カミングアウト
成績良し、容姿も悪くないはず。でもどこか地味。それが私、宮野礼奈だった。
高校1年生、冬。日が経つにつれて風はどんどん冷たくなってきている。とにかく寒い。
学校まで15分もかからないから、お母さんは車では送ってくれない。この田舎には電車なんてものもない。できるだけ早く歩いて、できるだけ早く学校に着きたい。
「れーえーーなーーぁぁあ!!!」
やばい。何か来る。
ドンっ!!
やっぱりこいつか…
こんなに寒い中こんなに元気なのは、天宮なつき、この子しかいない。
「おっはよー!れーな!!」
「…」
「えー、返事してよぉー。」
「…おはよ」
寒さに圧倒されていた私は、歯をガタガタ鳴らしながら答えた。
なつきはそれが面白かったのか、あははっ!と笑う。
このとおり、私となつきの温度差は激しい。しかし、これでも幼なじみなのだ。
なつきは、私と正反対の性格で、明るく、元気だ。そして顔も可愛い。したがって、モテる。私なんかが一緒にいてもいいのだろうかと思うことがある。
「お2人さーん、おはようございまーす」
「えっ!?真琴くん、いたの!?」
なつきが声を上げる。
「ひでーなー…」
真琴、とは、私の1つ上の兄である。まわりの子は、真琴を見るとキャアキャア言ってるが、外面が他と比べてちょっとイケているだけだ。あとは、普通だ。
…と、思っていた矢先。
授業の休み時間になると、なつきがスタスタと私の机の方へ歩いてきた。
「れいなー?ちょーっと、ご相談があるのですが…」
「どしたの」
なつきの様子がおかしい。
「たぶん、なんだけどね?私、真琴くん好き」
「は」
内心はもっと思っていることがあった。けれど咄嗟に出たのはこの1音だけだった。
「今日の朝、真琴くんに会ったでしょ?そしたらなんか、こう、キラキラーってしてたんだよね、真琴くんが」
ただの太陽光では?
てかそんなセリフ言ってみたいわー。
「ど、どこが好きなの…?」
動揺を隠しきれなかった。
「んー、全部?」
「絶対言うと思った。顔以外にいいところ思いつかないんじゃないの?」
つい毒づいてしまう。絶対もっといい男いるから…
「そんなことないもんっ」
恋する乙女は大変だな。
「で、どうしたらいいの」
何度か、兄に恋した女子に、写真をくれとか、アピールしといて、とか頼まれたものだ。いや、自分で頑張れよ。
「いやいやいや、なにをしてもらいたいとかじゃなくて。ただ聞いてもらっただけだよぉー」
ほう。なつきは新しいタイプだった。ちょっと嬉しい。しかたない、応援しようかな。
こうして、世の少女漫画ではヒーローとヒロインが「初詣、一緒行かない?」とか言っているこの時期に、恋愛経験0の私は、恋愛経験100のなつきの新たな恋を、応援することになったのである。