの動悸がした。

 だが、これだけ探しても行方が分からなかった今、再会するなど、都合の良い話があるか?

 そう思いつつも、もしかしてという思いがスライブの中でせめぎあっていた。


(でも、セシリアはこの王都にいる)


 それは予感だった。希望的観測と言われるかもしれないが、スライブには何故かそれが現実のものになると断定できた。


「さぁ、食事も終わったから帰ろう。スライ…じゃなかった、ルディ帰るよ」

「あぁ」


 カレルに促されて、スライブは自分が少女の後を見つめていたことに気づいてはっと我に返った。

 もう一度セシリアのことを想ったあと、気持ちを切り替えるように前を歩くカレル達の後を追ったのだった。


ちょっと短いのですが、区切りがいいので切ります

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