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俺と少女Aの物語  作者: 野上上
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正解無き答え

序章

~変化~



毎日毎日無気力な生活をしていた。今年で24歳になる。手に職はなく、毎月親の仕送りだけで生きている。俺は財務省の幹部である父と、水商売をしている母の間に生まれた妾の子。父は毎月多額の生活費を送っている。いわゆる口止め料。そのおかげで働かなくても生活には困らないし、働く気なんて全くなかった。

 今日も朝起き、パンをかじり、パチンコを打ち、帰りに牛丼屋で晩御飯を済ませ、帰宅した後に就寝。楽しかったのは最初の一週間だけで、その後は日々気力がなくなり、そして考えることをやめた。

 そんな俺にある日一通の封筒が届く

 差出人不明

一枚のA4紙にびっしりと文字が書かれており、活字を読まない自分には読むのは苦痛だった。普通ならこんなもの読む前に捨てるが、今回は状況が違った。

普段俺は母方の性を名乗っている。もちろん父とのつながりを隠すために両親が行った対策だ。送られてきた封筒もあて名は母方の性で書かれていた。しかし中の紙には一番初めに父方の性で俺の名前が書かれていた。父からの連絡は生まれてから一度もない。顔も直接は見たことないような人だ。

 だから読んだ。期待した。今の自分の現状を大きく変える何かを。実際にその手紙は父からの手紙ではなく父の側近からの手紙だったが、現状を変えるものだった。

 要約すると、働かずに遊んでばかりの自分に職を持ってきた。夜にとある施設の警備をすれば月収30万もらえるという。明らかにおいしい話。普通ならいたずらに思える。ただ財務省を語っていることと父方の性を知っていることからその可能性は低い。そしてこの手紙の最後には、

 “あなたに拒否権はありません。明日迎えが行きますので、身支度を済ませておいてください。なお生活はすべて施設でしていただきますので、必要なものは準備しておいてください”

となっている。拒否権なし。施設の内容に関しても説明なし。今は明日を待つしかない。



 翌日迎えの車がやってきた。14時に差し掛かろうとする時間に。荷物をまとめろと書いてあったので引っ越し業者のようなトラックが来るかと思いきや、黒塗りのセダンが1台来ただけだった。そもそも用意した荷物は小さなキャリーバック一つ分だけだったのだが。

 その車から出てきたスーツを着た若めの男が口を開く。

「お待たせしました。お荷物はお洋服及び小物類までで大丈夫です。家具家電などは寮に置いてありますのでそちらをお使いください。詳しい説明は施設についてから担当からお話があります。」

淡々と、まあるで機械のような物言いに少しイラつきを覚えたが、初対面なのでここは穏便に済ませよう。

「わかりました。荷物はこれだけですので大丈夫です。準備期間が短く、物件の解約などはしてないんですけど大丈夫ですか?」

「問題ありません。解約などはこちらで済ませておきます。もし違約金や家電の処分に費用が掛かってもこちらで負担させていただきます。」

至れり尽くせりなのか?強制連行だからそこらへんは考慮しているのか?よくわからないままとりあえず車に乗り込むことにした。乗ったのは助手席の後ろ側。隣にキャリーバックを隣に置きシートベルトを着ける。迎えの男は運転席に座り車を発進させる。


出発してからまもなく男は告げる

「1時間ほどで施設につきますので、お手洗いや何かあればお伝えください。できる限りで対応します。」

「すいません。お名前をうかがってもよろしいですか?」

自己紹介を済ませてなく、男のことを何と呼んでいいのかわからない。

「失礼しました。私は榊と申します。施設に着いた後、生活に慣れるまでは私がサポートいたします。」

相変わらず機械のように淡々と話す榊。普段から他人と会話などしない自分でもわかる。この人は自分と友好関係を築く気はないのだと。それでいい。人間関係なんて面倒だ。


 今までがそうだった。小中高生の時、俺は家庭環境の関係で友達は少なかった。特に中学に上がってからはひどかった。小学生は親が子供の人間関係に口を出すことが多い。しかし中学、高校と上がるにつれ各々個人の人格が形成される。そしてリーダー格のような人間がクラスという小さな社会の王になり人間関係を作っていく。特にいじめじゃないにしろ、自分の力を見せつけるために必要な標的を決める。こんな過程で生まれた俺だ。もちろん標的にされ、いざこざがあった。周りの人間は強い人間の味方をする。自分が標的にされたくないから。それはわかる。理解はできる。でも親友だと思っていた人間が自分から離れていったのは俺にとってショックだった。家庭のことを知ってても仲良くしてくれて、唯一放課後遊んでくれていた親友だった人間。その時俺の心は他人を寄せ付けなくなった。高校でも同じようになり、俺は一人でることを望むようになった。


「榊さん。これから向かう場所は何をしている施設なんですか?」

手紙にも内容が書かれていない施設。財務省からの連絡であれば民間の施設である可能性は低く、国が管理しているものだと思う。兵器?細菌?表には出せないような実験場?そのような思考が張りめぐらされていた。

