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逃げるが勝ち(二)


 思わず叫びだすのを何とか堪えたが、頬がぴくぴくと動いたのはご愛敬だ。むしろ怒鳴るのを我慢した自分を褒めたい。


「最初は城内を探したのですが見つからず、王都も極秘に探したのですがやはり広いですし。一日中探したのですが、発見できなかったので万一にと思いましてこちらに来たのですが……」

「はぁ……そうでしたか。こちらも街道沿いを探したのですが、今のところ報告待ちですね。……夕方まで様子を見ましょうか」


 確かにマクシミリアンの判断は正しかった。

 だが如何せん1日のタイムラグは大きかった。早馬でなんとかロスは短くはなっているが、それでもライナスが逃亡するには十分な時間だったと思う。


 今は待つしかないだろう。そう思ってため息をついたセシリアをマクシミリアンはじっと見つめた。


「マクシミリアン殿……な、なんでしょうか?」

「もうライナス様のことは一旦置いておきましょう」

「えっ?で、でも王太子不在なのはまずいのでは?」

「そうなのです!!だからあなたの力が必要なのです!!」


 嫌な予感しかしない。

 顔を引きつらせながらもとりあえず辞退する。何かはまだ言われていないけど、きっとろくでもない話だろう。


「いやいや。私の力など……」

「何も言ってないですよね?」

「言わなくてもなんか面倒なことなのは分かります!」

「あのですね……王都からここまでどのくらいかかるか分かっていますか?」


 突然話が変わったのでよく分からないが油断は禁物。セシリアは警戒を解かずに答えた。


「1週間くらいですよね……」

「はい、早馬を飛ばしても5日はかかります。往復で最短で10日。ということは我々が王都を出てからもう5日。そして帰ったら10日。その間王太子が不在ということになります!!」

「そうですね……まぁ」

「そんな状態では政務が滞ってしまう!そして今は陛下も寝たきりで、とても執務できる状態ではないのです!」

「あぁ……ライナスからそんな話は聞いています」

「なら話は早いです!!」


 マクシミリアンは一息ついて、バンとテーブルをたたいた。テーブルにあった紅茶のカップが小さく跳ねる。セシリアは思わずびくっと体を硬直させた。


「貴女が王太子になるのです!!」


 再びマクシミリアンがテーブルを叩いた。それを聞きながらセシリアの顔が更に引きつる。


(やっぱり無茶ぶりキター!)


 予想していたとはいえまさかとは思っていた。というか、誰がそんなバカげたことを考えるのか。だが、目の前の男の目は真剣だ。とても冗談を言っているようには思えない。


「マクシミリアン様、落ち着いてください!!そんなの女の私には不可能ですよ……」


(ってかありえないでしょ!?)


 はははと乾いた笑いと共にとりあえず辞退の言葉を口にするが、マクシミリアンは黒い笑いを浮かべてセシリアの言葉を却下した。どことなく目も据わっているような気がする。


「大丈夫です!セシリア嬢はライナス様と双子。ライナス様がセシリア嬢のふりをして出奔できるのならば、セシリア嬢もできます!!」

「はぁ???それって私に男装しろってこと?どう考えても無理でしょ!?周りの人にバレるに決まってます!!」

「そこは周囲の人間とは最低限の接触にするように配慮します」

「ちょっと待って!!ほら、私が行っても政務なんて出来ないし!」


 そうなのだ。いくらライナスと背格好が似ていて身代わりになったとしても政務などできない。したこともないし現状把握ができない。つまり行ってもお荷物だ。

 だから余裕の笑みを浮かべてマクシミリアンの言葉を躱す。


「そのために城での政務について話してたじゃないですか」


 最上級の笑顔で返されてしまった。


(ってか、こうなることを予想してた?!そのために色々政務についての話をしてたの!?は、嵌められてた……)


 つまりそういうことなのだ。ライナスに何かあった時のためにセシリアは保険であったことを痛感した。

 予想はしていたのだ。双子とはいえ女の自分が帝王学的なことも学んでいた意味を。ただ、そんなのは絶対に起こらないと思っていた。

 その考えが甘かったのだと頭を抱えそうになる。


 あまりの用意周到ぶりに逃げたくなる。そしてマクシミリアンはふっと真剣な顔をした。


「少しお話しましたが、今は外交的にも非常に微妙な時期なのです。陛下の具合が悪いことが他国の耳にも入っているらしく、水面下でマスティリアへの攻撃の準備が行われているとか……。そんな状態での王太子の不在。これは由々しき問題でもあるのです」

「それは……確かに、そうですけど……」


 確かに問題ではある。この状況での実質政務を行う王太子の不在。ただでさえそれが露見すれば国民の不安も大きなものであるだろう。


(だけどそれを私に押し付けるって無理じゃない?ってか責任重大すぎる!!)


 だがマクシミリアンは畳みかけるようにセシリアに詰め寄っていった。


「この国の為にも、ライナス様が見つかる間でいいのです。王太子のふりをしてもらえませんか?」

「無理ですよ……私にそんな責任のある仕事、できないです。」

「いいですか、先ほども言ったように10日も王太子不在になるのです。10日ですよ!!そんなに仕事開けてたら、国の機関が滞ってしまいます!!その間王太子が不在だと誰が仕事をするか分かりますか!?」

「えっと……この場合宰相補佐にもなっているマクシミリアン様…ですかね?」

「そうなんです!!通常でも私の仕事は山積みなんです。ただでさえライナス様の言動に気を配らなければならず私の胃はボロボロで…胃薬が欠かせないのです」

「はぁ……」

「だから、私の胃のためにも来てもらいます!!」


(そんなこと知らないわよ!!というかそっちが本心じゃないの!?)


 セシリアは思わず心の中でツッコミを入れる。


「とにかく、そんなバカげた机上の空論は実行するのに無理があります!ね、お義父様もお義母様もそう思うでしょ!?」

「いや、いいんじゃないかな?」

「そうね、セシリアならできるわよ」


(裏切られた―――――)


 笑顔で伝えられた両養父母の表情をみて援護射撃を頼んだつもりが背後から撃たれた気持ちだった。それを聞いたマクシミリアンは心からの満面の笑みを浮かべてセシリアの腕をがっちりと掴んで歩き出した


「さぁ、行きますよ」


(う……嘘でしょ?)


 セシリアはあまりにも急な展開に青ざめる。このままでは本当に王都に連れていかれてしまう。


「ちょちょっと、待って!!急すぎ」

「大丈夫です、全てこちらで手はずを整えますので」

「セシリア、いってらっしゃい」

「ライナスが見つかったら連絡するわね。」


 セシリアはそのままずるずると引きずられ馬車へと押し込まれると、あれよあれよという間に馬車は王都に向けて走り出す。

後ろを見れば手を振る養父母が段々小さくなっていく。



「本当なんなのーー!!馬鹿兄貴―――――!!」


 セシリアは半泣きで叫んだが、その声はランドールの空へと消えていくだけだった。



次回からようやく3年後、冒頭部分に戻ります

長い回想ですみませんでした

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