「申し訳ありません。お答えすることはできません。施設に関する質問は実際に見られてからしてください。」

その一言以降施設に着くまでは一切会話はなかった。準備でバタバタしていたせいか眠りについてしまった。


起きた時には車はゴルフ場に入り止まった。

「ここで降りていただけますか。その後は荷物を持ってついてきてください。」

“ここはどこですか?”なんて聞いても答えてくれそうにはない。なにか犯罪に巻き込まれるかもしれない。そう思ったが、ここで逃げようにも周りは山でここがどこなのかもわからず、逃げることが無意味だと察した。今はついていくしかない。

 このゴルフ場は人がおらず荒れ果てているため、正確にはゴルフ場だった場所になるのだろう。そして受付カウンターであろう場所で、榊はズボンのポケットから鍵を取り出しカウンター内の床下収納であろう場所のカギを開ける。なんとなく予想はついていたが、そこには地下に続く階段があり榊は“どうぞこちらへ”と中に誘う。小学生であればワクワクするのかもしれないが、20を超えた大人だ。ベタな場所にある怪しい施設だなと冷静に見てしまう。階段の先には指紋認証があり、それを抜けると白い廊下が続いていた。ドラマやアニメでよく見るような地下研究施設だろう。ただ考えてみれば、そんな危なそうな場所に連れてこられて何かされるんじゃないかと不安がこみあげてくるが“ここまで来てしまったのだから”と諦められた。

 榊はある部屋の前で止まると、ドアを2回ノックして扉を開いた。そこには初老の男性がおり、榊は“あとはお願いします”と言い部屋を出た。

「おお!君が新人君だね。そうだね~、監視君とでも呼ぼうかね?」

初老の男性は優し気な感じで、接しやすいという印象を受けた。

「あの、ここは・・・」

そう口を開くと

「いい、いい。聞きたいことはわかる。順番に説明していこうじゃないか。私はこの研究所の所長だ。だから所長と呼んでくれ。ここでは基本的に名前はないものとして扱う。そのほうが何事もスムーズにいくからねぇ。君は今日から監視君だ。拒否権はないよ。所長命令だからね。それで君にしてもらいたいことはいたって簡単。これを見てくれ。」

所長は手元のモニターを指さす。近づいてのぞき込むと、そこには小学生ぐらいの少女がいた。

「この子はここの実験の要になる存在だ。何をしているかは監視君である君には教えられないルールなんだ。君はこの子を監視するのが仕事だよ。時間は20時から翌朝8時まで。長いと感じるかもしれんが、ずっとモニターを見ている必要はないんだ。彼女がここを逃げ出さなければいいだけのこと。片手間にゲームしていようが、テレビや動画サイトを利用していようが、ごはんを食べたり、寝ていようが構わない。君の仕事はあくまであの子が逃げないようにすること。それだけは守ってもらう。早速今夜からと言いたいが、いきなり夜勤はきついだろう?今夜は0時からの監視でいいからそれまで部屋で寝てなさい。それまでは君を案内してきた黒服君に監視を行ってもらうから。」

所長はそう言ってこの施設の地図とカードを差し出してくれた。

「あの、すいません。」

説明中は口をはさむ暇がなかったので、少し質問してみることにした。

「なんだね?先ほども言ったが監視君の君に教えられることはたいしてないと思うよ。」

この時、所長の雰囲気が少し変わりピリピリとした空気に変わったのが分かった。

「欲しいものはどうやって調達できますか?」

色々聞きたかったが、この空気では聞けなかった。その代わりに出てきたのがこんなしょうもない質問。

「ああ、忘れてたよ。いかんな年をとると、物忘れが激しくなるもんでな。」

所長はまた優しげな雰囲気に戻る。

「君にはすまないが、私の許可が下りるまではここを出られないようにしてある。というよりもだ、ここに入るとき指紋認証があったはずなんだが、この指紋認証は出るときにも必要でな。私が外出を認めた者だけ指紋を登録しているんだよ。監視君はすぐにとはいかないが1か月ぐらいしっかりやってくれれば許可は出せるようになるよ。許可が下りるまでの買い物などなどだが、黒服君に頼んでおいてくれ。彼が君の身の回りの世話をするようになってる。お金は心配しなくていい。月10万までなら何でも経費で落とせるから高価なものだけは自分のお金で買ってくれ。クレジットやデビットカードぐらい持ってるだろう?」

「はい。大丈夫です。丁寧にありがとうございました。」

一礼して部屋を出ようとする。

「期待してるよ監視君」

その言葉を聞いてその部屋を出た。

 自分の部屋まではそんなに遠くはなかった。部屋の鍵はカードでロックが開くようになってて、ほかの人のカードで開くんじゃないかと不安だがそんなことをいちいち心配しては気がもたない。謎は多いが教えてもらえないのなら仕方がないとあきらめるしかない。所長も榊も答えてくれないのだから。

 とりあえず寝よう。今は何も考えず、目の前のことだけをやっていこう。そう思いながら深い睡眠に入るのだった。





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